加盟大学専用サイト

特集・連載

私大の力

<54> “産業のコメ”復活で連携
「半導体」生産の拠点化
北海道・九州に注目

平山一城

■産官学の「コンソーシアム」が各地に

 政府が、国策として半導体産業の基盤強化を打ち出したのに伴い、各地の大学が相次いで半導体人材の育成に乗り出している。
 1980年代、「日の丸半導体」として世界を席巻した日本の半導体だが、現在のシェアは10%以下にまで落ち込み、人材の空洞化も深刻化している。
 そこで、日本の"産業のコメ(米)"とまで呼ばれた産業の復活を急ぐ必要があると、政府が一丸となって、各地に大学・産業界を結集した「コンソーシアム(連合体)」の形成を本格化させている。
 なかでも注目は、北海道と九州に置かれた新拠点だ。北海道では、千歳市に最先端半導体の国産化を目指す「ラピダス」を中心とした研究開発・量産拠点ができ、九州では熊本県に進出した「台湾積体電路製造(TSMC)」が1年前から量産を開始している。
 いずれも、地元の国立大が中心にはなるが、北海道では北海道科学大や北海学園大、九州では、熊本市の崇城大はじめ福岡工業大、久留米工業大などもコンソーシアムの一員として存在感を発揮する。
 各大学は、たとえばTSMC進出に合わせて台湾の大学との連携、あるいはサプライチェーン強化と、それぞれ異なる役割を担いながら、官民一体での人材育成や産業基盤のシステム構築を進める。
 次世代半導体の生産は、国の産業競争力や経済安全保障に直結することから、文部科学省も「半導体エレクトロニクス推進室」を設置しているが、業界の試算によると、専門人材は今後10年間で4万3000人の追加が必要という。
 北海道では理工系学生の7割が道外に就職すると言われてきた。地元の製造業が手薄で、十分な雇用や待遇を提供できる企業が限られていたためだが、ラピダスの進出は理工系学生を道内に留めることが期待される。
 熊本では、TSMCの工場に材料を供給する関連企業などが続々と進出している。これにより当面、年間1000人規模の関連人材の需要が見込まれるという。
 地方の私立大が進学者数の減少による厳しい経営環境にあるなかで、半導体人材を育てるための産官学の連携がどのように推移するか注目される。

■台湾の大学と連携し、インターンも

 福岡工業大は2024(令和6)年度から、台湾の明新科技大と単位交換型の「半導体エキスパート育成プログラム」を始めた。まず「初級編」として、工学部電子情報工学科の学生たちが1週間の日程で明新科技大へ短期留学している。
 「上級編」の長期留学(1年間)は早ければ来年度にも開始され、志望する学生たちは語学力などを磨いているという。
 ホームページによると、明新科技大は台湾北部にあり、台湾のシリコンバレーという「新竹サイエンスパーク」にも近い。2021年に台湾初の「半導体学部」を設立した。
 半導体の製造工程で「後工程」と呼ばれる組み立てや、試験・検査に特化した人材を育てており、政府や企業から支援を受けて、実際に企業が使用するものと同じ最先端の半導体製造ラインも備えている。
 福岡工大では「九州ではいま、TSMCの熊本進出に加え、台湾の半導体後工程受託の最大手、日月光投資控股(ASE)が北九州市での工場建設を計画するなど海外企業の進出ラッシュがある。本学は明新科技大と協力し、台湾の現地企業と協力したインターンシップ(就業体験)などを通じて、実践的かつ質の高い教育プログラムを学生たちに提供し、九州に進出する台湾企業で活躍できる中核人材を育てる」とのメッセージを載せている。
 九州の半導体産業は7県合わせて108件、4兆7500億円を超える投資計画が進行中といわれ、経済産業省の九州経済産業局は「先端半導体の世界拠点」を目指して、産官学で構成する「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を設立している。
 崇城大(熊本市西区)では昨年10月、設立から30年となったエネルギーエレクトロニクス研究所を新体制で再始動した。環境エネルギー問題の解決と半導体産業の発展に貢献する最先端研究を推進し、「熊本から世界へ」次世代エネルギー技術を発信する研究拠点として新たな歩みを始めている、という。
 久留米工業大も、「コンソーシアムの一員として産学官連携を図りながら、これまでに培ってきたものづくり教育の強みを活かした半導体人材育成に取り組んでいく」という。
 一方、北海道のラピダスは2027(令和9)年には国産の最先端半導体の量産開始を目標としている。
 ラピダスの工場建設が軌道に乗った2023年6月、北海道経済産業局を主体に「北海道半導体人材育成等推進協議会」を発足させ、道内に拠点をおくメーカーや業界団体のほか理工系学部・学科を有する国公私立大6校と4つの高等専門学校(高専)が参画して活動している。
 実際に、ラピダス進出を受けて協議会には、各大学を卒業して道外に出ていた人たちから道内へのUターン・Iターン転職の相談も多数寄せられた。高校生からは、道内の理工系大学の特徴や半導体関連の研究内容などについての問い合わせも増えているという。
 このため、北海学園大や北海道科学大などでは、半導体関連分野の専門家の増員やカリキュラムの充実を加速させている。
 北海道科学大は、文科省が昨年夏に選定した全国7拠点の「半導体人材育成拠点形成事業」の北海道地区の「連携校」に採択されてもいる。
 この事業では北海道大が拠点校となり、9つの大学や高専が連携校に選ばれた。来年度から「半導体を『つくる』『つかう』『つなぐ』人材の育成に向けたプログラム」のメッセージを掲げて共同研究を進めることになった。
 北海道科学大は、2024年に創立100周年を祝った札幌市の歴史ある私立大として、電気電子工学科を中心に「これまで培ってきた経験や技術を北海道の地に還元する」をモットーに事業開始の準備を進めている。

■来年度から全国7拠点の事業とも連動

 その半導体人材育成拠点形成事業は、全国各地の7拠点で実施することを目指し、計16億円の予算を確保して公募を行った。
 東京科学大が全体を統括する運営拠点校を担い、北海道大や九州大、熊本大など大規模な拠点化が進むエリアも含めて、各地に拠点校となる大学を選定して、5年計画で域内の連携校と教育プログラムを共有し、ネットワークを作っていく。
 東京科学大を拠点校とする関東エリアのプロジェクトでは、東京理科大と横浜国立大が連携校に選ばれている。
 7つの拠点では、それぞれ域内の大学の強みや地域特性を活かし、大学院修士レベルを中心に実践的プログラムを展開し、設計から製造、社会実装までを担える高度人材の育成を目的としている。
 現在、世界的な開発競争の主戦場は、回路線幅2ナノ・メートル( は10億分の1)の次世代半導体であり、北海道のラピダスもこの量産技術の確立を目指す。これまで、日本が生産してきた半導体は40から90が主流だが、最新のスマートフォンやAI(人工知能)に使う9以下の半導体の60%以上は台湾で生産されている。
 最近の日本は、半導体の生産面では「10年遅れ」とも言われるが、しかし半導体製造装置や半導体部素材は現在も、それぞれ30%超、50%弱の世界
シェアを持つことから、こうした技術をからめた生産体制の立て直しが急がれることになる。

■地方大の未来を切り開く挑戦に期待

 7つの拠点化事業には連携校も含めると64校の応募があり、地域的なばらつきも踏まえて延べ41の大学や高専が選定された。担当者は「今回選定されなかった大学も含め、各地域で地域特性を生かしどのように連携していくか考えたい」と話している。
 新型コロナウイルスの流行を契機に急速に進んだデジタル化やAI、第5世代移動通信システム(5G)をはじめとする技術革新の加速、各国・地域での経済安全保障への取り組み強化などから、世界的に半導体の重要性は高まる一方だ。
 文科省は、半導体関連の教育拠点の枠組みを作る地域には、都道府県をまたいだ広域の連携も認めるという。中核となる大学と、他の大学や高専など複数の教育機関が協力して育成プログラムを作成し、域内にある半導体製造企業のほか、材料メーカーや装置メーカーなどの関連企業から講師派遣を受けたり、学生のインターンを実施したりする。
 こうした先端技術での大学間連携が、地方の大学運営にどのような影響をもたらすか。研究開発拠点の整備や人材育成の推進により、各地域から新たなビジネスやサービスを創出することが、地方大の未来を切り拓くひとつの挑戦になることは間違いないだろう。