特集・連載
私大の力
<41> オープンキャンパス
「探究型」が問うもの
「年内入試」一層の加速化か
■学生との「ミスマッチ」防止の効果も
新年度が滑りだして、「オープンキャンパス」のシーズンがやってきた。従来は、各大学の入試説明会を兼ねた「お祭り的なイベント」というイメージが強かったが、最近はその様相がだいぶ変化している。
その代表格が「探究型」と呼ばれるオープンキャンパスだ。
受験生にとって、大学を選ぶうえで心配なのは「自分の学びたいこと」をどう見つけるかだろう。だが、高校2年生までに自らの進路の軸足を定めるのはなかなか難しい。
高校の学習指導要領で「総合的な探究の時間」が必修化されて以降、さまざまな探究プロジェクトに取り組む生徒も増えてきたが、その成果を大学受験にどう活かすかも苦労するところだ。
一方の大学側にも、受験生の志向との「ミスマッチ」を回避しようと、自らの大学での学びを体感してもらうようなプログラムが増えた。「やりたいことがわからない」という高校生には大学の授業のイメージをつかんでもらい、高校で取り組んだテーマを持つ生徒にはそれに沿ったアドバイスをする。
そんな、より深化した大学と高校生の交流の場を目指す。そこに「探究型」オープンキャンパスと呼ばれる所以があるようだ。
最近の大学入試では、総合型・学校推薦型といった「年内選抜」が増えている。なかでも総合型選抜では、受験生の探究心に応じて評価をし、スムーズな高大接続につなげる傾向が強まっている。
高校の「総合的な探究の時間」では、探究テーマと自らの進路の方向性を結びつけることが大切とされ、自分の関心の延長上に大学での研究テーマを見つけようとする生徒は、「探究型の入試」に対応しやすいとも言われている。
最近は大学側でも、一方的になりがちな授業方法を改め、地元企業や自治体と協力して「社会連携型」の学びを強化する動きが目立つ。少子化のなかで生き残りをかける大学が、それぞれの特色、立地する場所の地域性をアピールすることも重要になっている。
とくに私立大は、その地域性に沿ったそれぞれの「建学の理念」を掲げている。オープンキャンパスの在り方を充実させることは、自らの大学の独自性を広く知ってもらうための大切な機会ともなる。
■「総合型選抜探Q入試」に込めた狙いは
東京家政学院大学(東京都町田市)のホームページには、この大学が全学部で実施している「総合型選抜探Q入試」の手続きの流れが紹介されている。
受験生はまず、オープンキャンパスで5つある探究型の体験授業に参加する。その後、ワークシートに応じて課題が課され、その内容を面接で問うという手順で入学まで進むことができるという。
その5つは、学科探究型(志望学科の特色をとことん探究)、自己探究型(自分自身や興味のあることをとことん探究)、学び探究型(興味のある分野の学びをとことん探究)、課題探究型(与えられたテーマや課題図書をとことん探究)、探究活動報告型(高校時代の探究活動をとことんアピール)に分類される。
このなかで受験生は「指定されたオープンキャンパスで実施する『学科紹介』に参加し、ワークシートの表(おもて)面を作成しながら志望学科に対する理解を深め、面談などで入学したいという意欲をアピール」する。
たとえば、現代家政学科では、まず6月末に千代田区三番町で開くオープンキャンパスに参加し、配付される「学科紹介ワークシート」の表面を作成する。ワークシートの作成を通じて、この学科の学びに興味・関心を持った生徒は、自宅でシートの裏面を作成して、エントリーに進む。
8月半ば、このワークシートなど必要書類を添えてエントリーすると「面談」があり、大学側は「出願」の可否を判定、9月初旬には結果を受験生側に知らせる。出願許可を得た受験生は期限内に出願書類を郵送する、という流れになるという。
代々木ゼミナールによると、オープンキャンパスを活用した入試には、高校での探究活動やそのプロセスから得たものを評価する「実績・プロセス評価型」と、大学と連携した探究活動の成果を評価する「高大接続型」が見られるという。
そのホームページには、東京家政学院大とともに、「オープンキャンパスに参加し、事前に提示された課題論文を作成しプレゼンテーションを実施」する群馬医療福祉大学や、「オープンキャンパスで特色ガイダンスへの参加を求め、そのうえで小論文やグループ討議を通じて探究心を問う」関西福祉大学が紹介されている。
■自分の道、偏差値や知名度に偏らずに
先月の朝日新聞デジタルには、創価大学、東京都市大学、武蔵野美術大学の3つの大学の「探究型オープンキャンパス」が紹介されていた。
武蔵野美術大は大学生と高校生がチームを組んでアイデアを形にするオープンキャンパスを2021(令和3)年からオンラインで、東京都市大では、約3か月にわたる探究学習イベント「オープンミッション」を22年から実施している。課題を自由探究して、教員や大学生からアドバイスをもらいながら、成果発表まで取り組む。
修了証明書は総合型選抜での提出資料として利用でき、オープンキャンパスとの2本立てで多くの高校生を迎えている。
創価大の探究型オープンキャンパスのメインテーマは「国際協力につながる大学での学びとは?」で、高校1、2年生が対象だ。サブタイトルを「あなたの『推し学』『推し職』が見つかる!」とし、自分の好きなことを発見して学びにつなげてもらうという。
企画広報課の平澤竜一は「ワークショップ形式で、1枚の写真から課題を見つけて話し合い、意見を集約し、発表してもらいます。国際協力の現場で働く卒業生も参加し、プロの立場からの意見や、本学での学びや卒業後の具体的なキャリアパスについても話が聞けるので、高校生にとっては得るものが多い1日になると思います」と語っている。
同型のオープンキャンパスは今年も5月と8月に予定しているが、高2の時に参加して今春入学した古閑博美は「初めは国際協力というテーマに引かれたが、プログラムを経験したことで自分の関心に変化が生じ、目指す進路を小学校教員に決め、教育学部に進学しました」と話している。
平澤は「参加者に古閑さんのような変化をもたらすことがプログラムの狙いです。ほかの人と対話することで、高校生のキャリアに対する意識に変化が起きます。自分が本当にやりたいことは何なのか、という自分への問いです。大学を選ぶ際には、偏差値や卒業後の就職先といった外的要因だけではなく、自分の内なる希望を大切にしてほしい。内なる希望がこのプログラムで揺さぶられ、揺さぶられることによってその強度が上がると考えています」と説明している。
■「年内入試で優秀な学生が獲得できる」
従来、大学入試の中心だった一般選抜での入学者は減少傾向にある。探究型オープンキャンパスの増加は、総合型選抜・学校推薦型選抜を活用することで、「年内入試」による入学者選抜の割合を高めたいという大学側の思惑が働いている。
オープンキャンパスを積極的に高大接続のツールとすることで、成績や大学の知名度だけで志望校を決めた場合に起きやすい「こんなはずではなかった」という受験生とのミスマッチを回避する効果も期待できる。
東京都市大では、年内入試の選抜方法の見直しを重ねてきた結果、「入試方式と入学後の成績の間に相関はなく、年内入試でも優秀な学生を獲得できている」ことが判明したという。年内入試で不合格になった受験生が一般選抜で再受験する割合は低く、入試制度は学生のタイプを仕分ける仕組みになっている。
入試部長の菅沼直治は「年内入試には学力の低い層が集まるという先入観は持たず、特性に応じて多様な入学者を受け入れるという考え方にシフトすることを目指して教員の理解も深めてきた。その結果、高校の探究学習を支援しながら総合型選抜の出願にもつなげるシステムの実施に賛同が得られた。納得いくデータと理論によって入試制度の改善ができている」としている。
探究的な学びにシフトしていくことを目指した学習指導要領の実施によって、高校の現場では、探究学習の指導方法を模索するなかで、教員派遣を含めた地域の大学との連携の動きが各地で拡大している。全国に立地する私立大としては、これを地域ごとのリソース(知的資源)として活用し、建学の理念を受験生に知ってもらうチャンスと捉えたい。
積極的に地元産業界や自治体とも協力して、高大接続のための探究学習の深化を図っていくべきだろう。