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私大の力

<37> データサイエンスをビジネスに活かす
地方の「核」大学こそ支援を
「在り方」部会を問う 能登地震で再編拍車?

平山一城

■人口推計でも北陸地方は厳しい現状

 元旦に起きた能登半島地震は、北陸地方を中心に広い範囲で甚大な被害をもたらした。これから入学試験のシーズンが本格化するだけに、大学の施設や受験生への影響が少ないことを祈らずにはいられない。
 私立大学の関係者にとって今年は、「少子社会の高等教育」(本紙新春特集号新春座談会テーマ)の在り方、とくに都市部と地方の再編論議が控えているだけに、心おだやかではない。
 少子化問題では昨年末、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計人口が発表され、大きな話題になった。50年後、日本の総人口は約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。
 30年後でも約2100万人減って、1億468万人になる。東京都以外の46道府県はすべて減少する。とくに、秋田、青森、岩手、高知など11県では3割以上減少すると予想されるが、今回の地震で大きな被害を受けた新潟県も含まれる。石川、富山、福井の北陸各県もそれに近い減少率となっている。
 人口減少で社会の担い手が減れば、活力が失われ、地域が衰退してしまう。道路や上下水道などインフラを管理することが難しい。これに災害が加われば、なおさらだ。
 昨年、中央教育審議会大学分科会が「高等教育の在り方に関する特別部会」を設けて審議入りした背景には、「人口減少に対策を打たなければ、日本は衰退してしまう」との危機感がある。
 今回の能登半島地震が大学分科会の審議にも影響することは必至だろうが、では、この危機にどうすればいいのか。日本が世界から取り残される、そんな事態だけは何としても回避しなければならない。
 昨年末、大学分科会長の永田恭介(筑波大学長)は、自ら部会長を兼ねる特別部会の審議について、国公立と私立の役割分担を念頭にしつつも、「都市部と地方とを同じように論じることはできない」とし、次のように語った。
 「少子化の激しい地域でも、高等教育を受けるチャンスが損なわれてはいけない。大学は地域の核であり、地域の存亡は大学にあるという観点からみても、バランスのある対策が必要で、国公私立の協力関係が必要になると思っている」
 災害大国の日本であればこそ、「知の拠点」である大学を戦略的に活かし、国の成長につなげていくことが重要になる。今年は、地方大学が結束して、危機対応を図っていかなければならない年になるだろう。

■首都圏含め短大の募集停止が相次ぐ

 昨年は、日本の高等教育の一翼を担ってきた短期大学での募集停止の発表が相次いだ。
 短大は戦後まもない1950(昭和25)年に制度化されたが、文部科学省の調査によると、短大・短期学部の2021(令和3)年度の学校数は317校で、30年前の592校に比べて約半数になった。短大生は84%も減少、新潟県では7割も減っているという。
 日本私立学校振興・共済事業団の今年度の集計では、私立短大の実に92%が定員割れという状況だった。最近の募集停止の発表は地方に多いが、首都圏でも上智大短期大学部(神奈川県秦野市)など定員割れがつづくことを理由に、25年度以降の募集をしないと表明している。
 とくに女子の高等教育を支えてきた短大だが、加速する短大苦境は少子化だけでなく、学生の「4年制志向」や「共学志向」も背景にある。
 「学生のまち」京都では、龍谷大短期大学部や池坊短大が25年度以降の募集停止を発表した昨年4月、京都女子大学が「データサイエンス学部」を開設して、変化する社会のニーズに応えようとする改革で注目された。
 学長の竹安栄子は本紙新春特集号(1月1日)の座談会に参加して、「新学部では、データサイエンスの基礎をきっちりと丁寧に教え、進化の激しい分野でも女性が息長く活躍できる教育を構築したい。女性は文系という旧来のイメージを払拭したい」と語っている。
 この学部では、課題解決に向けて適切なデータを収集・分析・活用するスキルを身につけるための文理融合型プログラムを導入しているが、デジタル系や工学系などの学部新設の動きは各地の女子大で見られるようになった。
 都市部と地方との関係について竹安は、「私は地域社会学が専門で、地域創生を考える研究をしてきたが、これからは私立大学こそが、それぞれの建学の精神に基づいて『地域性』という重要ファクターを磨くことが大切になる。東京中心でモノを考える人間だけでは国を維持することはできない」と述べていた。

■地方でも「都市部」へ移転の動き加速

 もう1つ注目されるのは、地方の大学のなかでも、少子化の直撃を受けて都市部へ移転する傾向が出てきたことだ。
 北海道当別町の北海道医療大学は昨年、5年後をめどに札幌市に近い北広島市のプロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地「北海道ボールパークFビレッジ」内に移転する、と発表した。
 産経新聞によると、移転するのは教育機能と大学病院などの医療機関で、総合グラウンドと一部施設は部活動や集中講義で継続して使用する方針が示されたというが、当別町では、地元を支えてきた存在の突然の移転発表に困惑している。
 大学の理事長、鈴木英二は移転後の施設の取り扱いについて「売却と賃貸の両面で検討中。2年後には一定の方向性を示したい」と語り、町側とは文化・経済の両面の損失軽減に向けた協議会を立ち上げているという。
 この記事は、「同じような出来事は各地で起きている」として、徳島文理大や奈良学園大のケースを紹介していた。
 これについて、リクルート進学総研所長の小林浩は「大学の都市部移転が進む背景には人口減少がある。今後はさらに、人口ボリュームのある場所への移転か、オンラインなどデジタル技術を活用した教育を行うかの2つに特化していく方向に分かれるのではないか。多様な学生が集える環境づくりとともに、地元に価値を作れるかどうかも大事なポイントになる」とコメントしていた。
 一方で、県立大学の新設を計画している佐賀県では、その必要性をめぐって知事の山口祥義(よしのり)と県議会側との協議がつづいている。
 サガテレビの報道によると、昨年末の県議会で山口は「4年制私立大が1つ(西九州大学)だけの佐賀県には、地域の成長には欠かせない社会インフラとして県立大が必要」と述べ、改めて設置の必要性を強調した。そのうえで、年間の運営費16億円は国の地方交付税と授業料でほとんどがまかなわれ、県の実質負担額は2億円とし、「万が一、交付税を削減されても極めて優先度の高い支出として必要な予算は確保する」との考えを示した。
 大学新設の費用対効果を試算する必要性を問われると、「大学はソフトの塊(かたまり)であり、教育効果などを経済的価値に換算することはできない」と述べたという。

■地方大は戦略的な成長に欠かせない

 昨年末の大学分科会で、日本私立学校振興・共済事業団理事長の福原紀彦は「各地からの事業団への問い合わせが急増し、忙しくなっている」と語り、各大学が自らのガバナンスを真剣に考える傾向が高まっていることを示唆した。
 同時に「相談を受けていると、各地域において教育・研究のリソース(資産)を積み重ねてきた大学の存続を、単に定員充足率だけで判断していいものか、考えさせられている」とも述べて、地方大学の「知」の拠点としての重要性にも言及した。
 人口減少を招いた日本は当面、この社会の負荷を背負って進むことになる。大学分科会長の永田は「国力を維持するには、国民1人ひとりが『より高い知』を獲得して、日本の『知の総和』の減少を食い止めること」として、高等教育の充実方策の検討に入ることを表明している。
 一方、各委員からは「大都市の大阪でもすでに人口減少が始まっており、東京への一極集中が地方を弱らせている面を見逃すことはできない」「東京周辺でも、短大を中心に非常に厳しい状況が見られる。都市部と地方とともに、大学の規模別に考える観点も必要だ」といった意見が出された。
 避けられない少子社会には、それに太刀打ちできる戦略性がなければならず、経済成長を維持するためには、各地域のバランスある発展を下支えする地方大学の「知」の拠点としての重要性を忘れてはならない。
 能登半島地震の発生は、こうした大学再編の議論にどう影響していくだろうか。
 日本の戦略的な成長モデルの転換には、地域に根付いた私立大学の存在が大きいことを再認識することを求めたい。
(敬称略)