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地域共創の現場 地域の力を結集する

<27>岡山商科大学
“地域と呼吸する大学”目指す
企業向けのワークショップが好評

岡山県は、古代日本で有力だった吉備国(きびのくに)から続く歴史の表舞台であり、多くの遺跡が出土する地域である。その歴史的経緯から県内は美作(津山)、備前(岡山)、備中(倉敷)の3地域に分かれ、それぞれ特色がある。県北は果物など農業、県南は水島臨海工業地帯など工業が中心。また、年間降水量1ミリ未満の日が全国第1位、災害が少なく温暖な気候である。一方、他県と同様、特に中心市街地から離れるにつれ少子高齢化が進む。社会科学系に特化した岡山商科大学(井尻昭夫学長、法学部、経済学部、経営学部)は、岡山県全域で地域共創を行う地域に根差した大学である。大﨑紘一産官学連携センター長、中村 裕産学官連携センター課長補佐、中川尚子産学官連携センター課員にその取り組みを聞いた。

●自治体との連携

 岡山商科大学が本格的に産学連携に乗り出したのは、井尻昭夫学長が2007年に産学官連携センター設置に伴い大﨑教授をセンター長に任命してからである。大﨑センター長は、岡山大学で工学部長、地域共同研究センター長を歴任し、工学分野の産学連携を多く手掛けていた。「産学連携を進めて欲しいと井尻学長に言われ大学に来ましたが、理工系と人文系では全く状況が異なりました。理工系だと大学の「技術シーズ」と企業とのマッチングが連携の基本ですが、社会科学系だと、企業のコンサルティングという形になり、私が行ってきた「産学連携」とはずいぶんと異なりました」と振り返る。
 ちょうどその頃、瀬戸内海に30もの諸島を有する笠岡市のNPO法人かさおか島づくり海社から笠岡諸島活性化の依頼があった。この依頼を丁寧に調査し報告。大変喜ばれた。これが縁となって、教員が島嶼部以外の調査に協力したり、市関係者が委員となり、大学の地域活動へ助言するなど、大学と市の間に交流が生まれた。「この体験から社会科学系における産学連携の方向性が見えました。「産」学連携ではなく、自治体との連携こそが重要ではないのか、と」。
 大﨑センター長は自治体との包括連携協定を広げ、自治体の課題解決に注力していく。「自治体職員から相談を受けると、まずは包括連携協定を提案します。協定を結べば事業を行う際、担当部局にも話を通しやすくなります。意欲のある首長がいる自治体は打診から一か月ほどで協定が締結できます。現在は八市町村と結んでいます」と中村課長補佐。その市町村とは、新庄村、笠岡市、瀬戸内市、岡山市、備前市、津山市、真庭市、和気町である。
 一般的に県庁所在地や大きな市街地から遠く離れた自治体の危機意識は高い。つまり、大学との連携も熱心で動きも速い。この大学の現時点の包括連携協定先を見れば、岡山市と隣接する自治体よりも県境に位置する自治体に多いようにも見える。なお、大学では2005年から新庄村長からの依頼を受け調査を行った前例もあったが、この村は鳥取県との県境に位置する。
 自治体との取り組みは、「フィールドスタディ」という名称で正課授業やゼミ活動として学生が取り組み、年間30近くのプロジェクトが展開される。多くは社会科学系の大学らしく、学生による観光や産業、マーケティング調査等であり、学部の専門領域と密接に結びついている。そのほか、ユニークな事業に次のようなものがある。

●地域、信用金庫とも連携

 美作市海田地区とは、伝統的番茶製法と茶畑景観の保存に取り組む地元団体の番茶製作イベントへの協力、袋詰めした番茶を学園祭や近隣イベントで販売を行った。この番茶は非常に好評でファンも多く、地域で広く買われている。
 笠岡商業高等学校とは、同高校生と大学生が笠岡諸島ツアーを企画したり、中学在校生が一人となった同市真鍋島の小学校、中学校、公民館の合同運動会に学生が参加したりと高大連携を推進している。
 真庭市からは、高齢化により神輿の担ぎ手がいないとの相談があり、「社祭り」の運営に協力。地域の人と共に他大学の学生と混じって、巫女役や神輿を担いで回った。久しぶりに四つの神輿が出せたことで、地域の人たちは大感激したという。
 地元印刷会社の西尾総合印刷株式会社とは、子どもに金融教育を行う「キッズマネー教室」を開講し、児童を対象とした生活の記録帳などを開発。岡山市の全ての図書館に納入した。
 岡山市とは、「持続可能な開発のための教育(ESD)」で連携している。大学が立地する京山地区の京山公民館は、全国的にESDで有名である。大学はこの活発な取り組みに協力し、特に留学生の多さを活かして国際分野で盛り上げている。「ESDの主要なテーマはサステナビリティ(持続可能性)。「商業における持続可能性」とは何かを考え続けました。それは企業が存続することに他なりません。そのためのマネジメントであり、マーケティングです。これを学問的にどう構築していくかが本学のアプローチです」と大﨑センター長。
 自治体側は自らの課題に合わせて複数大学と協定を結び、様々なイベントに職員を派遣して情報収集を図る。複数の自治体、複数の大学がクロスして協定を結び、それぞれ地域活性化を行う。
 自治体以外の大きな存在が、おかやま信用金庫である。この信金は、岡山を中心に広く展開している。「大学とはファイナンシャルプランナーの養成で繋がりがあったことから、2007年に包括連携協定を結びました。早い時期から地元企業を集めて「おかやましんきんビジネス交流会」を行っており、現在は遠く香川県や鳥取県からも参加し、500社を超える企業、1万人を超える参加者が来場するまでになっています。ここに大学としてブースを出させてもらうことで、産業界の幅広い企業と繋がりができています」と中村課長補佐。

●地域に寄り添う大学

 大学は、あくまで自然体で学生と共に地域の中に入り込む。その先では地域の人たちから気軽に相談され、新しい事案を抱えて大学に戻ってくる。担当できそうな教員に振ることもあるし、場合によっては他大学に問い合わせることもある。「一部の教員は、依頼は全て断らないよと言ってくれています。負担が大きいことは事実ですが...」と中川課員。そうやって様々な連携事業が行われると、うわさを聞きつけて近隣の自治体から問い合わせがある。そうして広がっていく。「地域貢献というと、大学が何か一方的に地域にするようなイメージもありますが、そうではなくて、あくまで地域が主体です。そこに地域と一緒の目線に立って取り組んでいきます」と中村課長補佐は述べる。小規模大学であるため、大学側から地域を活性化するための事業を次々と仕掛けることは難しい。あくまで地域側からの呼びかけに応え、学生も一緒になって地域の人々の気持ちに少しずつ熱を帯びさせ、内発的な取り組みを促していく。従って、具体的に「大学がこれをした」、「大学がこういう事業を行っている」とは言いづらい。あくまで企画のアイデア段階で共に議論し、課題を見つけていく時にこそ、大学としての強みが発揮される。これを「寄り添い型」というユニークなコンセプトにまとめ、このたび文部科学省の「私立大学ブランディング事業」に採択された。
 「寄り添い型」は、地域からも喜ばれている。「学生さんが一緒にやると意見を出しやすい、楽しい、という声を頂きます。学生、教員、職員、3者の視点を持てるのも大学の強みですね。逆に、大学が何かをするときはいつでも力になりますよ、とも声をかけて頂いています」と中川課員。他大学に比べて敷居が低く感じてもらっているともいう。寄り添い型の効果である。「産学連携センターを作って試行錯誤をしてきた集大成が、このたびの採択に繋がったと感じます」と大﨑センター長も胸を張る。

●社会人向けのプログラム

 この大学から得られる知見は三つある。  一つ目は、社会科学系大学の地域連携の位置づけの明確化である。大﨑センター長は、岡山大学工学部で長年、産学連携を行ってきたからこそ、「理工系と人文系の違い」を明確にし、双方にあるものとないものを整理し、笠岡市との連携事業という経験から、「社会科学系における地域連携は、自治体との連携である」と位置付け、商業商科大学らしくビジネス化を模索している。まさに地域連携のミッションは、地域と大学がWin-Winの関係になることである。そのためには明確な成果の基準や数値化も必要となる。これらは大﨑センター長がもともと工学で実績を残していたことが大きいのではないだろうか。こうした姿勢は、各自治体の首長も評価しており、新庄村は大学のためにテレビ会議システムの設置を受け入れている。
 二つ目は、信用金庫との連携である。信金はその性格上、多くが小規模であり、活動エリアが限られている。だからこそ地域への熱意と危機感は高く、先述した地域に根差した取り組みを行う。これは同じく地域志向の私立大学と相性が良い。最近は「産官学金連携」という言葉も聞くが、「金」を担う地域の信用金庫との強い連携は、大学の地域活性化の可能性を広げてくれるに違いない。また、大学にとっては学生の就職先でもあり、フェアなどには、大﨑センター長のほか、就職担当者も参加する。「とにかく、地域内での大学の知名度を上げるのに、非常に役に立っています。大学の取り組みは、口コミが一番重要ですので」と中村課長補佐は述べる。
 三つ目は、社会人教育である。この大学は企業向けにワークショップを行っている。当初は商工会議所との共催だったが、個別企業から開催の依頼があり、現在は有料で実施している。すでに昨年は10回の開催を超えた。
 これ以前には「講座形式」の企業向けの教育を行ったが成果はあまり上がらなかったというが、恐らく多くの大学で「講座形式」は同様の惨状だと思われる。政府の「人生100年時代構想会議」では、リカレント教育に大学の役割が期待されているが、企業社員向けのプログラムにおいては、従来の「講座形式」ではなく、この大学のように「ワークショップ形式」が望まれているのかもしれない。この中に学生も参加すると、思いもよらないアイデアが出てきて重宝もされる。更に、新発想が出やすいようにと仮装して行うなどの工夫もしているという。こうしたワークショップでの議論の中で専門知識などが必要となった時、改めて「講座形式」が求められる。そして、これは企業のみならず行政職員にも効果的であるはずだ。
 これはつまり、アクティブ・ラーニングである。まさに現在、18歳の学生向けに各大学が四苦八苦しているアクティブ・ラーニングこそが、実はリカレント教育でも求められているのではないか。ここ数年で教員が四苦八苦して身に付けた「アクティブ・ラーニング」スキルが、社会人教育でも活かせると言える。
 岡山県内では、地域で頑張る社会科学系の大学として認知されてきた。フィールドスタディに参加したいという大学志願者もいる。逆に、笠岡市のNPOに就職した者もいるように、じわじわと地域の人材を地域に帰す循環ができ始めている。大学は私立大学ブランディング事業の数値目標に、「地域と呼吸する大学」の認識度70%を盛り込んだ。
 「本学の産学連携の型が決まり、自治体と共にまずは小さくてもやってみる、そこから動いてみることを始めました」と大﨑センター長が述べるように、重要なのは動いてみること。そこから生まれたものに商学や経営学、経済学、法学といった学問的な意味づけを行い体系化していく...。岡山商科大学は、地域に寄り添いながら、また大学も地域に支えられている「地域の大学」である。