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特集・連載

地域共創の現場 地域の力を結集する

<26>摂南大学
職員も企図する地域連携教育
「和歌山で頑張る大阪の大学」として認知

和歌山県は、紀伊山地の西南部に位置し山地が約8割を占める。その特徴から古来より神社信仰に熱心で、熊野古道は世界遺産にも指定されている。紀南の海岸沿いに水産業や林業が、紀北には工業地帯があるが、最近では全県的に観光に力を入れる。人口は京阪神地区に流出しており、減少傾向である。大学数が少ないため、県は大阪府など県外の大学が地域とともに地域課題の解決に向けた協働活動を行いながら、継続的に交流することを促進する「大学のふるさと」制度を開始。2014年よりこの制度を活用してすさみ町、由良町と包括協定を結んだのが、大阪府寝屋川市と枚方市にキャンパスを置く摂南大学(八木紀一郎学長、法学部、外国語学部、経済学部、経営学部、理工学部、薬学部、看護学部)である。総合大学として、研究開発をはじめ、様々な地域貢献を実施している。このたびはこの和歌山での地域連携活動について、研究支援・社会連携センターの小出修嗣担当課長、古屋豊吾係長、教務部教務課の江島修一係長に話を聴いた。

●片道5時間の町と連携

 摂南大学は、2006年に「地域連携センター」を設置し、立地する北河内地域を中心とした学生の実践活動を支援してきた。2009年10月、教室以外の新たな学習フィールドを探していた浅野英一外国語学部教授に、寝屋川市と友好都市であるすさみ町から、「過疎地を若い学生の力で元気にしたい」との強い要請があり、活動エリアを和歌山県すさみ町へと拡大した。
 2010年に包括連携協定を締結、「すさみで頑張ろう隊(掃除・ペンキ塗りなどを行う)」、「すさみで学ぼう会(自然科学教室など)」等の「PBL型学生プロジェクト(正課科目)」がスタートする。他にも学生食堂にすさみ産の野菜を供給する「農業プロジェクト」、大阪の小学生を引率した夏休みの「忍者キャンプ」等、農業、ふるさと創生、観光をテーマに取り組んできた。また、町のイベントの運営協力や、「なんでもやる隊」による独居高齢者宅訪問、220年以上続く伝統行事「佐本川柱松」の復活・伝承なども手掛けている。大学の学園祭では
すさみ町の特産品イノブタを出店販売した。
 遠距離のすさみ町では泊まり込みの活動となるため、町は大学に廃校となった小学校を提供。理工学部の学生を中心にPBLの一環としてオリジナルボイラーの製作やシャワーの設置を行い、活動拠点へと整備した。
 大学の取り組みは、先述の「大学のふるさと」制度を県が創設する際にモデルケースとして参考にされた。2012年度には、農林水産省の「第10回オーライ!ニッポン大賞」で審査委員会長賞を受賞した。
 寝屋川市からすさみ町まで、当時はバスで片道5時間という距離。事前に現地の関係者とメールや電話で協議し、必要な資材の調達準備、当日の動きなどを綿密に計画し、情報共有しなければならない。現地のみならず、遠距離にあるという厳しい条件も学生を鍛えた。「誰が、いつ、何を、どこで、どんな方法で行うか綿密に計画し、実行する段取り力が求められます。片道五時間という距離は「なんとかなる」という気のゆるみをなくす効果がありました」と小出課長は振り返る。

●ゆるキャラが大学職員に"出向"

 和歌山県由良町の当時の岡 眞治副町長が、大阪工業大学(摂南大学と同一法人)の卒業生という縁から同町での取り組み依頼があり、2014年に「大学のふるさと」協定を結んだ。由良町は比較的交通の便がよく、日帰りでも訪問が可能である。こうして始まった連携は、薬学部・看護学部の学生と町の保健師による高齢者宅の健康訪問調査、観光パンフレットの多言語化、観光協会が検討する旅行プランの学生モニターツアー協力、ゆるキャラ「ゆらの助」が大学事務職員に"出向"しての知名度向上、グランピング(キャンプ形式の宿泊サービス)と由良を掛け合わせた「グランピューラ」を提案し、公益社団法人日本観光振興協会が主催の「産学連携ツーリズムセミナー」で優秀賞を受賞するなど、こちらでも様々な取り組みがある。
 当然、地元北河内地域でも継続的な取組を展開している。寝屋川市、交野市、枚方市、門真市と包括連携協定を結び、正課・正課外を問わず、学生が街に出ている。特に交野市は市内に大学がないということで連携に熱心だ。「例えば、同市いわふね自然の森スポーツ・文化センターで長年休止していたプラネタリウムを活用するプロジェクトでは同市教育委員会をはじめ、企業からも活動支援をいただくなど産学官連携の取り組みとなっています」と古屋係長は説明する。

●ソーシャル・イノベーション副専攻課程

 2016年、大学は地域課題を発見し持続可能なまちづくりに貢献できる人材の育成を目的とした、全学部横断の「ソーシャル・イノベーション副専攻課程(修了要件18単位以上)」を置いた。コア科目(1年次必修)の「地域と私」(前期)は由良町でのフィールドワーク、「北河内を知る」(後期)では各自治体の総合戦略を担うキーパーソンがゲスト講演する。アドバンスト科目の「摂南大学PBLプロジェクト」(2年次選択必修)は、北河内地域の自治体、由良町、すさみ町でのPBLに取り組む。「地域貢献実践演習」(3年次必修)は、これらの集大成として、やはりフィールドでの課題発見・解決に取り組む。「副専攻課程は100名を定員とし、1年目は150名、2年目は140名程度の応募がありました。PBLのメニューは2017年度で18プロジェクト。1プロジェクト当たりの参加者数は、複数教員が担当するもので70名、1人の教員が担当するもので十数名です」と江島係長。
 町の中で学生は著しく成長する。都会の風景に馴染む学生からすれば、コンビニは1軒、スマホが通じない場所に行くのは初めてで、この光景にまず衝撃を受ける。世代の異なる住民とのコミュニケーションはたどたどしく、プロジェクトも一向に進まない。しかし、住民から「よく来てくれたね」と訪問を心待ちにされ、「ありがとう」と感謝の言葉を掛けられることで、学生自身の役割を自覚し、町の課題が自分事となる。プロジェクトの進行は課題を乗り越えて次第に上手くなり、プレゼンテーション力も向上する。1年が過ぎると町での学びがかけがえのない体験となっていく。2年目は異なるプロジェクトを選択できるが、多くの学生は継続して行う。それだけ、地域に愛着を持ち、関係者を慕っているからだろう。古屋係長は述べる。「由良町は、基本的に日帰りのプログラムですが、物足りないと感じる学生の中にはダイビングのライセンスを取ったり、泊まり込みで遊びに行く学生もいます」。そうやって、学生にとって町が「第2の故郷」となっていく。
 過疎が進む両町にとっても大学との関わりは財産である。「初めは町長や町役場の職員との関わりが中心で、住民の方々はどちらかというと静観していました。役場職員、住民、教職員、学生が何度もワークショップを繰り返し、ひざを突き合わせて知恵を出していく過程で、あれもできるのでは、これもできそう、と逆に住民の方々からアイデアも出てくるようになりました。大切なのは、あくまで主役は町の人々ということです。実際にアイデアが形になって観光客数も増加していき、また、こうした取り組みが頻繁に地元紙に掲載されると、住民の方々の目にも留まり、「ああ、あの摂南大学の学生さん」という認識が生まれるとともに、感謝されてもいます」と小出課長。こうした取り組みの結果、摂南大学を志願する和歌山の高校生、逆に両町役場に就職した卒業生も出始めている。今後、交流した住民とのつながりを求めて多数の卒業生が訪問するに違いない。

●職員が動かす地域連携

 この大学の地域共創の大きな特徴の一つが、職員が地域とのコーディネーターを担っているということである。「大学と自治体の定期的な協議会などで「若者のアイデアが欲しい」といった自治体からの依頼は、まず研究支援・社会連携センターで集約されます。多くが「何かできないか」と漠然としたものですので、本学の教員の専門領域を考えながら、学生の学びに繋げる教育プログラムをセンターと教務課でまとめ、教員に投げかけてみます。逆に、教員からのプロジェクト提案もあります。その場合は、計画と予算案を頂き、次年度のPBLに組み込めるか教務課と検討します」と古屋係長が流れを説明する。「学生が関わる地域連携は学びに最大限に活用する」。この方針を実現するため、3氏始め職員は、許す限り何度も現地を訪れ、学生が何を観て何を話し、何を感じて何を学んでいるかを肌で感じる。「単に行って良い経験をしたで終わらせることはしません。現地で必要な最低限の能力は事前に鍛え、また、振り返りをきちっとして経験を学びに転化させます」と江島係長。実際に学生の成長を横で感じてきたからこそ、カリキュラムの科目間の有機的なつながりもイメージができる。実はこの副専攻の基本となる仕組みを設計したのは、古屋係長と江島係長である。
 和歌山での地域連携活動は、学園広報室とも連携しプレスリリースとして、県庁から各メディアに発信される。地元紙は大阪の若者が和歌山の過疎地で取り組む姿を報道するとともに、すさみ町や由良町の地域活性の様子も取り上げるので、地域の人々も「町を紹介してくれる摂南大学生」を頼りにもしている。
 地域の依頼を正課科目の「教育プログラム」にすることで、学生を単なる労働力にはしないこと、一つのプロジェクトを教員に属人化せずに組織として継続して行うことも担保できる。教員と職員の協働が見事に機能していると言える。こうした取り組みは、当然学長、副学長をはじめ大学トップの力強い後押しがあってこそだ。大学全体で中堅職員が活躍できる風土を創り出している。
 ここまでの熱意はどこから生まれるのか。「学生の成長に直接携われるのはやりがいであり喜びですが、一番にはやはり自分が楽しいと感じるから」と2人は口をそろえる。学生の成長に結びつき、地域は活性化し、やっていて楽しいと感じる。こうしたやりがいを与えてくれる職場はそうはあるまい。

●和歌山で頑張る大阪の大学

 両町長をはじめ、両町役場職員、そして、町民の人々にも連携に積極的なキーパーソンがいたという。新しい取り組みの始まりは属人的にならざるを得ない。数ある和歌山県の市町村でも両町と連携できたのは、こうしたキーパーソンがいたからでもある。和歌山県民は比較的穏やかでのんびりしていると言われるようだが、人口減が進む県において、当然のことながら危機感は広がっている。特に紀南は高齢化率が高く過疎の進む地域だが、県下に大学はもともと少ない上、紀北に集中している。国公立大学は優先的に一つの町と連携事業を展開するわけにもいかない。しかし、県外の私立大学であればそれも可能となる。両町にとってもオール大学体制で支援してくれる摂南大学は非常に強力なパートナーなのである。一方、大学としても、北河内地域には大学が多数あるため、一自治体が一つの大学とガッチリ連携事業を展開するのは難しい。県外に連携先を求める手法は双方にとって理にかなっているとも言えよう。
 「大学のふるさと」制度は実利的な戦略である。県庁からの大学関係のプレスリリース量でいえば、この大学は群を抜いている。摂南大学は「和歌山で頑張っている大阪の大学」として、県下に知れ渡っている。「知事も本学の活動は評価してくれています」と小出課長。
 すさみ町の「佐本・大都河地区」は、人口約300人、高齢化率は70%以上である。浅野教授は、「少子高齢化と過疎化は、物理的な過疎に加えて人々の心の過疎化(社会の進歩に対する過疎化や年代を超えた人と人との繋がりに対する過疎感など)を招き、それが地域活性化への意欲を喪失させるという負のスパイラルの形成を促進します」(私立大学情報教育協会「大学教育と情報」(143号))と述べる。この心の過疎化を食い止める一つの方策が、若者との交流であることは論を俟たない。こうした取り組みの結果、2016年の「すさみ町まち・ひと・しごと創生総合戦略」には、「摂南大学との連携により一定量の人数が流入している」とも書かれており、大学は町の関係人口の構築を名実ともに担い始めている。
 地方創生において、都市部の大学が担える役割は少なくないこと、また、学生にとってもそれは有益なことを、摂南大学の取り組みは教えてくれる。