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地域共創の現場 地域の力を結集する

<67>東北生活文化大学
地域に笑顔を生み出す
服飾系(東北唯一)、美術系(宮城唯一)の強み活かす

 仙台市泉区は、仙台市を構成する5区のうちのひとつである。高度成長期から仙台市のベッドタウンとして発展し、現在も住宅地が並ぶ。かつて泉市だったが、仙台市と合併、政令指定都市移行に伴い泉区となった。区の西半分は山地で、西北に泉ヶ岳が鎮座し、泉の由来にもなっている。学校法人三島学園は、東北生活文化大学、東北生活文化大学短期大学部、東北生活文化大学高等学校、短期大学部附属ますみ幼稚園、短期大学部附属ますみ保育園の5つの教育・保育機関を擁する総合学園である。1900年三島駒治・よし夫妻による東北法律学校、3年後の東北女子職業学校開校を礎に、時代の要請と地域の期待に応えて改革を重ね、現在の学園へと発展してきた。東北生活文化大学ならびに東北生活文化大学短期大学部(佐藤一郎学長、家政学部家政学科服飾文化専攻、健康栄養学専攻、美術学部美術表現学科、短期大学部生活文化学科食物栄養学専攻、子ども生活専攻)は、高等教育では東北唯一の服飾系、宮城県内唯一の美術系の専攻を持ち、その特徴を活かした「地域創生」に取り組んでいる。大学の地域連携委員会委員長である大堀恵子美術表現学科講師、千葉卓也学募広報課主任に聞いた。

○「ワクワクぷろじぇくと」

 この大学で組織的な地域連携活動が始まったのは、2011年の東日本大震災後だった。被災地にある大学ができることは何かを学内で議論し、「自分が学んだ知識やスキルを地域に還元したい」と学生の声が多かったことから、『暮らしワクワク設計チーム』というキャッチコピーが誕生、具現化した取り組みを『ワクワクぷろじぇくと』と名付けた。
 服飾文化専攻では被災した幼稚園のドレスの再現製作やわかめ養殖用サンドバッグ製作、健康栄養学専攻では仮設住宅での炊き出しや料理教室を行う、美術表現学科では被災地の番屋壁画制作や仮設住宅での手づくりワークショップ、食物栄養学専攻では魚を丸ごと一匹使った子どもたちのための料理教室、子ども生活専攻では学園が運営する子育て・家庭支援センターでの未就園児たちとの遊びや児童センターでのヒーローショー披露などのプロジェクトが並ぶ。また、「仙台ロフトとのコラボ企画」や「薬膳プロジェクト」、「ベジプラスメニュー」など、企業や行政との連携も欠かせない。
 「この取り組みは、各学科の学生と教員がタッグを組み、専門分野を活かして"まちに住む人がワクワクできるようなプロジェクト"です。学生たちが、自分が学んだ知識は、現場でどのように活かせるのか。自分に足りないスキルは何か。学生にとっても、社会の中で気づける貴重な機会です。この事業は高校生の目にも留まり、問い合わせが増えるとともに、このプロジェクトを志望動機として受験するなど、広報活動の効果も大きかったです」と千葉主任は語る。

○服飾文化専攻独自の模擬ファッションブランドとファッションショー

 服飾文化専攻3年次「家政特別講義Ⅲ(ブランドマネジメント演習)」では、地域の服飾産業の活性化を図り、今後の東北の産業を担う専門的人材の創出を目的とした教育プログラムで、東北の伝統素材を用いてファッションアイテムの企画・製造・広報を実践するブランドマネジメントに取り組んでいる。
 2009年度から、年度ごとの製造ラインブランドをmishima & Co. Collectionとして発表。現在は、大江町青苧復活夢見隊に連絡をしたことをきっかけに、山形県大江町の特産品で多年草木のカラムシからとれる繊維「青苧(あおそ)」と、山形県の鶴岡織物工業協同組合の「絹素材」を用いた製品の開発を行っている。大学が模擬ファッションブランドを持ち、それを学生にも関わらせるという試みは斬新のみならず、非常に実践的かつ地域にとっても有意義と言える。
 10月の大学祭では、大学・短大・学科・専攻・学年の垣根を越えて、企画構成、演出、衣装デザイン、モデル、メイク、会場づくりに至るまで、すべて学生が創り上げるファッションショーを行う。2月の「エルパーク仙台」など仙台市内の施設を利用しての外部公演では、これらのコレクションも学生がモデルとなり、多くの観客の目を楽しませている。
 さらに、大型商業施設「錦が丘ヒルサイドモール」において、2019年度に「ワクワクぷろじぇくと」を開催。屋外ステージでは、服飾文化専攻による「ファッションショー」と、子ども生活専攻による「ミシマレンジャーショー」を披露。館内では、食物栄養学専攻による子供向け企画「ちりめんモンスターを探せ!」、健康栄養学専攻による「匂い・味わい・食感・色・心で味わう和食文化」などのワークショップを行った。家族連れが多い大型ショッピングモールにおいて、大学・短大がONE TEAMとなり、各学科専攻の特色を活かしたイベントができたということは、地域の人たちに「ワクワク」を提供できる理想の取り組みの一つと言えよう。

○地元泉区との強い連携

 「仙台市泉区民文化祭」は、この大学と泉区の連携の象徴である。大学の参加は2013年で、当時の仙台市泉区文化協会長から「文化祭を活性化したい」と企画・運営依頼があった。「学生たちには授業で呼び掛けて、学科・専攻を超えてボランティアを募ります。リーダーを決め、準備委員会にも参加。泉区まちづくり推進課と学生が会議を重ね、当日のパンフレットのデザインや、設営を他大学と一般の方々と協力して行っています」と大堀講師は述べる。
 当日は、美術表現学科による参加型ガラスアートのワークショップ等を実施。教員を目指す学生たちが中心となり、テーマを「泉中央駅」と決め、縦2m×横5mの巨大な切り絵を来場者と共に作り上げた。できるだけ多くの人たちに関心をもってもらい、泉区の魅力を発信するよう努め、様々な世代に楽しんでもらっているという。
 2011年度には泉区内の大学と泉区まちづくり推進協議会および泉区の間で「大学と地域との連携協力に関する協定」を締結した。この協定に基づき、区内あるいは近隣の大学等が地域づくり活動に要する経費を助成する「いずみ絆プロジェクト支援事業」が行われている。この支援により各大学が区内で行う地域活動費用が確保される。また、区内及び周辺6大学の学生による地域活動報告会「泉6大学まちづくりフェスティバル」を開催し、支援事業の活性化が図られている。

○地域連携委員会

 一方、大学内では大堀講師が委員長を務める「地域連携委員会」で地域活動が検討されている。地域からの依頼は、年間30件から40件で、ウェブサイトを見てというものが多い。
 地域と信頼関係を築くには、「地域のために、地域の関係者と忌憚のない意見を言い合えることです。地域創生という共通の目標をもって取り組みを行うことで、信頼関係が築かれます」。文化祭に協力した学生には、仙台市泉区長と仙台市泉区文化協会長の公印がある「参加証明書」が贈られる。泉区がわざわざ証明書を発行するのは、学生の誠意ある取り組みに応えてくれた結果であろう。
 そして、それは教職員も同様だ。大堀講師と千葉主任は、いわばアクセルとブレーキの関係で、ああでもない、こうでもないと本音で意見をぶつけ合う姿は、教職協働の理想形の一つである。「困ったことがあればまず大堀先生に相談します。断りませんから(笑)」と千葉主任。こんなエピソードがある。
 能楽師・山中晶氏より演目「羽衣」の長絹のデザイン・制作の依頼があった。千葉主任は大堀講師に相談。「版画が専門ですが、何とかなるだろうと軽い気持ちで引き受けてしまいました」と笑う。ミシンが得意という学生がいたので任せた。見事に完成させ、山中氏は2011年の卸町アートフェスタ・能楽堂の演舞で披露した。ピンチはチャンス、新しい取り組みはイノベーションに繋がる。「大学は、その地域に即したイノベーションの創出をリードする地域社会の核である。地方自治体や地域社会は、地域の大学と連携し、その知的資源を積極的に活用することが期待される。(平成24年度中央教育審議会答申部分抜粋)」との文言にも通じよう。
 「美術にしても地域活動にしても「できる、やってみよう」という精神が重要です。材料がなければありあわせのもので作る。制作環境が整っていない状況の中で出会ったのが『板紙凹凸版画』という技法です。版材は、「コート白ボール」と呼ばれる紙で、銅版画と同じ凹版画の版種に属し、腐食を必要としない版画技法です。主にお菓子のパッケージなどに使われています。この版材に、アルミホイルやボンド等を塗って紙の凸面を作ったり、表層をはがし針などで引っ掻いて凹面をつくり、そこにインクを詰めてプレス圧で刷りとる版画が板紙凹凸版画です。身近な材料で済むので経済的で環境負荷も低く手軽です。まずは学生が始められる環境を整え、「版画はこうしなければならない」という概念を崩すことが重要です。専門の用具を使わなくても表現はできるのです」。
 まさにクロード・レヴィ=ストロースが提唱した『ブリコラージュ(寄せ集めて自分で作る)』の精神といえる。高齢化社会において、「手軽にできること」「形に残せて持って帰れるもの」はとても意義があろう。自己表現ツールとして震災の被災地での需要もあるかもしれないし、高価な道具が不要なので発展途上国でも受け入れられるかもしれない。
 大堀ゼミでは、他にも手漉き和紙工房「潮紙」の塚原英男代表と協働し、生活の中で気軽に使われる和紙をテーマに手漉き和紙カレンダーを制作。また、東日本大震災から9年という月日を経ているが、震災復興の一助として多摩大学の「和紙キャンドルガーデン(六本木で開催)」にも協力し、積極的に活動している。

○毎日、学生と向き合う

 「大学の地域活動の根底にあるのは学生の成長です」と大堀講師は述べる。「講義や研究室で一人ひとりの学生の様子と毎日きっちりと向き合うことが大事です。この学生は何が得意か、何が苦手か。得意が分かれば、それをワークショップに織り交ぜ、任せる。得意だから夢中になります。やってみると、自分にもできるのだと自信がつきます」。ある学生は、凧作りが上手かった。そこで、子供向けの企画で凧作りを提案すると、生き生きと取り組んだという。「地域との関係も学生の成長があってこそ。地域の方から「先生、なんぼでも学生を鍛えてやるから」という心強い言葉もいただいています」。
 地域の大人に顔を覚えてもらうということも、学生にとっては一大事。そこで学生は、この人たちのために、という想いで自分なりに考えて解決策を考える。制作中は笑顔が出てくるし、それを見た地域の子ども、高齢者も笑顔になる。「本学は小さいけれど地域に笑顔を生み出せる大学だと自負しています」と大堀講師。
 学生が授業で学んだスキルを活かし、地域の中に入って活動する。その成果の一つとして教員となった卒業生が、子どもたちと関わり、大学という枠組みの中だけの活動から、地域と連携を進めることで、地域の担い手として、社会に貢献できる実践力のある人材を育成する大学のポリシーに繋がっている。
 佐藤学長は、学内報「広報TSB」の中で、「温故知新の精神で、少子化、高齢化、複層化という現代社会に現実的に対応し、今を生き抜く新しい「衣・食・住」の生活文化を生み出そうとしている」と述べる。まさに東北生活文化大学は、仙台地域の衣・食・住という市民の生活と美の融合を志向し、そのような文化を深く支えていると言えよう。