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特集・連載

地域共創の現場 地域の力を結集する

<61>福井工業大学
衛星使い観光振興
地域産業とAI・IoTを繋げる

 福井市は、里山里海や河川に囲まれた自然豊かな地である一方で、豪雪地帯でもある。農業が盛んだったが、冬の長い農閑期の収入源として、明治前期の実業家・増永五左衛門が眼鏡枠の製造を試み世界的に有名となる。1945年の福井空襲、1948年の福井地震を乗り越え奇跡的な復興を遂げたことから「不死鳥のまち」と呼ばれている。人口はほぼ横ばい。主な産業は繊維、化学工業である。福井工業大学(掛下知行学長、工学部、環境情報学部、スポーツ健康科学部)は、創設来、地域の産業界と協働研究等を行い、昨今では地域連携活動に力を入れている。掛下学長、池田岳史副学長、川島洋一地域連携研究推進センター長に聞いた。

〇パラボラアンテナを擁する

 1975年、大学はカナイ産業工学研究所を創設、以来2002年に産学共同研究センターに改称し、継続して地域企業との産学協働によって研究開発を推進してきた。大きな転換点が2015年。「地元進学率の向上や、地域からの協力要請の増加、政府の地方創生政策などを背景に地域連携研究推進センターに改称しました。他にも3学部に改組し総合大学化するなど、学園全体で地域に根差すことを方向付けた年でもあります」と掛下学長は振り返る。ここから産業界との共同研究に加えて、教育的観点やボランティアとしての活動要請が増え始めた。
 その象徴的な取り組みがF,s Design Studioである。これは環境情報学部デザイン学科が、実務が学べる教育・研究という特色を展開して産官学連携活動を行う創造的プラットフォームである。地域連携研究推進センターが窓口になり、住環境、プロダクト、メディアなどでデザインを活かすプロジェクトへの支援要請に対して、教員や学生が協力して取り組む。「年間非常に多くの依頼が入ります。総合大学を活かして、他学科の教員にも参加してもらい、より専門的な見地からデザインできることが強みとなります」と池田副学長。
 ところで、この大学は2003年から稼働を開始した北陸最大のパラボラアンテナを擁している。直径10mのアンテナによる高速通信機能を活かし、様々な人工衛星ミッションで地域と協働する。例えば、日本海沿岸における「海ごみ」漂流状況の監視を行うほか、衛星画像をコメの食味向上に活かす研究等を進める。2018年度末には、衛星画像をクラウド上に一般公開するプロジェクトも稼働中だ。
 そして、このパラボラアンテナをフルに活用する「ふくいPHOENIXプロジェクト」(2016年度「私立大学研究ブランディング事業」に採択)は、人工衛星の通信データを活用する3つの研究が行われる。①日本一美しい星空を持つ福井県だからできる宇宙を題材にした「観光文化研究」、②様々な災害を乗り越えてきた防災や農業を宇宙視点で育成する「地域振興研究」、③2019年の超小型衛星の打ち上げをはじめとした衛星を開発運用する「宇宙研究」である。「福井県は自然が豊かで、夜が暗いことを逆手に取り、光害という観点で研究を行い、世界で何番目に暗い都市かなどをデータで示します」。川島センター長は続ける。「環境情報学部という人文社会系の領域に近い領域ができたことで、工学系のみならず、地域振興や観光といった領域にも力を入れています。2018年度には、大野市のミルク工房奥越前で、ハンモックを利用した星空観望を行い、好評でした。観光振興は本学の強みであり特色だと思います」。また、えちぜん鉄道とは、七夕に合わせてアート電車プロジェクトが行われ、ここでも「七夕アート」から「宇宙アート」に変更されて企画された。
 一方、このプロジェクトが対象とする衛星データ、ドローンによる空撮画像データに加えて、ソーシャルメディアからセンシングしたデータ、県の所有するオープンデータ、企業が所有するビッグデータなどを掛け合わせれば、AI解析により新たな価値を創出することが期待できる。そこで、AIとIoTを活用した地域のサポート、人材の育成、産官学連携の活性化を目的として、この4月、AI&IoTセンターを設置した。
 「8月には越前市や武生商工会議所・越前市商工会と情報交換をしました。結果は上々。自治体からは、ニーズやアイデアを実現するためのフィールドを提供して若い研究者や技術者を集めて、一緒に作っていきたいとの声があります。具体的には、イネの育成判断や土砂崩れ認識、積雪具合の認識による除雪の優先判断、雨水利活用による給水システム構築と災害緩和などです」と掛下学長は手ごたえを感じている。自治体には、いわば地域の様々な情報が蓄積されビッグデータの宝庫といえる。しかし、その活用法のアイデアは多くない。大学との連携で、地域の未来を予測し、AIやIoTによって新サービスを生み出したいとの思いもある。
 衛星を用いたこのユニークなプロジェクトについて、担当する工学部電気電子工学科の青山隆司教授は、「衛星画像というシンプルなデータと、何かしらの課題解決というニーズは直接的には結びつきにくいものです。しかし、ニーズを起点に間接条件を繋ぎ合わせた迂回路を考えだせさえすれば、衛星画像を活用できる分野はもっと広がるのでは」と力を込める。

 〇産業界の要請で生まれたSPEC

 鯖江市と鯖江商工会議所とは、2009年、三者による相互連携協定が締結されており、大学に対しては産業界寄りの期待が強い。年に一度、商工会議所関係者に研究シーズを見てもらう場がある。掛下学長と鯖江市長は気軽に情報交換をする仲で、事務レベルでも年間の連携事業計画を策定して、年に3回連絡会議を行うなど強い連携が図られている。「企業の方に研究室を見学してもらったところ、また来たい、話を聞きたいという声がありました。一般的に大学への相談はハードルが高いですが、そこを崩すような仕掛けをこれからもしていかなければと思います」と池田副学長は述べる。敦賀市・敦賀商工会議所(2010)、越前市・武生商工会議所・越前市商工会(2011)とも相互協力協定等を締結しており、商工会議所もセットで協定を結ぶのは、この大学の地域連携活動の大きな特徴と言えよう。
 産業界からの要請で生まれたプログラムとして、SPEC(Specia Program for English Communication)を挙げたい。これは、海外への出張から商談・取引、プレゼンテーションまで、世界の現場でコミュニケーションがとれるエンジニアを育成するプログラムである。海外語学研修のほか、アジアに進出している企業には、海外インターンシッププログラムの受け入れ先になってもらい、現地で従業員と一緒に課題解決するなど、実質2週間の就業体験をし、驚くほど成長して帰ってくる。「必ずしもその企業に就職するわけではありません。しかし、同じ福井の未来を創る仲間として本学に協力して頂いています。「地元の子がいる」という想いが企業経営者にもあるようです」と川島センター長は述べる。
 産業界との連携には、2万5千人を超える卒業生の存在も大きい。町工場経営者にはこの大学出身者が多く、彼らが学生受け入れの受け皿にもなるし、また、産学連携パートナーにもなっていく。「福井県は同業者同士の競争があまりなく、一緒に商売をして地域を支えていこうという土地柄ですから、産学連携もやりやすい。本学としては、新しい技術の導入や課題の解決で、地域企業に協力していければ」と掛下学長。

 ○デザイン学科の地域再生

 「観光」「地域振興」をキーワードに提携する自治体は、勝山市(2004)、あわら市(2005)、若狭町(2017)、大野市(2018)等であり、先述の通り、星空をキーワードに繋がる中山間地域の自治体が多い。
 県屈指の豪雪地帯、勝山市北谷町小原集落を再生する「小原ECOプロジェクト(現城郭研究所顧問吉田純一客員教授)」は、夏休みを利用し、学生が大工棟梁の指導のもと、泊まり込みで古民家を修復する。祭りやピザ窯を作ってカフェの運営を企画するなど、ふるさと再生に取り組んでいる。2011年度に、公益社団法人日本工学教育協会の日本工学教育協会賞(業績賞)を受賞、2015年度には、「ふるさとづくり大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した。春の山開き祭には、学生は特産品市の手伝いをしたり、冬に備えて雪囲いを手伝ったり、薪割りをしたり、地域の人たちとの交流を通して強い絆を築いている。
 学生の成長について、「1か月間棟梁に絞られて夏休み明けに学校に来た時どうなっていると思いますか?もうびっくりするくらい変わっている。出来ないことにも自分なりに取り組むようになるし、お互いに教え合うようにもなる。積極性が出てくるんだね(大学ウェブサイト「熱中時間」)」と吉田客員教授は語っている。
 若狭町では、教員と学生が、常神半島にある同町の小学校廃校をリノベーションして、漁村体験施設兼大学セミナーハウスとして利用している。これも自治体からの依頼であり、「学校にはグラウンドや各学校施設のほか、すぐ周りに浜も山もあります。ここを『みさきち』と名付け、本法人が指定管理者となり運営しています」と池田副学長は説明する。
 下川勇教授のゼミでは、越前市の「machi YOKU」という銭湯を拠点に町内を再生するプロジェクトに取り組んでいる。銭湯の廃業を残念がっている常連さんがいると聞いて、銭湯改装・再営業を核に地域再生に乗り出した。
 こうした取り組みは、寺社や町家など歴史的建築物の調査の過程で、自治体などから依頼を受けることが多い。結果、県下の中山間地域の地域再生を手掛け、「PHOENIXプロジェクト」にも結び付けるなど、専門分野を柔軟かつ戦略的に結び付ける。それを学生の成長にもうまく結び付けている。川島センター長は「現場に近いことは利点です。すぐに行けるし、地域の人も地元の学生ということで、親切にしてくれます」と述べる。各地域には、卒業生も時々手伝いに来ることもあり、中には移住した卒業生もいるという。
 学生の就職支援にも定評があり、実就職率は同規模の大学で全国1位。「キャリアセンターに職員が9人在籍しており、各学科を担当します。就職活動時期には平均10回の面談を行い、人生観、性格、本音を引き出し学生との深い信頼関係を構築して支援に臨みます。地元企業に7割程度が就職をしていきます」と池田副学長。また、何かの分野に秀でた学生には「みさきち」でリーダー研修を行っており、彼らが率先して学生全体をリードしていく仕掛けがある。何より、教職員の機動力が高く、学生に良いと思うことをフットワーク軽く実行していく。こうしたことが、10年連続の志願者増につながっている。

 ○夢を語り、夢を創る

 福井県には大学が7つ(短大含む)しかない。一方で、若者は主に京阪神に流出していく。県はこれに危機感を抱いており、県主導のもと年一度、県知事と全大学長が地域の高等教育について議論をする場があるほか、県庁には「大学私学課」という部署が置かれている。高等学校を所管する都道府県と大学の連携は、地域の高校との連携がスムーズになる。商工会議所とも繋がっているから、高校から地域企業までの人材育成について、戦略的な議論ができる場があるのは、全国にも珍しい。
 福井県には様々な自然資源があるが、地域にとってはそれは当たり前だから、PRするのが苦手であるという。そこを大学がAIやIoT等の最新技術、そして、デザインの力で後押ししていく。「大学設立から50年の間、積み上げた信頼や卒業生数によって、本学は地域と網の目のように繋がっています」と掛下学長。学園の中期ビジョンは、「「夢」を描き、「夢」を語り、「夢」を創る」。
 福井工業大学は、地域の様々なセクターを「夢」でつなぎ合わせ、オンリーワンな「知の拠点」となるとともに、地域産業と最新テクノロジーの融合によって、地域のSocietyモデルを作り上げていく。