特集・連載
地域共創の現場 地域の力を結集する
<57>南九州大学
“食・緑・人”をテーマに宮崎に貢献
6次産業化で過疎地域の産業振興
宮崎県は、神話が生まれた高千穂をはじめ、各地に伝説が残る。西の中山間地域と東の平野部に分かれるが、概して温暖な地域である。全国有数の農林水産県であり、特に農業や畜産業は全国的にも生産量が高い。しかし県民所得は少なく、人口減少の一途をたどる。南九州大学(寺原典彦学長、環境園芸学部環境園芸学科、健康栄養学部管理栄養学科・食品開発科学科、人間発達学部子ども教育学科)は、日本唯一の園芸系の学部を設置し、創立して50年の歴史をもつ。環境と生命の調和の持続可能な発展を踏まえた「食・緑・人」の専門職業人として,地方創生の担い手になりうる人材を育成することを教育理念としており、その特徴に応じた教育・研究及び地域活動を行っている。そこで、このたび、大学の地域貢献について、澁澤透人間発達学部長、前田隆昭環境園芸学科長、竹之山愼一管理栄養学科教授、紺谷靖英食品開発科学科教授、村社美利地域連携推進室長、黒木博昭総務企画部次長に聞いた。
○学生と共に6市町の地方創生に取り組む
1967年、宮崎県高鍋町に園芸学部のみの単科大学として開学した。2003年に宮崎キャンパスを新設し、健康栄養学部を開設、2009年に都城キャンパスを新設し、園芸学部及び環境造園学部を環境園芸学部に改組して開設、また、2010年には都城で人間発達学部を新設し、現在は、宮崎市と都城市の2キャンパスとなっている。「都城キャンパスを開いてからは特に、全学の地域貢献意識が高まりました。都城地域唯一の大学として地域側も大きく期待し、地域からの相談が増え、それに熱心に応えるようになりました。年々増加する取り組みの多くはメディアで紹介され、大学の認知度が高まっています」と村社室長は概説する。
都城市に隣接する三股町と鹿児島県曽於市は同じ生活・経済圏であり、三市町ともに大学に好意的で連携も一体的に行うことが多い。「大学誘致は都城地域の熱心な活動により実現しました。人間発達学部独自の課外授業である「夢かな(夢を叶える塾)」では都城市長が講演し、年に一度、市と連携会議を開いて連携事業を検討しています」と村社室長は続ける。また、県の中山間地域にある綾町・木城町とも、両町長は大学に縁があり、強い連携関係が構築されてきている。
特にこの6市町(宮崎市、都城市、三股町、曽於市、綾町、木城町)が、この大学の学生及び教員の主な連携活動の場である。「3学部の食・緑・人という領域は、農業大国宮崎県の産業構造にもマッチしており、学部間連携及び地域での取り組みが多く行われています」と紺谷教授。年間7、8件程度の問い合わせがあるが、各教員は常に2、3の取り組みを通して地域と繋がっている。自治体との連携の一部を見てみよう。
都城キャンパスでは、まず、環境園芸学部附属フィールドセンターを利用して、宮崎在来の野菜を栽培している。例えば、赤紫色の根を巻き付けた縞模様が入る「糸巻大根」や、焼きナスとして大きな評価を受け、大きくて味が濃厚な「佐土原ナス」について、健康栄養学部との連携で、学生とレシピを考案しながら生産量の増加を試みている。「全国各地には、その地域伝統の野菜がたくさんあります。手軽な食べ方が分かれば、生産量は増えますから、まずは食品加工のレシピ開発に着手しています」と前田学科長、紺谷教授は説明する。
子ども教育学科は、開設の準備段階から地域活動を開始。子育て支援センター、環境教育センター及び子どもの学び研究所が地域との連携拠点となり、地域の幼稚園・保育園及び小学校と協働して、子どもたちに遊びや学びの機会を提供したり、保護者の相談を受けるなどの育児支援を行う。環境教育センターは、園芸学部から始まった大学の伝統を最大限に活かした取り組みを行っている。「講演と学習の集い会「Mカフェ」は、農業、自然体験、ESD等のテーマで、海外を含めた環境教育の実践・理論を報告しています。また、地域の学校と連携して、総合的な学習の時間などで、各地域の特色を活かした教育実践の試みを学生の主体的な参画によって進めています」と澁澤学部長。子ども支援地域活動は、学生が地域の子ども支援活動にボランティアで関わる。これはポイント制になっており単位に結びつく。
都城地域3市町の教育委員会、私立の幼稚園と連携協定を結んでおり、6校4園の連携拠点校園を中心に地域の実習校と協働して学生の指導に当たる。つまり、地域が協力して未来の教員を育てている。曽於市の瀨下浩教育長は、パンフレットの中で『南九州大学の大きな息吹こそが、曽於市の教育をも確実に一変させてくださると意を強くしました』と綴っている。
他にも潜在保育士の再教育、うたごえ広場等を開催し、地域の生涯学習ニーズに応える。
○町の特産品を学生と共に開発、話題に
宮崎市では、管理栄養学科が実習室を活用して調理を行い、家族連れから高齢者までが食を通して交流する企画「食を通した子どもとおとなの交流会」を2010年から行っており、そのため高齢者や子供を中心に「食や栄養の学校」いうイメージが定着している。
「高等教育コンソーシアム宮崎」では、地域から学生が卒業研究で取り組む研究テーマを募集し、最後に発表するという事業を行う。この中で、田野町で生産されている粉茶は加工すると色が悪くなるので、解決してほしいという依頼を受けた。食品開発科学科の学生が実験を重ね、銅鍋で加工すると鮮やかな緑色が保持されることが分かり関係者から喜ばれた。「大人が気づかない学生の着想に地域の方々は期待しています。農作物を使ったレシピは多数のアイデアが出てきます」と紺谷教授は述べる。
洋菓子専門店「リューヌ・ドゥ・プランタン」(宮崎市)や和菓子屋「虎彦」(旧社名「虎屋」、延岡市)とは、食品開発科学科の授業や学生の実習に協力をしてもらっている。職人から製法を学んだり、学生の商品開発を厳しく指導してもらう。「虎彦」とは10年以上にわたり協力関係にあり、学生発案の新商品クッキー「若紫」は、宮崎県庁内にある「みやざき物産館KONNE」でも販売しているという。店側も学生の新鮮なアイデアに期待している。
綾町とは、環境園芸学科が協力して持続可能な循環型農業モデルの構築への技術提供などを行う。「有機農法やオーガニックを町のブランドとしており、キャンパスができてすぐに環境園芸学科に声をかけていただきました。有機ワイン用のブドウで、農薬を使わない生物的防除の技術指導や、今後ブランド化したいライチの栽培で、より大きく実がなる共同研究をしています」と前田学科長。食品開発科学科でも、完全無農薬栽培のワイン作りを目指す「香月ワインズ」とは、新しいワインづくりに共同で着手し、会社設立・創業に大きく貢献した。
管理栄養学科の食品学研究室では、県内で排出されるワイン残渣の有効利用を目的として、宮崎県畜産試験場との共同研究の中で肉質分析を手掛けた。その結果をもとに綾町での養豚農家で、ぶどうの搾りかすを与えた「綾ぶどう豚」の生産・販売を始める。綾町産ワインと綾ぶどう豚をセットで販売したところ、そのストーリー性も受けてふるさと納税の返礼品等で大きな話題になった。「地域資源の有効利用や特産品開発の一端を担うことで、地方の活性化に繋げられれば地元大学としても喜ばしいことであります」と竹之山教授は述べる。
木城町とは、連携に意欲的な町長の働きかけもあり、様々な取り組みを行っている。
まず、アスリート食の提供である。少子化の影響により廃校になった学校が新たに合宿施設として生まれ変わり、町内外の子どもたちは町の施設をスポーツ合宿に利用していた。そこで「スポーツをする子供たちにスポーツ合宿で栄養バランスの良い食事を提供したい」と管理栄養学科に相談があり、アスリート食の考案に至った。また、この施設では、食中毒対策として、国際的な衛生管理手法であるHACCP導入からの指導を行っている。
さらに、医療費や介護費削減に繋げたいとの町の意向もあり、高齢者に対して栄養・健康調査や高齢者向けのお弁当や温泉施設の定食メニューを開発することにも取り組んでいる。
そして、町の農業面からの活性化のために環境園芸学科教員がオリーブ栽培のアドバイスも行うなど多方面から関わっている。
また、町産の大豆を主原料として脱脂粉乳(スキムミルク)を味噌の原料に混ぜて発酵させ、「ミルキー味噌」を共同開発し、味噌や豆腐を作る加工グループの協力を得て「木城ミルキー味噌」の生産・販売を行っている。更に肉加工グループでは、「木城ミルキー味噌」を活用して「豚肉みそ漬け」を販売し、町産のしょうがと「木城ミルキー味噌」を使った「万能たれ」を開発するなど、バラエティに富んだ特産品を生み出している。「売り上げは好調で、町内の直売所だけでなく町のふるさと納税の返礼品として検討されているようです」と黒木次長。これは高齢過疎地域の強みを活かした産業振興であり、県からも注目されているという。
大学との共同開発商品には連携の認証シールが付けてある。木城町長も大学と共同した地域産業振興の有効性を理解し、町の新たなブランドを目指している。点と点から始まった取り組みは、多くの線となり面となって結びつき、実質的な包括連携となる。大学としても、地域連携は学生の大きな成長に結びつくとして、その有用性に期待している。
高大連携も盛んだ。普通科高校はもちろんだが、園芸・食品分野では宮崎農業高校、高鍋農業高校、都城農業高校、日南振徳高校などと連携協定を結び、体験入学や教員が高校生に講義を行うなど、南九州大学ならではの農業高校生に向けた取り組みを行う。「高校で食の研究開発を手掛けて、さらに発展させるために、本学に進学して開発を続ける学生もいます」と紺谷教授は説明する。
その他にも、JAえびの市青年部と「食と農をキビリ隊」(キビリは結ぶという意味)を結成し食農教育ができる人材を育成、中山間地域のジビエの有効利用の検討、あるいは、鹿児島県錦江町と本土最南端ワインの製造の技術指導など、まさに南九州地域から声がかかる。
基本的に地域活動は、地域側からの働きかけで始まる。都城地域は、すでに自治体はじめ地域住人も「自分たちの大学」という意識がある。包括連携協定を結ぶ自治体の背景には、やはり人口減少・高齢化への危機感がある。木城町との包括的連携協定においては「連携自治体からは、事業の運営費として補助金を頂いており、交通費や食材の材料費を賄うなど、持続的な活動となっています」と竹之山教授。こうして、連携している自治体との繋がりは年々太くなる。
〇ベトナムへの農業協力
農業分野の強みはアジアにも展開している。ベトナム・ナムディン省と宮崎県の農業連携において、大学が中核的役割を果たしており、2015年には「宮崎県、ナムディン省及び南九州大学の農業振興に関する連携合意書」を締結している。この合意書により、両国の農業法人やJAの交流が進み、農業の土壌改良技術の開発、バナナの栽培研究、そして、県や大学の支援により、ベトナム国内初の農業高等学校を新設するための研修受入を開始する。
地域連携において重要なフットワークの軽さは小規模私立大学の強みだ。「相談があると教員個人が素早く動きます。スタートも早い。また、園芸や食品といった馴染みやすい分野が、大学への心理的ハードルを下げていると思います」と竹之山教授。「各地域には未利用の資源が豊富にあります。しかし、それを活かして新商品に結びつける知識や技術がない。そこに実践的解決力に強みのある本学が関われればできることが数多くあり、ひいては南九州・宮崎の農業、食品加工、教育を下支えできます」。
町の特産品づくりの提案から作付け、栽培、収穫、加工して分析、商品化まで手掛け、しっかりと結果を残す。まさに六次産業化のプロフェッショナルでもあり、それは県の関係者にも浸透している。「重要なのは科学的な品質分析を行いデータで示すこと、商品開発のストーリー性でしょうか」。
各学部・学科の連携に長けている教員は、「あくまで研究・教育が本業ですが、地域活動は結果が出ると楽しいですし、自分の専門にこだわらずに要求に応えていると専門領域の幅も広がっていきます。ちょうど六次産業ブームもあるので追い風が吹いています」と話す。これらのことについて、黒木次長は、「大学の地域連携は各教員の総合力が重要です」と評する。
「地方から日本の未来を変える人材を育成する」―大学案内にあるとおり、人材育成のみならず、すでに地域を活性化する活動で貢献している南九州大学は、「食・緑・人」の研究・教育を通して農業県宮崎をグローカルに考え、また、地域の人々の経済・生活・教育と、全方向に支える未来志向の大学であると言えよう。