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特集・連載

地域共創の現場 地域の力を結集する

<51>札幌大学
地域活動を教育に繋げるアクションプログラム
学生の高い意欲に応える教職員

 札幌市は、日本最北の政令指定都市であり、10の行政区にわかれる。1972年のアジア初冬季オリンピックの記憶を伝える競技施設が各所に点在し、スポーツ文化が人々の日常に息づく土地柄である。「サッポロ」とは、市内を流れる豊平川にアイヌの人々がつけた名称であり、特別区にも「豊平区」がある。この豊平区に立地するのが札幌大学(鈴木淳一学長、地域共創学群)である。地域での取り組みについて、小山茂副学長、山田玲良副学長、中山健一郎経営・会計学系教授、高松義樹学生担当課長、辻みのり国際・地域交流課長に聞いた。

●地域共創学群へ

 札幌大学は、1967年に「地域に貢献する人材の育成」を教育の理念に掲げて開学した。現場レベルでは、学生のクラブ・サークル活動等を通じて、地域活動が行われてきたが、2005年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」で、大学の使命に社会貢献が位置付けられたことから、大学としても地域貢献に大きく舵を切った。
 2008年に発足した札幌大学地域スポーツ・文化総合型クラブ(愛称:めぇ~ず)は大学の知的・人的・物的資源を有効活用し、スポーツ・クリニックや文化講座を開講して地域住民から支持を得た。クラブは2012年のNPO法人化を契機に地域住民の福祉増進を目標に加え、一層地域に根差した活動を展開することになる。それを基礎づけたのが、クラブ発足以来連綿と続けられる「めぇ~ずチャレンジド塾」である。この塾には、札幌全域及び近郊の特別支援学校・学級に通う児童・生徒約40人が登録する。そのプログラムは毎月2回ずつ交互に開催される学習塾とスポーツ塾から成り、塾生となる児童・生徒に対し「読み・書き・計算する活動を通して『分かる』『できる』喜びを持たせる」こと、「友達と一緒に体を動かす楽しさを味わう」こと、「ゲームを通して友達とのかかわり合いを育てる」ことを目標にした特別支援活動が展開されている。
 クラブは昨年、障害者の生涯学習支援で優れた取り組みを行う個人や団体に贈られる文部科学大臣表彰を受けた。これは、プログラム発足10周年を迎えたチャレンジド塾の持続的取り組みが評価されたものであるが、大学に及ぼす直接的影響として特筆すべきは、この塾にボランティアとして参加した教職課程の学生たちが障害を持つ子どもたち一人ひとりの発達度合いに応じた支援に取り組むことで、人がいかに育つか、また、そのプロセスにどのように関わればよいかを体験的に学べるという教育効果である。実際、この取り組みを境に大学では教員採用試験の合格者数が回復した。「当時、学生部長だった私も、取り組みに参加した学生たちが見違えるように成長する姿を目の当たりにしました。この組織的な体験が、後に地域活動を教育プログラムに体系的に組み込む「地域共創学群」(後述)の構想につながったと思います」と小山副学長は振り返る。
 めぇ~ずのNPO法人化と同じ時期に始められたのがウレシパ・プロジェクト。学生がアイヌ文化を学び多文化共生社会の担い手を目指す。アイヌ先住民の若者の進学率が低いことを背景に、大学は2010年にアイヌの若者のための奨学金制度を新設、毎年6人の枠で受け入れる。このウレシパ奨学生たちに、アイヌ文化に関心がある学生が加わり設立された団体が「札幌大学ウレシパクラブ」である。2013年に一般社団法人化されたクラブは「企業や団体を含む有志会員からの会費収入と公的助成により運営されています。現在は大学から自立し、公共的な取り組みに一層力を入れています。学生は常時30人前後が在籍し、アイヌの歌や踊りを学び、練習し、披露しています。最近は海外の少数民族とも交流しています」と高松課長は説明する。政府は、東京オリンピック開催に向けて、アイヌ文化復興等に関するナショナルセンター「民族共生象徴空間(ウポポイ)」を整備するが、クラブは関連催事への出演など、その機運醸成にも一役買う取り組みを続けている。
 大学は2013年、それまでの5学部制を廃止し、13専攻を有する「地域共創学群」を開設、「地域に貢献する人材の育成」を全学共通の教育理念として改めて掲揚した。この流れに合わせて整備されたのが、学生の国際交流や地域交流をサポートする施設「札幌大学インターコミュニケーションセンター(Sapporo University InterCommunication Center;SUICC(スイック))」である。SUICCには、日本人学生や留学生が、地域の人たちと自由に交流できる工夫が随所に凝らされている。「日常の地域活動の試行錯誤から大切に思われる事柄を一つ一つ積み上げて、地域貢献を実現する教育の枠組み作りに取り組んできました。その中でも、1学群制を敷き、全学の学生が共に地域に出て活動できるようになったことは非常に大きかったと思います」と山田副学長は説明する。
 その初期の成果が、建学の精神「生気溢れる開拓者精神」を体現する体験型学習活動「アクションプログラム」である。基本的な活動期間は1年生から3年生まで。希望者はプログラムに関連する科目を履修することができる。その中には、活動時間に応じて単位が付与されるインターンシップ系の科目もある。プログラムのメニューは、グローバルアクション(地域における国際交流の実践)、キャリアデザイン(地域と連携した就業力の養成)、教職アクション(教育ボランティア活動などを通じた地域教育力の錬成)、先述のウレシパの4つである。入試には、「アクションプログラム」特別入学試験という枠組みがあり、また、2020年からは、「アクションプログラム」を更に拡充した「アクティブプログラム」が始まる。

●自治体との連携

 自治体との連携は、個々の教員が札幌市の各部局と繋がり、様々な取り組みが展開されている。特に、豊平区とは、「とよひらまちづくりパートナー制度」に基づく連携協力が活発だ。この制度は、地域のまちづくりに参加・協力する意思を示す企業や団体が登録されるもの。札幌大学はまちづくり、防災のための人員派遣や施設貸出、広報活動を行っている。例えば、北海道コカ・コーラボトリング株式会社の社員や西岡北中学校の生徒、札幌大学の学生の計60人が、「西岡地区ふれあいボランティア除雪」に協力している。
 もちろん市内のみならず、近隣の自治体にも足を運ぶ。美唄市、新得町、厚真町、北海道議会等とは連携協力に関する協定も締結している。美唄市の場合、札幌大学を中心に、札幌圏の4つの大学の協力を受けてサテライトキャンパスを設置、文化の力による地域づくりを行っている。
 また、2018年9月に発生した胆振東部地震で甚大な被害を受けた厚真町は、復旧ボランティア活動に学生、教職員の参加を受け入れた。「一緒に地域を支えてくれる大学という認識は持ってもらっていると思います」と小山副学長。
 各地域での取り組みを4つ紹介したい。
 一つ目が、岩見沢市での「岩見沢まちあそび人生ゲーム」である。これは、商店街の店をタカラトミーの「人生ゲーム」のマスに準えて、ルーレットを回しながら商店を巡っていくもの。店主と話をしたり、各店のゲームを楽しみながら地域を知っていく仕掛けとなっている。きっかけは、日本青年会議所北海道地区協議会、一般社団法人岩見沢青年会議所から商店街活性化策について相談があり、島根県出雲市から始まった人生ゲームによる活性化を提案したことに始まる。同協議会をはじめ、地域の人たち、また、地元の小中学生、学生が力を合わせて作り上げた。役割分担では、地元でできることは地域の人たちや子供たちに任せ、外国人観光客向けの翻訳などを教員や学生が担うことにした。2018年に始まり、第1回の参加者が500人。メディアで報道されて話題になった。
 「地元の人たちも、地域の魅力を理解していないことが分かりました。岩見沢にはこんな宝がある、ということを特に札幌の人たちに再認識してほしいと思いました。来年度は倍の千人の参加を目指しています」と中山教授は力を込める。
 二つ目が、2010年から始まった札幌の「モエレ沼芸術花火大会」である。一般社団法人札幌青年会議所OBの発案から誕生した新興の花火大会であるが、運営は寄付や市民の力でまかなわれ、学生にもスタッフとして参画する機会が設けられている。「本学の学生も毎年協力し、約2万人の来場者がある一大イベントへの成長に貢献してきました」と小山副学長。
 三つ目が、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。このイベントにも、札幌大学の学生が北海学園大学など他大学の学生とともにボランティアとして参加している。「多くの大学の学生がスタッフとして関わりますが、こうしたイベント運営に慣れている学生が本学には多く、パートリーダーなど主要なポストに就くことが多いようです」と中山教授。
 四つ目が、北海道学生研究会(Sophisticated Community and Academics for Networking;SCAN(スキャン))である。北海道の学生と地域・企業を結びつけることで地域活性化に貢献しよう、学生ならではの研究成果を政策提言していこうと、2010年に釧路公立大学で設立された。2018年度の研究テーマは「地域コミュニティ」。10を超えるチームが、観光、地域、事業の3部門で課題研究に取り組み、政策提言を行った。2017年度からは会場と事務局を札幌大学に移し、経済産業省北海道経済産業局、北海道銀行、北海道新聞社の支援を受けながら、より実現性の高い政策提言を目指すこととなった。連携する企業・団体の期待は大きく、資金面のサポートも得られる見通し。大学に頼らず独自に運営する体制の確立を目標としている。2018年度には近隣の札幌新陽高等学校からも発表があり、高大接続の新しい形が示された。現在は、名寄市立大学、北海学園大学、北星学園大学、奈良県立大学などが参加している。

●積極的な学生たち

 この大学の教職員が支援するイベントは「年間、大小100は下らないでしょう。豊平区内のイベントの場合、基本的には「とよひらまちづくりパートナー制度」に基づく依頼がSUICCにあり、学生が関われるか検討して実行していきます」と小山副学長。
 取り組みの中で学生とパートナーがつながり、その後も学生が直接依頼を受けるケースもある。ある老人ホームからは、よさこい祭りの踊りの依頼があった。「学生にとっても様々な知識を持つ高齢者から話を聞くのは楽しみなようで、毎週のように通っていたそうです」と中山教授。
 共通するのは、「ゼロから企画に入らせてほしい」という学生たちの積極的な姿勢である。地域活動は、複数プロジェクトに同じ学生が関わることが多い。イベント運営で揉まれた学生は、次のイベントではリーダー的役割を担い、また、企画段階から積極的にアイディアを提示する。「アクションプログラム」が、やる気のある学生を引き寄せ、地域によって学生が育つ仕組みが出来つつある。「応募が殺到する活動は、一人ひとり面談してやる気を見ます。毎年の活動は、マンネリ化しルーティーンにならないように、「開催の意味と意義を常に考えなさい」とハッパをかけています」と中山教授は述べる。北海道学生研究会SCANの運営では、学生の方から、補助金に応募して自分たちで運営したいという提案もあった。学生自身に自主独立の起業家精神が芽生えている。
 「地域とはギブ・アンド・テイク。教職員の役割は、地域自治体等と信頼関係を築き、学生が主役になるプログラムをいつでも打ち出せる体制を整えることです。プログラムで関わった企業や団体にそのまま就職する学生もいます。ただ、安易に連携協定は結びません。学生が自主的に取り組む活動を制限してしまうかもしれないからです。むしろ学生サイドから提携を結びたいという話があれば、前向きに検討していきます」と中山教授。
 大学OBもまた地域活動の大きな戦力である。岩見沢への関わりは、実はJTBに就職した大学OBの依頼から始まった。また、岩見沢で取り組みを発表したときに、それを聞きに来た50人の参加者も大学OBによって占められた。
 「道内社長の出身大学分析2018」(帝国データバンク提供)によれば、札幌大学の社長輩出数は北海学園大学、日本大学、北海道大学に次ぐ第4位。40代未満の社長に限れば第2位にランクされる。こうした遺産を活かし、正課の授業では、OB社長に講演に来てもらう講義も展開されている。今後、大学・学生の地域活動に卒業生やOB社長を巻き込めれば、更に大きな取り組みが生まれ、起業する学生・OBも出てくるだろう。「卒業して数年は難しいですが、中堅社員・職員となり、自分なりのプロジェクトを立案できる立場になったときに大学と繋がると、色々なことが出来るかもしれません」と小山副学長は期待する。学生にとっても、OBがいる地域であれば身近に感じることができる。
 積極的な学生が生まれる文化ができている背景には、教職員自ら積極的に挑戦していく風土もあるのだろう。インタビュー中の3教授から発せられる言葉の端々に「ノリの良さ」を感じた。また、学生を信じるとともに常に考えさせ、心に火をつける。「私は何もしていません」と中山教授は繰り返すが、教員が何もしなくてもよいように、学生が動く/動ける環境を整えてもいるのである。もちろん、学生は失敗するし、プロジェクトに対する得手不得手もあろう。「大学はあくまで若者の育成が仕事。学生の意欲は保証しますが、能力はプロジェクトの中で培われるものでもあります。地域の側にも学生を共に育てるという観点を持ってもらいたい」と山田副学長。
 北海道は広い。「だからこそ、SCANのような大学間連携が求められますし、その中ではOBの協力も力になります。大学のポテンシャルを最大限に活かして取り組む体制を整えられるかが重要です」。この大学には学生の自主性と行動力を無条件に尊重し、取り組みの舞台を整える教職員がいる。学生たちの多くは道内から進学し、道内にとどまって就職する。地域のために一歩踏み込んだ取り組みを、との思いを抱く。地域の人々にも地域の未来への危機感があり、学生の参画を歓迎する。学生、教職員、地域住民による三位一体の協働が日常となった札幌大学に越えられないハードルはあるまい。「4月からは短大にこども学科が新設されます。既存のキャリアデザイン学科や大学の諸専攻との化学反応により、新たな地域連携の形が生まれそうです」と小山副学長は期待する。
 札幌は北海道の中心だが、近隣市町村があってこそ大都市として機能する。その近隣市町村の活性化をも担う札幌大学は、札幌はおろか北海道にとって「なくてはならない大学」になっているのである。