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<49>羽衣国際大学
地元地域づくりに積極参加
南大阪や和歌山県湯浅町と連携

 大阪府堺市は7区に分かれ、全国の政令指定都市では14番目に人口が多い。古代には百舌鳥古墳群が造られるなどヤマト朝廷の重要地であり、その後、勘合貿易の拠点港であるなど国際都市になった。全国に散らばった堺商人は、各地で都市発展に貢献し、堺町、栄町として地名が残る。明治以降は、紡績や煉瓦産業を中心に工業都市となり、また、大阪市のベッドタウンにもなっていく。一部上場企業の本社もあり、人口は横ばいである。2002年に開学した羽衣国際大学(吉村宗隆学長、現代社会学部、人間生活学部)は西区に立地する唯一の大学である。地域連携について、吉村学長、清水明男大学事務局長・総合企画室長、辻井康孝総合企画室副室長、吉田静学術情報・地域連携センター課長、谷口多恵子教学センター学生・学習支援グループ課長に聞いた。

●堺市との連携

 羽衣国際大学は、①実学主義、②国際主義、③地域主義で、地域への貢献は開学時から謳い込まれていた。「地域デザインコースを設置して、当時から地域連携教育を行なっていましたが、志願者が集まりませんでした」。しかし、この経験はのちの地域連携事業に生かされることになる。小規模ではあるが、経済・経営、国際英語、観光、スポーツ、放送、映像、情報、食、ファッション、住環境など、実学として幅広いコース・課程を揃えている。2012年、大学の使命を再確認して「地域主義」の原点に立ち返り、全学的な合意が図られた。ちょうど、大学COC事業など、文部科学省の政策として地域連携が重視された時期とも重なった。「採択はされませんでしたが、これを機に、本学が地域連携とその教育に全学的に取り組むことを近隣の自治体に伝えて回りました」と吉村学長は振り返る。
 一方、堺市は2006年に政令指定都市となり、西区では、市民が幅広く参加する区民まちづくり会議を設置し、その中で、区唯一の大学に注目していた。「相互に連携できる事業を積極的に模索していくことになりました」。西区との連携事業は、主に福祉や教育など地域の暮らしやすさを目的としているのに対して、堺市とは経済活性や観光振興で事業連携が進んでいる。
 具体的な取り組みを見よう。
 まず、西区との連携による備蓄食料を活用したレシピの開発である。防災啓発の過程で、家庭の非常食を消費しながら買い足していく「ローリングストック」に注目、大学、区、そして、大阪ガス株式会社の産官学連携で、備蓄食料を使った「家庭でできるレシピ」のコンテストを開催した。コンテストには、新設した食クリエイトコースの全学生が参加し、乾パンやアルファ化米などの美味しい食べ方を考案した。さらに最優秀賞を獲得した「カンパンクッキー」などはリーフレットにまとめられ、「親子防災クッキング」でレシピをもとに調理した。「これは、消費者庁の食品ロス削減に取り組む大学生の事例に取り上げられました。この取り組みを通して区民の防災意識が高まることを期待しています。また、留学生も積極的に参加し優秀賞を受賞したことは大変心強く思いました」と吉田課長は胸を張る。
 堺市とは、2016年、市の知名度を上げるシティプロモーションという観点から、放送・メディア映像学科の学生が、市民の足である路面電車「阪堺電車」を舞台とするオムニバスドラマの制作に協力した。「堺出身の脚本家今井雅子氏の協力のもと、地元高校生がシナリオを書き、本学の学生が監督を務めました。「阪堺電車」という作品名で、市のウェブサイトから閲覧できます」と辻井副室長は説明する。また、市は「堺・アセアンウィーク」を2009年から開催しているが、毎年、放送・メディア映像学科の学生がこの公式映像を制作し、近年では、アセアン諸国の学生との交流を活発に行っている。
 2018年からは西区民まちづくり評議会に公募委員として学生が参画。地域行事に若者が参加しない課題に対して、SNSを使えないかと提案した。それが採択され、今度は「プロジェクト演習」としてSNSページの開設を支援することになった。「区とは単発ではなく、連続した政策として学生が継続的に関われる体制が整ってきました。「石津っ子クラブ」という民間学童への協力とSNSの開設等を委託されています。留学生が絵本を母語に翻訳して読み聞かせしたりもしています」と吉田課長は述べる。西区長ほか区職員とは、日頃から話し合いニーズを丁寧に拾っていく。それらを大学に持ち帰り、学内で議論して何ができるかを検討していく。西区は大学という資源を前提としたまちづくり政策を立案している。大学も、依頼に対して断ることはない。窓口は総合企画室ではあるが、一度繋がってしまえば、直接教員や担当部署に連絡が行く。西区との取り組みを他の区が聞きつけて、「うちでもやってほしい」と依頼されることもある。包括連携協定は主に近隣自治体と結んでおり、2011年に泉大津市、2012年に高石市、2014年に堺市西区、和歌山県湯浅町があり、協定は締結していないが、京都府京丹後市大宮町とは、過疎化対策支援として様々な交流行事を実施している。特に、堺市、高石市に法人の学園がまたがるため、両市を繋ぐ結節点としての役割も担う。

●和歌山県湯浅町との連携

 もう一つ大きな特徴が和歌山県湯浅町との連携である。「本学から和歌山市までは、鉄道で1時間弱、2割近くの学生が和歌山出身です。高校訪問でも進路指導教師に『大阪に預けて下さい。卒業後は和歌山に帰します』と訴えていますし、本学にとって和歌山は第二の故郷です」と清水事務局長は述べる。2011年には和歌山駅前に「わかやまサテライト」を開設。地域活動・情報発信の拠点であるとともに、和歌山で就職を考える学生の活動を支えている。和歌山県が掲げる「大学のふるさと」事業にはただちに手を挙げ、2014年9月、和歌山県、湯浅町、同大学との協定が調印され、同事業の第一号となった。湯浅町は、醤油醸造、そして、金山寺味噌の発祥の地である。食物栄養学科石川英子教授ゼミではこれらに加え柑橘類や湯浅ナスなどの食材を使ったレシピを3年以上かけて100ほど考案した。毎年開催される「ギョギョっとおさかな祭り」での販売や小学生との「わくわくチャレンジ教室」、あるいは大学の学園祭などを通して披露し、厳選された50ほどのレシピをまとめ、放送・メディア映像学科の教員が撮影を手掛け、『湯浅のおもてなし』という冊子にした。「このレシピを、町内の食堂のメニューとして出していただいています。学生の視点が加わることで、これら特産品の良さを地元の人たちにも再発見してもらっています」と吉村学長は述べる。この他にも顯國神社の例大祭での神輿担ぎの復活、同町の魅力を発信するための映像作成など、5年以上にわたって同町との連携事業を継続、発展させてきた。
 学生時代に町に関わることで、卒業後も遊びに行く。実際、卒業生が新婚旅行に行ったり、行事の手伝いに行ったりもしているという。こうした関係人口を作っていくことも大学ができることであろう。
 自治体との関係について清水事務局長はこう指摘する。「単年度の取り組みも多いのですが、それでは地域にとっても大学にとっても中身が深まらない。地方創生は、戦略的観点から、長期的、継続的に行うことが重要であり、またそのためにはコストも掛かるということを理解していただく必要があります。一過性の事業に終わらせないためには、事業を自治体の総合計画に組み入れてもらい、予算化してもらうことも時に必要になると思います。そうした視点も地域と育みたいと考えています。

●学科横断のプロジェクト演習

 インターンシップは開学時から行なっており、現在は、夏期と春期に単位認定型正課科目として実施している。受け入れ企業数は200社ほど。キャリアセンターや教員を通じて、独自に開拓した企業とともに、経営者協会や中小企業家同友会などの会員企業がある。低学年次に企業で5日から10日間実習する。「留学生も含めて全学生の2割程度がインターンシップを行います。各受け入れ企業には、実践的職業人の育成という理念に賛同していただき、右も左もわからない学生を温かい目で学生達を見守り、堺や和歌山の未来を担う若者の育成を真剣に考えていただいています」と辻井副室長。湯浅町出身の放送・メディアコースの稲内萌さんは、和歌山放送ラジオでインターンを経験、実際に原稿を読んだ。その後、第35回NHK全国大学放送コンテストのアナウンス部門にエントリーし全国第2位になった。和歌山の良さを自分で再発見しながら学内外にもPRがしたくなり、学生同士で学内県人会も立ち上げたという。
 学生の地域の取り組みはカリキュラムに落とし込まれる。これまでは「教養教育」としてインターンシップ、ボランティア、海外留学が行われていたが、2018年度より、様々な地域での取り組みを学科横断で行うために全学共通専門科目として「PBL入門」「プロジェクト演習」をカリキュラムに組み入れた。これは、大学とともに調査したい、解決したいという課題を地域から公募し、教員と情報共有、協議して、授業として成立するかどうかを審査し、採択された場合には授業ごとに予算10万円が支給されるもの。このPBL型科目は学科横断で行われるため、プロジェクトの内容に関心を持つ様々な専攻の学生が参画し、課題提案者(地域)、学生、教員が連携して課題の解決に取り組む。この授業は、ディプロマポリシーと紐づいたルーブリックによって評価される。
 具体的に今年度実施しているのは、先述の「石津っ子クラブ」のほか、大阪府からの「学生(留学生)目線で見た外国人就労問題の比較」、全国大学生活協同組合連合会からの「エシカルな生協を立ち上げるプロジェクト」、地域の一般社団法人からの「大阪の緑化推進プロジェクト」などがある。「発表会では、他グループの学生による相互評価も行われ、相互評価用ルーブリックも別途作成しています。課題解決型授業は、学生のモチベーションを高め、学生を能動的な学習者に育てる上で大きな効果があると思います」と谷口課長は述べる。

●留学生が地域に関わる

 この大学の地域連携の特徴は2つある。
 1つが、250人弱という国際大学ならではの留学生の多さである(学生総数の約2割)。多くはアジアからだが、その構成比はインバウンドとも一致しているという。また、堺市はアジアとの交流が盛んであることから、連携事業には自然と多くの留学生が参加する。たとえば、先述の「阪堺電車」は、留学生が中国語と韓国語の字幕を付け、中国の映像コンクールに出展し、優秀作品として表彰された。湯浅町の連携事業でも、留学生が神輿を担ぎ、熊野古道の巡礼者の着物を着る。留学生の視点で地域資源を再発見し観光サービスのアイデアを出すことは、学生・地域の双方にとって大きなメリットがある。留学生による市役所の外国語の掲示板の利便性等についての調査も始まったが、今後、万博絡みのテーマで国際都市としてのプロジェクト演習は増えてくるだろう。
 2つが、法人の理事構成である。約100年前に地域の協力により設立された経緯から、同学園はオーナーが経営するのではなく、地元企業や自治体などの支援を受けながら、地域からの「預かりもの」として運営されてきた。歴代理事長、理事は地元の篤志家が多く、学園発展のために自らの人脈を惜しみなく提供する。市長や区長とは、日頃からざっくばらんに話し合う関係性が構築されており、理事長や理事の声掛けで始まった事業もある。また、同法人は女子学校時代が長く、「羽衣出身の奥さん」という地域の有力者も多い。地域の人のつながりそのものが、大学の人的ネットワークとして、現在の地域連携や教育に役立っている。
 大阪市は、2025年に万博を開催する。インバウンドも更に増えるだろう。しかしながら、大阪は北部が中心であり、関西国際空港まで素通りしてしまい、あまり南部に足を止めない。これには堺市も危機感を強めていて、どのように魅力をアピールするかは、この大学に大きな期待を寄せている。「小規模なので、限界はありますが」と清水事務局長は言うが、和歌山からもますます協力依頼の声がかかるだろう。大学はもともと、地元自治体の協力や産業界からの寄付によって誕生している。教職員はその大学の理念を理解して学生のため、地域のために汗をかく。標語「BE the ONE」は、学生のみならず、地域にとってかけがえのない存在になるという、大学自身を奮い立たせるメッセージでもあるのだろう。
 羽衣国際大学は、まさに地域によって育まれた地域の大学である。