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特集・連載

国際交流

-4-キャンパス・アジアアジア高等教育圏を目指して
UMAPで日本のリーダーシップを

大阪商業大学理事長・学長 谷岡一郎

 UMAPとは
 UMAP(UniversityMobility in Asia andthe Pacific)とは、アジア・太平洋地域の大学間で単位互換のスキームを共有し、学生や教員、スタッフに至る人々の交流を盛んにしていこうとするプロジェクトである。
 日本私立大学団体連合会は、UMAPに対し年間150万円を計上しているが、これはUMAPが文部科学省により、留学生政策における方針の1つと位置づけられているからであり、国立大学協会、公立大学協会も(規模や役割において差はあるものの)同様に拠出している。また、文部科学省も少なからぬ予算を計上している。
 衆知のことであるが、日本私立大学団体連合会は、日本私立大学協会を含む私立大学3団体が集まって形成される、私立大学の統合的組織である。留学生や国際交流の問題は、団体毎のバラバラの対応がそぐわないケースであり、3団体は委員を出し合い、国際交流委員会を組織している。
 ブロック化する国際交流
 UMAPの歴史は古く、設立は1991年夏である。当時は、ヨーロッパですでに「エラスムス計画」が実質的にスタートしており、アメリカ大陸でもアメリカ合衆国、カナダ、メキシコを創設国とする単位互換スキームが計画され、スタートの準備にかかっていた頃である。エラスムス計画自体、EUの形成に伴い、アメリカに流れ続ける優秀な頭脳をヨーロッパ大陸内に留め置くことが、主要目的のひとつであった。こうした(言葉は悪いが)学生の囲い込み(ブロック化)が、90年代初め頃の世界の動きであったと言える。
 そのブロック化に対し、アジアの留学熱を、ポテンシャル・マーケットと考えていたのが、オーストラリアである。1991年、アジア・太平洋地域の国々に誘いかけ、各国2人までという前提でキャンベラに集まったのが初まりであった。日本からは国立大より1名、私立大より1名(西川哲治東京理科大学学長)が正式代表として参加。私もオブザーバーとして会議に出席させてもらった。かくしてUMAPプロジェクトがスタートしたのである。
 日本でも1993年に大阪大学で、理事会およびシンポジウムが開催されるなど、順調に推移しているようにも見えたのだが、難しい面もないではなかった。たとえば日本に最も多くの留学生を送っている中国(本土)は、UMAPに興味を持つに至らなかった。それでもUMAPは日本の国際教育政策の中心となり、1998年にはユネスコ主催の第1回世界高等教育会議(パリ)において、当時の文部省次官が、「日本の留学生政策はUMAPを軸に進めていく」ことを英語で世界に発信した経緯がある。
 UMAPの再出発
 90年代半頃までに、UMAPにおけるオーストラリアのリーダーシップに、蔭りが見え始める。日本私立大学団体連合会も少し距離を置くようになり、国内での積極的参加校も頭打ちの状態が続く。バブル景気の衰退もあって、順調に増えつつあった日本への留学生も、20世紀の終わり頃には減少傾向を見せ始めたのである。
 1996年に新たな予算や研究費も提案され、もう一度UMAPを立て直す努力が再スタートした。2000年には初回(五年間)の持ち回り国際事務局(IS)が、中嶋嶺雄氏(当時は東京外国語大学長)を事務局長として日本でスタートし、リーダーシップを発揮する契機がやってきたのである。
 ISはその後、タイのバンコクに移り、2010年からは台湾に置かれることとなった。日本、タイともにISの重責を果たし、UMAPは確実に前進するきざしを見せている。一時期は興味を示したのにも拘らず、現在では撤退ぎみの国(特に英語を母国語とする国々)もあるが、それ以上にブルネイ、フィリピン、インド、ベトナムなど、新たに参加した国も少なくない。中国本土が空白状態なのは確かだが、代わりに香港やマカオが積極的に活動している。
 UMAPとUCTS
 異なる国々で単位互換を進めるには、単なる友好協定では不充分で、そのための具体的なツールが必要となる。たとえばエラスムス計画においても、具体的な単位数や成績の換算を行うために、ECTS(Erasmus Credit Transfer Scheme)というスキームが使用されているが、UMAPではUCTSがそれに相当する。UCTS(UMAP Credit Transfer Scheme)とは、アジア太平洋地域における国によって異なる単位数、成績評価などを、一定の規準に揃えるための換算方式のことである。
 具体例で説明すると、日本では、通常「A~C」が合格で「D」は不合格であることがほとんどだが、オーストラリアでは「D」も合格に含まれ、不合格は「E~」である。それではオーストラリアの「B」は日本で何に相当すべきか、ということになろう。また日本の2単位は、UCTS換算で3.87単位、そしてUCTSとECTS間では、〔1対1.6〕という比率で計算されるという合意(2010年10月、広島大学堀田教授のメモより)ができたそうだ。
 UCTSを使用しなくとも交流していけるのは否定しないが、今後のキャンパス・アジア構想などを考えるにあたっては、UCTSこそ最適のツールであることはまちがいない。なぜなら、他国の大学に留学したと考えた場合でも、その大学の近くの大学の単位を履修したりすることもありえるわけだし、意欲ある学生は複数の国に留学する時代にもなっているからである。現在では、UCTSをオンラインで活用するプロジェクトも軌道に乗りつつあり、短期、長期のプログラムについて単位互換に活用されている。
 この企画初回の二宮教授も紹介していたことであるが、これからの留学生は欧米一辺倒から離脱し、アジアに目を向け始める可能性が高い。そして、アジア全体をひとつのキャンパスと考える時代も、手の届くところに来ているのである。よりマルチな国際的連携を視野に入れるなら、UCTSは便利なツールだと断言できる。
 各大学ですべきことは、UMAPに登録し、UCTSを単位換算に使用する宣言だけである。そのための必要手続きとして、教授会などにおける決議があればよい。
 加えて(願わくば)ダブル(トリプル)・ディグリーの条件などを決めて頂ければ、より円滑に事が進むだろう。特別なコストはほぼゼロで、逆にアジア各国の大学の内部情報を入手できる。良いことずくめのスキームだと言ってよいだろう。
 日本のリーダーシップを
 日本の大学は海外から提携話を持ちかけられ、それを受ける形で国際協力をスタートさせていることが多い。しかし、これからの国際交流に必要な視点は、どこのどのような大学と姉妹になりたいのかという、より能動的な哲学であるべきだと信じる。
 同じ理屈は、日本の国際教育政策についても言えるだろう。我が国では私立、国立、公立大学の共通窓口としてJACUIE(国公私立大学団体国際交流担当委員長協議会)という組織が存在するが、主として海外からの(国単位の)「交流申込みの受け皿」としてしか機能していない。UMAPに最も拠出金を出してきたのは日本であり、アジア全体の教育に責任あるリーダーシップを発揮するつもりがあるなら、今こそ本格的かつ能動的にUMAPに乗り出すべき時だと信ずる。