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コロナ禍でのICTを活用した新しい授業(2022年度)

科目とICTツールの特性を組み合わせる
本紙企画「コロナ禍でのICTを活用した新しい授業」

本紙では、昨年度から「コロナ禍でのICTを活用した新しい授業」を企画しているが、本年も日本私立大学協会(小原芳明会長)の加盟大学に募集、全国から8大学9事例の応募があった。本欄ではそのうちの3件を紹介する。このたびも日本高等教育開発協会(中井俊樹会長)の協力を得た。選定や取材、執筆に携わった西野毅朗副会長は、「今回選定した3事例は、対面授業・遠隔授業・学修支援にICTをどのように活用できるかをそれぞれわかりやすく示している。科目の特性とICTツールの特性を考慮し、組み合わせとコミュニケーションの取り方を工夫することで、より効果的な教育・学修につなげられるだろう」とコメントした。

読み書きの力を伸ばす「テキストチャット型」授業 
大阪経済大学 全学共通科目(広域科目)「哲学入門」

 大阪経済大学経営学部ビジネス法学科の稲岡大志准教授が担当する「哲学入門」は、全学共通科目(広域科目)のうちの「思想と文化」に含まれる選択必修科目である。コロナ禍当初の2020年度春学期、オンライン授業の手法として考案されたのは「テキストチャット型」と命名された、哲学テキストの提示と学生に対する問いかけと応答を中心とした文字のみのやりとりによる授業である。
本科目は、250人前後が受講する多人数授業であることから、ゼミナール科目や一定程度の受講者数の科目が対面での授業に戻った現在も、オンライン授業を継続している。
稲岡准教授の「哲学入門」は、テキストを正確に読むことや自分の考えをきちんとした文章として表現することを通して「哲学する」授業である。授業の目標として、哲学の問題にはどのような問題があるのか説明すること、哲学的思考を行い文章で表現すること、他人の哲学的思考を理解し、自分なりに疑問を立てることができるようになることの3つを掲げている。

「テキストチャット型」授業の基本

文字のみのやりとりによるオンライン授業を実施するために使用されるのはMicrosoft Teamsである。受講生が登録された「哲学入門」のチーム内で授業回ごとにチャネルを作成し、対面授業において口頭で伝える内容をテキストとして投稿する形で授業を行う。そのため、授業の事前準備として、教室での授業において口頭で行うテキストの解説を文章化する必要がある。
授業の基本的流れとしては、まず前回の授業で学生に出題した課題への回答をコメント付きで紹介し、学生の文章を添削した結果を示すという復習から始まる。次に、当日の授業内容に応じて、野矢茂樹編『子どもの難問――哲学者の先生、教えてください!』などの哲学テキストを示しながら解説を行い、随時学生の理解度を試す問いを投げかけて書き込みさせる。最後にまとめを行い、推薦図書として2、3冊の本を紹介した後で、Microsoft Formsを用いて授業課題を出す。授業の流れが後から見ても把握できるよう、授業回のチャネルに時系列でスレッド番号を付したり、一画面で収まる内容を投稿したりすることで見やすさの工夫を行う。

双方向のやりとりを大切にする

「哲学入門」では、Teams上での教員と学生との双方向のやりとりが実現している。授業のチャネルで、「世界に端はあるだろうか?」という問いを学生に投げかけると、学生たちは自分の考えを次々に書き込む。Teams上には投稿者の氏名と書き込んだ内容が表示され、文字によるやりとりはクラス全体で共有される。
稲岡准教授は、学生が投稿すると即座に応答し、学生たちが次々に投稿する内容に対して書き込みを加えていく。問いかけに積極的に書き込むのは受講生のうち2割から3割程度とのことだ。書き込みしないがきちんと読んでいる学生、自己表現が苦手な学生もおり、読んでいるか否かは授業課題の提出内容で判断できる。
議論への反論を扱う回では、例えば「映画館で映画を見る人の数が減っているのは映画鑑賞の料金が高いせいだ。」という文を示し反論を書かせる。書き込まれた反論には、Teamsのスタンプを用いて学生同士で評価させる。適切な反論の場合に使用する絵文字、分からない場合に表示する絵文字等を示しておくことで、学生同士でフィードバックを行うことができる。
 毎回の授業で出題する課題用の問いは、学生から募集する。問いを募集するスレッドに書き込んでもらい、そこから教員が一つ選択して課題として提示するという仕方で、これまで「『成功』の反対はなんだろうか?」や「『空気を読む』の『空気』とはなんだろう?」などの問いを出題している。学生からの質問も課題提出時に受け付けており、長い時には10頁程にもなる質疑応答のまとめを作成し次回授業時にファイルを提示する。十分に説明していなかった部分を質問する学生も授業内容と関係ない質問をする学生もいるが、どこかで哲学に興味をもってもらえると嬉しいため、どちらの質問についても丁寧にフィードバックする。
昨年度実施した哲学対話に、オンライン授業を受講した学生が参加したり、紹介した本を研究室に借りに来たりする学生もいるとのことだ。
授業課題の添削で書く力を向上させる
問いを出す授業課題では、学生が200字や300字程度の文章を「てにをは」レベルで適切に書けるようになることを目指す。前回の授業で出題した問いに対して、次回の授業の冒頭で、10~20人の提出課題を匿名で示しフィードバックを行う。学生に示すときには内容が関連するように紹介の順序を工夫し、最初に一般的な内容を紹介する等、文章を読んでいくことで、文章を書いた他の学生たちとバーチャルな対話が成り立つようにしている。
学生は文末を「と考える」で結んだり話し言葉を用いたりするので、学生の書いた部分を太字で示した上で、該当箇所を赤字で添削し理由を説明する。最後に添削部分を削除した文章と添削前の文章を並べ比較させる。毎回の授業でフィードバックすることで提出課題の質が少しずつ向上し、「と考える」で終わる文章が減少する。
学修成果は、15回目の授業課題から学生をランダムに抽出し、初回の授業課題と比較することで、最初からよく書けている学生、文章がよくなった学生、文章がよくなっていない学生というように確認することができる。

書いてあるとおりに読むことの難しさを実感させる

読むことについては、1500字程度の文章を読み理解できるようになることを目指し、哲学テキストをパラグラフごとに投稿し解説する。 Teams上ではパラグラフごとに引用した箇所を太字で示した上で、文章やスライドを用いて解説し、理解度を確認する簡単な問いかけを行う。哲学テキストの引用と解説部分は事前に準備しておき、授業の流れに沿って投稿する。知識なしに理解できない文章の場合は、哲学者の紹介や概念の説明も行う。
学生の理解度は、「著者の言いたいこと」を表す一文や指示語が指している内容を書き込むよう指示することで確認しながら進める。理解度は均一ではなく、学生には書いてあるとおりに読むのは難しいこと、どこが分からないか言えることが大事であること、学修を通してスキルを身につけていくのだと伝えている。
最終の評価は、テキストを読んで書くレポート課題で行う。最終レポートで適切に書けている学生が授業を通して読解力や文章力を伸ばしたのか、最初からある程度の文章力や読解力をもっていたのかどうかは判別が難しく、現在の課題となっている点であるとうかがった。

まとめ

本事例からは、授業を文字のみのやりとりで行う際に、クラス全体で教材や意見を共有するためのICTツールとその活用法、学生の読み書きのスキルを鍛える双方向型の手法を学ぶことができる。
稲岡准教授は、哲学は基本的にテキストを読み考える分野であるため、文字のみのやりとりによる授業の適性があるのではないかと語る。「哲学入門」でテキストとして提示される内容や投げかけられる問いが思考を喚起するものであるからこそ、学生は自分で考えて書くよう促される。「テキストチャット型」を授業に導入する場合には、適切な問いや課題の設定が不可欠であり、本事例はこの点を考える上でも参考となる取組である。(関西福祉科学大学 久保田祐歌)

アナログとデジタルの併用で成績向上
藍野大学 臨床工学科 科目「電子工学Ⅰ」

 藍野大学医療保険学部臨床工学科の「電子工学Ⅰ」は、同学科2年次前期の必修専門基礎科目(2022年度の履修者は69名)である。この科目の学修内容は、3年次からの電子工学実習の前提となり、かつ国家試験の設問内容にも大きく絡む重要なものである。
しかし、高校時代に物理を履修している学生は少なく、数学にも苦手意識を持つ学生が多く、彼らに理解してもらうには大変困難な内容である。そのような中でも、アナログな方法とデジタルな方法を併用することで、コロナ禍前よりも最終成績の平均点を高め、落第率を下げることに成功したのが科目担当の五十嵐朗教授である。

遠隔授業から対面授業へ

 2020年度はコロナ禍の影響で遠隔授業にせざるを得ず、講義動画を用いたオンデマンド授業を行った。学力の高い学生はこの方法でも十分に学ぶことができたが、学力中間層および低位層の学生の成績は落ちてしまった。その理由として、遠隔授業では教員に質問しにくいことが考えられた。ポータルサイトに教員への質問掲示板を作成しても、誰も書き込まないのである。
そこで、2021年度以降は対面授業に戻した。すると、やはり授業後に質問にやってくる学生が増えた。一人でやってくる学生もいれば、友達と連れ立って訪れる学生もいる。特に後者の学生には、学力中間層と低位層の者も含まれ、理解を深められているようだ。質問のしやすさという観点から対面授業は学生にとって有益に思う。

過去の動画教材が強力な復習材料に

 しかし、すべてをコロナ前に戻したわけではない。平均点の向上と、落第率の低下に最も効果的だったのは、過去の動画教材である。2020年度に作成した講義動画と、現在の講義内容は変わらない。そこで、対面授業を行った後に過去の講義動画も受講生に公開するようにした。この講義動画の再生時間は、1つあたり10分から15分になっている。また、2倍速で聞いても理解できるよう、少しゆっくり目に、かつハキハキとした口調で録画したものである。
学生は、通学時間や、ちょっとした隙間時間にこれを見て、何度も復習しているようだ。テーマ毎に区切られているため、理解が困難だった授業内容をピンポイントで復習できる点も学生には好評である。遅刻・欠席した学生も見ることができるため、体調不良等のため授業についていけなくなるという問題も予防することができる。

オンラインの小テストは継続実施

 遠隔授業時に導入したオンラインでの小テストは対面授業になった今でも継続して実施している。毎授業後に5問程度の多肢選択問題を提示し、回答期限を越えた時点で学生に得点が自動的にフィードバックされるようになっている。過去に作った小テストはシステム上で簡単にインポート、エクスポートすることができる。
小テストでは国家試験や民間試験の過去問を活用しているため、一部の問題は差し替えなど行っているが、多くの問題はそのまま使うことができるため大変効率的だ。ちなみに、正答の解説は、次の対面授業回で行うようにしている。

アナログなプリント配布も重要

 この小テストのポイントは、オンラインで開示するだけでなく、プリント形式で印刷配布もしている点にある。印刷された小テストプリントに回答を書き込み、その回答をオンラインで入力して提出するようにさせているのだ。小テストで出される問題は、単に暗記した知識を再生するだけのものではない。中には計算して解かなければならないものも多くある。なぜその回答を選んだのかを学生自身がメモしておかなければ、正解・不正解の"理由"を考えることができない。正解することが重要なのではなく、正解にたどり着くまでの思考プロセスが重要なのである。
配布されたプリントに自身の回答を書いておけば、次の授業回での教員の正答解説もメモすることができ、小テストの結果からさらに学ぶことができる。また、小テストプリントを蓄積しておけば、期末試験の前に復習することも容易になる。

対面授業でもPDF書き込み式

 肝心の対面授業の進め方はどうだろうか。基本的に、小テストの正答解説と、新しい内容の講義で授業は終わる。この講義だが、板書はしない。手元にタブレットを用意し、その画面をスクリーンに映写して進める。独自に作成したプリントPDFを開き、ペン機能を使って解説をどんどん書き込んでいくのである。この方法は動画教材の作成法と変わらない。このプリントは学生にも印刷配布しict_ictているので、学生は講義を聞き、教員が書き込んでいくプリント映像を見ながら、自分のプリントに追記していくのである。

なお、教員が書き込んだPDFファイルは授業後に学生に共有される。もし授業中にメモを取り切れなかった場合は、授業後にこのファイルを見て追記することが可能だ。ノートの取り方がわからない、教員の板書についていけないという学生も、この方法であれば学びやすい。

さらなる成績向上のために

 理解を深めるためには、コミュニケーションが不可欠である。それは、教員と学生間はもちろん、学生同士のコミュニケーションも重要である。授業中のやりとりはもちろんだが、授業外のやりとりも活性化させていきたい。そのために全学的に導入したコミュニケーションツール「Slack」を有効活用していく予定である。
 また、現在は小テスト10%と期末試験90%で成績評価を行っているが、新たに中間試験を導入することで、より計画的に学びやすくしたいと考えている。中間レポートを課すことも考えたが、2020年度以降、授業時間外課題を課す科目が増え、学生が疲弊している様子も見受けられる。中間試験であれば、それまでの学びを復習するだけで対応できるため負担感が少なく、かつ国試対策にも直結するため効果的であろう。
まとめ
 この事例から学べることは、目の前の学生の学びをより良いものにするために、使えるものを全て使い、効果的に組み合わせることの価値である。対面授業があるから動画教材はいらない、オンラインで小テストを行うからプリントアウトは必要ない、ということにはならない。過去に作ったものを使わないのはもったいないから使う、ということでもない。多様な学生がいる中で、彼らが学びやすくするためにはどうすればよいかと試行錯誤した結果、遠隔授業で培ったノウハウと、対面授業の良さを組み合わせるに至ったのである。
新しいICT技術を取りいれていくことも有益であろうが、あらためて今まで取り入れてきたものの良さを再確認し、アナログとデジタルを組み合わせたより効果的な授業づくりを模索してみてはどうだろうか。(京都橘大学 西野毅朗)

学生スタッフによるICTを活用した情報保証
嘉悦大学 ノートテイキングの取り組み

 嘉悦大学は東京都小平市に所在し、経営経済学部の1学部により1200人程の学生規模を持つ。「実学」「実務」「実践」を重視するカリキュラムを持ち、とくに初年次教育では実学系と実務系の入門科目、社会人基礎科目が充実しており、その学修が2年目以降の経営・経済学の知識・スキル学修と、「マーケティング」「ICT・データサイエンス」「会計・ファイナンス」「ビジネス法務」の実務に係る学修、企業・地域と連携して構成される「研究会」での実践的学びに活きる仕掛け作りがなされている。
ICT教育にも力を入れており、「ICT・データサイエンス」に係るプログラムについては、内閣府・文部科学省・経済産業省による「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の「リテラシーレベル」および「応用基礎レベル」に認定されている。今では珍しくないBYOD(学生のPCの持参)も、1996年からと、かなり早い時期から義務付けてきた。

「働ける大学」制度

 同大学のもう1つの特長は、学生が「働ける大学」であることだ。「働ける大学」制度は、中退者予防のために学生の居場所を作ること、そして教職員と学生とのハブとなりロールモデルになれるような学生の成長支援を行い、キャンパスに活気をもたらすことを目的とされ導入された。2005年に情報メディアセンターのヘルプデスクに初めて学生を登用し、2006年からはSA制度を設け、基礎ゼミナールやICT系科目の授業支援を担当する学生を登用した。2009年には学生自身が運営する「学内業務請負システム」HRC(ヒューマンリソースセンター)が開設され、現在は前述の2部署も含めた7つの部署を統括している。
これら7つの部署は、大学組織との関係では、「学生支援センター」管轄に「SA(42人)」1部署。「情報メディアセンター」管轄に「ヘルプデスク(18人)」「Liss(図書館学生スタッフ:14人)」「CAT(キャンパス支援スタッフ:11人)」「S―CAT(聴覚障がい学生支援スタッフ:5人)」の4部署。そして、「アドミッションセンター」管轄として「オープンキャンパス(28人)」「学生広報部(10人)」の2部署が所管されている。いずれの部署においても、学生スタッフ主体で新人の募集・採用・研修が行われており、教職員の支援を受けつつも基本的には学生自ら活動を計画し、実施し、評価を行っている。

聴覚障がいのある学生の入学と情報保証体制の構築

同大学では、2019年に聴覚障がいのある学生が2名入学した。その入学に際しては、2018年11月から、特別支援学校の先生方へのヒアリングを開始し、情報保障の方法について議論を重ねた。その結果、先述の「働ける大学」の組織とBYODの学修環境を活かし、学生によるPCノートテイキングにより情報保障を行なっていくことを決定した。授業における情報保障のあり方としては、例えば手話通訳を雇用し、教室にて同時通訳するなども考えられる。
しかし、この方法では費用面でのコストがかかることの他、翻訳者が授業内容を理解しつつ業務を行う必要もあり、専門知識・技能を扱う高等教育での実現は困難である。諸大学では、ボランティア学生によるノートテイキングが一般的であるが、「働ける大学」制度を有する同大学では、教職学協働での組織的な対応が可能であったため、授業における情報保障の体制作りも短い期間で行えている。
聴覚障がいのある学生の入学に備え、大学では「ヘルプデスク」「Liss」「CAT」の学生スタッフも参画しつつ、「S―CAT」を新たに設け、ノートテイキングのトレーニングを繰り返した。なお、現在「S―CAT」は5名の学生により運営されているが、「情報メディアセンター」管轄部署の学生スタッフは全員ノートテイキングの研修を受けており、例えば「S―CAT」学生スタッフと聴覚障がいのある学生の受講授業の時間が重なる場合などは、サービスに支障が出ないようにしている。

音声認識ソフトによるノートテイキング

 授業における情報保障のためのインフラ構成は非常にシンプルである。中心になるのは音声認識・テキスト変換用ソフトによる「発話言語→テキスト表示」であり、そこに誤変換対応とコミュニケーション支援のために学生が介在する。この方法ならば、教室備え付けの音響設備に音声認識・テキスト変換用のPCを直結し、受信用タブレット(聴覚障がい学生用)と、誤変換を修正するために介入させるPC(学生スタッフによるノートテイキング用:学生個人のPC)を準備すればよく、Wi-Fi環境が整っていれば簡単にインフラの構築が可能である。
業務にあたっては、「S―CAT」学生スタッフが2人1組であたっている。1人は専ら、教員の発話する言葉を傾聴しつつPC上で変換されたテキストに注視し、誤変換の修正を行う。もう1人のスタッフは、聴覚障がいのある学生の傍で教科書の該当箇所や資料を指し示すなどを行うとともに、Google WorkspaceのアプリやSNSを用いつつ情報の交流・共有を行い支援する。これによって、教室内での質疑応答やグループワーク時の発話などにも対応することができ、授業における双方向・多方向性も確保できる。
なお、同大学では、音声認識・テキスト変換用のソフトとして「UDトーク(Shamrock Records, Inc)」を使用している。当該ソフトはタブレット、スマートフォンのアプリがあり、使用台数の制限なく月額1万6000円で法人契約が結べるなどコストが低く汎用性が高い。授業場面における連続発話認識・テキスト変換の精度も高く、PC版のアプリでは分かりやすい画面レイアウトにより誤変換修正も容易である。

HRC主催の「教職学ミーティング」に参加して

岡本先生のご案内で、HRCが主催する2022年度後期「教職学ミーティング」に参加させていただいた。このような会議場面においても情報保証体制が当然のようにとられており、当日は、教室前方に大型モニターが設置され、報告者の発話がテキスト変換・表示されていた。これは授業場面にも応用可能で、健聴者学生の授業内容理解のためにも有効であろう。
「教職学ミーティング」では、各部署のリーダースタッフにより順番に活動の報告と振り返りが行われた。振り返りにあたっては、問題のあった事象についての原因が分析・仮定され、その解決に向かう改善策が具体的に提示されるなど、カリキュラムがしっかりと機能し、大学として目指している能力が学生に身に付き活かされていることがうかがえた。データを取って現状を観察し把握すること、仕事の質を担保するためにマニュアルを作成すること、報告を確実にすること、スタッフのスキルアップと価値観の醸成がチーム力を高めることなど、社会人としての必須の知識と価値観が共通知として理解され、自分たちが主体的に大学を動かし変えていこうとする意識の高さもうかがえた。

まとめ

 同大学には、現在4名の聴覚障がいのある学生が在籍しており、学生スタッフとしても教学支援の実務を担っている。「教職学ミーティング」では「Liss」のスタッフとして、聴覚障がいのある学生が報告を行っていた。私事ではあるが、障がい者の子を持つ親として、その姿に様々な想いがこみ上げた。障がいがあることは、そもそもその事だけによって能力を疑われることも少なくない。周囲の不理解に本人が傷つき保護者も家族も痛みを味わう。インクルーシブも合理的配慮も、認識が浅く形式的になされる対応は、当事者たちの心を更に重くする。
嘉悦大学の取り組みは、「実学」「実務」の学修成果が活用できる「実践」の場を設け、小規模大学としての機動性を活かし、学生を中心とした大学文化醸成の起点としていることで注目される。教職員が支援しつつもその主役は学生であり、学生が成長し変わっていくことで大学も成長する。健聴者学生も聴覚障がいのある学生も、ともに学び、その能力を活かし、チーム力を発揮し、ICTの知識・技能を活用しつつ大学という1つの社会の文化の醸成を担っていく。この理想を実現している意義は大きい。(神奈川工科大学 伊藤 勝久)