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コロナ禍でのICTを活用した新しい授業(2021年度)

学修成果をふまえたICTの活用 17大学26件の応募

 コロナ禍で余儀なくされたオンライン授業について、様々な工夫を凝らした事例を紹介すべく、教育学術新聞では、「コロナ禍でのICTを活用した新しい授業」を企画し、日本私立大学協会(小原芳明会長)の加盟大学に募集、全国から17大学26件の応募があった。この中から、日本高等教育開発協会(佐藤浩章会長)の協力のもと、6事例を選定・取材し本紙にて紹介した。
執筆に携わった日本高等教育開発協会の西野毅朗氏は、「本特集で紹介させていただいた6つの事例に共通することは、①コロナ禍を契機としつつ教育にICTを活用することのメリットを前向きに捉え、②学生の立場にたって授業の進め方を工夫し、③教育効果や学修成果にまで思考を巡らせている点にあるのではないだろうか。ICTの活用を、対面授業の代替策としてではなく、今まで以上に効率的で効果的な教育方法を模索するという観点から捉え直すことが期待される」とコメントした。

「デザイン経営」の理念を授業に活かす
東北工業大学 「アイデア基礎及び同演習I」

 下總良則准教授は、プロダクトデザイナー・グラフィックデザイナーとしてのキャリアを背景に「デザイン経営」の分野でフリーランスとして活躍してきた。「デザイン」と「経営」は、かけ離れた概念に思え、イメージするのに戸惑いもするが、経済産業省・特許庁「「デザイン経営」宣言」(産業競争力とデザインを考える研究会, 2018, https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf)によると、「デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用し、ブランド力とイノベーション力を向上させる経営の姿」(p.6)とされており、次世代産業を牽引する企業には必須であり、とくに日本の経営者に欠けている視点であることが指摘されている。産業界における「デザイン」は、社会の潜在的なニーズを利用者視点で掘り起こし事業にしていく営みである。ユーザーにとっての潜在的で根源的な利便性そのものを掘り起こすべく観察・考察・創造し、そういった「人間中心的視点」を基盤に「技術」を適切に組み合わせ、「利用価値」の高い製品を生み出していく。こういったマインドとプロセスを尊重する経営が、イノベーションとブランド力を導き企業価値を向上させる原動力となるのであるが、それは教育の世界にも当てはめることができる。

「アイデア」を産み出す心と力を身に付ける

 東北工業大学産業デザイン学科では、教育方針・養成する人材像として「製品からサービスまで幅広い分野で工学をベースとするデザインを生かし、リーダーシップをとれる専門家(デザイナーや各種クリエイター)を育成する」を掲げ、とくに学生が「多者間の関りからアイデアを創出できるようになる」ことを重視している。
ここで紹介する下總准教授の担当科目「アイデア基礎及び同演習Ⅰ」(1年前期必修3単位:受講生91名)は、大学での第一歩を踏み出す新1年生に、同学科で学んでいく上での学修の方法や考え方を身に付ける支援を行い、デザイナーとしての態度・アイデンティティー醸成の出発点とする入門講座である。また、本科目には多者間での創造的活動に必要とされるデジタルツールのリテラシーを上げる意図もある。そのため、授業の中ではZoomやmiro、Google App、Evernoteなどを積極的に使用し活動を展開している。

人間中心的視点と技術を組み合わせる

「アイデア基礎及び同演習Ⅰ」でとくに目を引くのが、受講生全員にノートPCを持参させ、教室内のプロジェクターとスピーカーも活用しつつ、対面授業内でリアルタイム型オンライン授業を展開していることである。

本科目では、受講生を2つの教室に分けつつ同時に授業を進行している。これはコロナ下の教育環境ゆえに三密を避ける意図もあるのだが、受講生に対し、物理的な席が離れていてもチームブレストできる実感と、実際に問題なくできるという自信獲得を促す効果が期待できる。対面でもあるので、受講生同士がその場で寄り添いながらフォローし合える環境も確保している。授業では、モニターを通して一人ひとりに問いかけられるZoomの特長を活かしつつ、2教室に分かれているデメリットをオンライン環境とツールによって利点に変えていく経験をしてもらうとともに、デジタルツールの活用を導きながら苦手意識のハードルを下げていくのである。
授業においてデジタルツールを使う一番のリスクは、アカウント作成時の混乱である。ツールによってはアカウント作成を全て英語で行う場合もあるため、担当教員とTAで支援しつつ、全受講生一斉に、段階的に行っていく。昨今の学生は、アカウントさえできてしまえば、すぐにツールに習熟し活用してくれるので、ここをしっかり押さえておけば授業での活用は容易である。

本科目での活動のフィードバックは、以下のようなプロセスをとる。①受講生の各グループは活動結果をA4用紙に手書きでまとめ、スマートフォンで撮影。②Evernoteを使い、教員宛に画像を送信。③教員は、授業間の休憩時間(10分間)に画像を確認、全体の学びに貢献できるものを選択。④教員は、選択した画像をiPad上のMetaMoJi Noteで開く。⑤授業再開後、iPadの画面をZoomで全体共有し、アップルペンシルで書き込みつつフィードバックし、全体で共有する。
 また、クラス全体に問いかける質問では、Zoomのチャット機能が有効に使われている。下總准教授は、チャット上の学生の回答を、声に出しながら全て読んで追うことに留意しており、そうすることによって、受講生に「教員が常に学生の発言をきちんと受け止めている」というメッセージを与えられるよう心掛けている。毎回、授業終了15分前には「今日の授業の学びで一つだけ自分ごととして持ち帰るなら、何を持ち帰るのか」を質問し、チャット回答を促す。全体で共有すべきものについては回答者に詳細な説明を求め、全体での振り返りに役立てていくのである。

まとめ

下總准教授は、「デザイン=意匠」とは「意=想うこと(理想すなわち社会にこうしたい)」と「匠=実現する力」から成り立つとする理念を大切にしており、物理的・時間的な障壁を超え「学びたい気持ちが実現できる」授業の可能性をデザイナーとしての立場から(人間中心的視点をもとに)考えたという。対面方式の授業は、往々にして授業担当者の一方的教授活動に終始し学修者がなおざりにされることがある。また、全体で授業が進行しているように見え、実は特定の学修者(教員の目の届く限り・受講者からは見える範囲)しか内包されず学修支援が終始するなど、空間の距離特性に起因する問題もある。しかし、授業デザインを、受講生の利便性の掘り起こしから始めるならば、授業方法を語る際、対面かオンラインかのディベートに陥ることはないであろう。
下總准教授の取り組みは、対面授業とオンライン授業の長所を併せつつ短所を解消することで、学生視点で子どもたちの学びと成長を支援できる授業の可能性を示している。(文責:神奈川工科大学 伊藤勝久)

オンラインで海外研修を実施する
名城大学 「国際フィールドワークⅡ(非英語圏)」

 海外留学を目指して入学してきた外国語系学部の学生にとって、コロナ禍は留学を不可能にしただけでなく、航空業界等の就職先の未来をも不透明なものとし、学習意欲を低下させる状況を引き起こしている。津村文彦教授の担当する外国語学部国際英語学科の専門科目「国際フィールドワークⅡ(非英語圏)」は①「海外における調査と発表の手法を習得する」と②「タイの文化と社会について、ミクロな視点から理解して説明できる」の二つを到達目標とし、海外研修を前提としている。2020年度はコロナ禍により海外研修が中止となったことにより不開講となったが、2021年度はICTを活用し、海外企業から出された課題についてオンラインで繋がった海外の大学生と協働しプレゼンテーションを行うプログラムに置き換えて科目をデザインした。本科目の受講対象は、2年次の海外留学がコロナ禍のために中止となるという影響を被った3年生である。津村教授は現地に行くことはできなくても得られる経験はないかとコロナ禍におけるノウハウをもつ旅行業者と検討を重ね、科目を開講するに至った。
 津村教授の専門分野は文化人類学であり、現地でのフィールドワークによる一体感に重きを置いていることから、当初はオンライン研修の効果に懐疑的であった。しかし、実施後予想を遥かに上回る学修成果を得られたことを実感されている。

オンライン研修のデザイン

本科目は、事前授業(10コマ)・オンライン研修(10日間)・事後授業(5コマ)の三部で構成される。事前授業と事後授業を合わせた15コマは一部を除き対面で行われた。事前授業では、オンライン研修での課題遂行のために必要な基礎知識や調査技術を習得し、事後授業では、タイの日系企業訪問のほか、オンライン研修の体験を言語化する手法を実践的に習得する。この三段階を通して、海外の大学生との協働的なPBL実践の学びを、自らの挫折と成長の体験として語ることが目指されている。
 10日間のオンライン研修はICTツールとしてZoomをプラットフォームとし、学生たちはオンライン上でのチーム学修に取り組む。海外の大学生(タイ16人、香港11人、ベトナム5人)と日本人学生(13人)は5チームに分かれ、企業課題(「タイのあるロックバンドを世界展開する手法について検討せよ」等)への提案を英語で発表することを最終目標とする。
初日は事前授業で作成した動画を用いたアイスブレイク、一つ目の企業からの課題提供、2日目はビジネスモデルとプレゼンスキルの講義、二つ目の企業からの課題提供を行う。3日目と4日目はチャットツールやオンラインツールを活用しグループディスカッションを行う。5日目にはビジネスレクチャーの講師からチームごとの提案へのフィードバックを行う。6日目と7日目は学生が自主的にオンラインで議論し、8日目にグループディスカッション、プレゼンテーションの最終リハーサルを行い、9日目に英語での最終プレゼンテーションを実施する。10日目は「アクティビティ」として、各国の大学生が現地の様子をオンライン中継で伝える時間が設けられている。

海外の大学生とのオンラインによる協働学習

津村教授はICTを協働学習のためのツールの一つと捉え、授業目的を達成できる体験が生まれるように工夫している。Zoomによる海外の大学生とのチーム学修では、5チーム9人のグループ編成で日本人学生を各チームに2~3人と少人数にすることで英語での活発なコミュニケーションを促している。
チームで使用するICTツールはあえて指定せず、各国の学生が手慣れたものを紹介しながら利用させることで刺激を与え合う場としている。現地の大学生が用いたMiro(ミロ)というツールはオンラインホワイトボードへの書き込みや付箋への書き込みが可能で、ブレインストーミングやディスカッションを効率的に行うことができる。また、オンラインソフトのOffice for the Webの PowerPointを用いる学生だけでなく、Canva(キャンバ)というデザイン作成ツールを用いて発表内容を集約する学生も見られた。
英語が苦手な学生は、Zoomのビデオ会話での発言機会が少なくなるが、LINEを使って他の日本人学生にどう伝えればよいかを相談したり、Zoomのチャットボックスに自分のアイディアをテキスト入力し、それを他のチームメンバーが発言として取り上げる等の「迂回路」を利用することで議論を進展させていった。
各国の大学生が現地の様子をオンライン中継するアクティビティでは、ギターを弾く学生、それに合わせてドラムを叩く学生、歌う学生が現れ、即興的なセッションが自然発生し、空間的には離れていても想像以上の一体感が醸成された。

オンライン研修を通した学生の成長

 オンライン研修の時間は、各日2時間半~3時間半と、現地での研修時間と比較すると短い。しかし、Zoomのブレイクアウトルームでのチームごとの英語での議論は、互いの顔色を見ながらの判断ができない環境で集中して濃密に行われる。津村教授はチームでの議論においては基本的に極力発言しないようにし見守り、各日の最後30分では日本人学生だけがZoomに残るフォローアップセッションを設け、その日の反省点や悩みを全員が一言ずつ日本語で共有し、意欲の維持を可能にする環境を作っている。
受講生の成長は、毎回の授業後に大学LMSで提出するリアクションペーパーから読み取ることができる。最初は英語が聞き取れず、発言もできずショックを受けたという内容から、次第に「会話の方向性を左右する発言ができた」等の自身の成長を振り返る内容に推移し、最終プレゼンテーション後には「貴重な機会に携われたことを誇りに思う」という感想へと変化する。困難や挫折を経験しながらも、途中でそれを乗り越える体験を経て、最終的には非常に前向きに捉えていることがうかがえる。

まとめ

 津村教授はオンラインの利点として複数の海外大学の学生と同時に学ぶことができることを挙げている。Zoomというプラットフォームを通して学生たちは自室にいながら海外の大学生とともに完全に一つの世界を作り10日間で充実した体験と成長をしていく。オンライン研修後には、日本企業のインターンシップに積極的に参加する学生、TOEICの点数をあげるため試験に申し込む学生も見られ、学習意欲の向上に繋がっていることもうかがえる。
短期間で想定を超えた成果が得られたこと等が総合的に判断され、今後も学部として本科目でのオンライン研修を継続する方針とうかがった。こうした成果の背景には、現地でこそ得られる体験を重視し、ICTを活用することで海外の大学生との協働学習を効果的に配置した津村教授による授業デザインの工夫があると言える。(文責:関西福祉科学大学 久保田祐歌)

WEB教科書活用からVR教材開発まで
沖縄大学「中国語科目」

 沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科で中国語を教える渡邉ゆきこ教授は、コロナ禍以前の2000年代からICTを活用した授業づくりを模索していた。語学教育、とりわけ語学基礎教育は機械的な繰り返しが非常に多く、個別学習も重要となる。しかし教員の体は1つであり、体力には限界がある。ICTツールを上手く活用できれば、この限界を乗り越えることができるのではないかと考えた。
あるとき出会ったのが法政大学の鈴木靖教授が開発された「WEB教科書」である。これを2012年から活用し始め、学生の語彙力やリスニング(聴解)力を高めることに成功した。さらに、スピーキング(発話)力を高めるツールを開発できないかと考え、自身で一からJavaScript(プログラミング言語の1つ)を学び、2017年に発話練習ソフト「ST Lab」をつくりあげた。このソフトは現在16の言語に対応し、全国40の大学・高校・専門学校で稼働している。
さらにはコロナ禍中の2021年に、外国語会話力を高められるようなICTツールは開発できないかと思案し、誰もが感覚的にVR空間を生成できるソーシャルVRプラットフォーム「Mozilla Hubs」を用いた教材を開発し授業で活用するようになった。

繰り返し学ぶことを促す

 鈴木教授の「WEB教科書」の優れている点は、教科書にある単語や文章の発音を簡単に選んで再生することができるだけでなく、「e宿題」と「eテスト」という機能が実装されている点にある。
「e宿題」は、音声を聞いてピンインや漢字を入力し、即時に正誤判定を受けられる。しかも、同じ問題で3回正解しなければ理解したと判定されないため、確実に聴解力と記憶力を高めることができる。コンピューター上で正解できると、最終的には問題を印刷し、直接手書きで問題を解く(手で書かせることでさらに記憶を促す)仕組みになっており、語学学習の最適な進め方に則した機能になっている。「e宿題」で出題された問題によって「eテスト」が構成されているため、テストで良い点数を取るためには、「e宿題」にしっかり取り組むことが最短ルートとなる。ほとんどの学生は、何度も「e宿題」に挑戦し、満点が取れるようになってから「eテスト」に臨むため、自ずと成績は向上する。教員は、個別学生の「e宿題」取組状況をWEB上で把握することができるため、個別の声掛けやサポートも可能である。
教材(授業)、宿題、テストが一貫性を持って連動しているからこそ、それぞれに取り組む意味が理解でき、学習意欲が高まる。ICTを用いることで学生は繰り返しトレーニングを受けることができ、教員は学生の学習状況を把握してフォローすることができる。その結果、効果的で効率的な授業づくりが実現できているのである。

VRを活用した授業づくりとは

 渡邉教授がVRシステム「Mozilla Hubs」を活用して作成しているのは、仮想空間である。例えば中国の街を立体的に再現した仮想空間を作成する。すでに用意されている街のテンプレートに、中国語で書かれた看板画像等を貼り付けていくことで、簡単に中国街ができる。そこに教員と学生たちが自身のアバター(システム上の自分の分身)を作ってログインする。教員と学生たちが一緒になって街を散策してそこに書かれているものを教員が説明することもあれば、「~を見つけて何が書いてあったか説明してください」等といったVRフィールドワーク課題を学生に課し、学生に自由に学ばせることもある。VR空間にはいつでもアクセスできるため、授業中だけでなく授業時間外に取り組む課題にすることもある。
VR空間上ではアバター同士で会話をしたり、他の人の会話を聞いたりすることもできる。音声だけでなく文字も利用することができ、コミュニケーションの幅が広がる。アクセス元の場所も選ばないため、同大学の学生だけでなく、海外の学生にも参加してもらい、共にVRフィールドワークを楽しみながら学ぶことも可能だ。
最近は、プレゼンテーションステージ空間もつくり、遠隔でありながらも現場のようなリアリティを持ってプレゼンをするような機会も持っている。また学生同士の会話テストもVR空間を使って行うことで、活発かつ自由な雰囲気で実施することができる。

オンライン学習ゲーム開発を展望

 渡邉教授が展望するのは、オンライン学習ゲームの開発である。具体的には、「ノベルゲーム」と呼ばれる小説のようにテキストを読み進め、選択肢によってさまざまなシナリオが楽しめるゲームだ。音声や会話の意図を正確に読み取って選択肢を選んでいかなければ次のステージに進めないような仕掛けを用いれば、単なる聴解教材よりも学習意欲を高め、かつ現実に近い状況を想定した実践的な学びを実現できるだろう。
 さらにはスクラッチと呼ばれる子どもでも簡単にプログラムを組めるようなシステムを活用して、宝探しゲームを作りたいとも語る。「Pinggu?」と正しく発音できれば、VR空間上に自動的に「りんご」が現れる。自分の発話が立体画像として即座に可視化されるインパクトは大きいだろう。Googleを活用すれば、多様な言語に応用も可能だ。リアリティを持って楽しみながら言語の読解、聴解、発話トレーニングを行う言語学習のためのオンライン学習ゲーム開発の可能性は無限大に感じられる。

まとめ

 この事例から最も学べることは、対面授業の代替法としてではなく、効果的・効率的で魅力的な授業づくりのためにICT教材を活用・開発していることである。語彙力、読解力、聴解力、発話力を高めるICT学習ツールはコロナ禍以前から使っていたものであり、今後も有効活用され続けるだろう。VRの活用についても、コストをかけずにフィールドワークができ、教室内では再現できないようなリアリティのある学びを実現できるという点で効果的である。しかも無料のツールを活用することで、システムやプログラミングに精通していなくとも簡単にVR等の最先端技術を活用した教材づくりができることを渡邉教授は証明してくれている。ITリテラシー教育が盛んな昨今だが、大人も情報技術を学びながら、よりよい教材作りを模索していくことが必要だろう。コロナ禍如何にかかわらず、VRを活用したオンライン学習ゲーム開発等、さらなるICTツール活用術に注目し続けたい。(文責:京都橘大学西野毅朗)

ICTツールを活用しきる
日本薬科大学「臨床実習関連科目」

 埼玉県と東京都にキャンパスを構える日本薬科大学は、1学年当たり約340人(薬学科は約240人)、在籍学生数約1600人の私立大学である。コロナ禍に見舞われた2020年においても、日本で最も早くオンライン授業を始めた大学の1つだ。それから2年がたった現在もICTツールを有効活用して教育の質を向上させ続けている。とりわけ、臨床実習において実習そのものは原則対面で行うものの、実習に関わる様々な人々とのコミュニケーションをICTツールの活用によってより効率的かつ効果的なものにすることに成功している。

オンライン白衣式

 実務実習に臨む4年生が、臨床現場に参加する決意を再認識し、薬剤師を目指す者としての心構えを新たにするための式典が「白衣式」である。例年は対面形式で実施するところを、Microsoft Teamsによる同期型のオンライン白衣式として開催している。一部の代表学生は大学に集まり、それ以外の学生は自宅から参加する。学生は全員正装(スーツ着用)し、大学から事前に送られた大学のロゴが刺繍された白衣を手元に用意して参加する。遠隔参加の学生もカメラを全員にオンにしており、緊張感が伝わってくる。教員が代表学生に白衣を着せる様子や、学生による宣誓の様子が配信された他、副学長、学部長の挨拶だけでなく、先輩学生からの体験談なども紹介され、充実した白衣式となっている。将来的には、1人ひとりの学生が作成した宣言文をオンライン上で紹介したり、白衣式に保護者にもオンライン上で参加していただいたりするなど、さらに発展させたオンライン白衣式も構想されている。

オンライン面談の効果

 実務実習におけるICT活用は、とりわけ関係者間のコミュニケーションを円滑なものにし、実習教育の充実につながった。
これまでであれば、教員から臨床指導の担当者(病院薬剤師等)に電話をかけ、アポイントをとり、面談を行うスタイルであった。訪問することで現場や学生の様子を確認できるなどのメリットがある一方、対面面談は教員と指導者の双方にとって負担(日程調整などの煩雑さや数時間かけて訪問)もあった。また、電話の声だけで現場の様子を把握することはなかなか難しいのが現状であった。
これがオンライン化されたことにより、ZoomやTeams等を用いてお互いに顔を見合わせ、時には画面を共有しながらコミュニケーションがとられることとなり、話し合いの密度が濃くなった。対面面談となるとお互いの日程調整も難航し、面談することそのものの敷居が高くなってしまうが、オンラインであれば隙間時間を有効活用することができるため、日程調整が容易になり面談の頻度も増えた。さらには、担当教員と指導担当者間だけでなく、必要に応じて他の関係教員や、指導責任者、必要に応じて当該学生も参加するという3、4者間での面談も容易に行うことができるようになり、多様なメンバーが学生の学びをサポートできるようになった。
多様なメンバーの1人が、学生相談室の心理カウンセラーである。昨今、精神面の課題を抱える学生もおり、現場の実習指導者や担当教員だけでは対応が難しい場合も増えている。オンラインであれば、学内のカウンセラーも参加しやすい。必要に応じて声をかけ、面談に協力してもらうことでより円滑な問題解決が可能になった。これもオンライン面談の効果といえよう。

2020年度オンライン白衣式の様子
グループウェアの有効活用

 グループウェアとは、組織内のコミュニケーションを円滑にし、業務効率化を促進するためのソフトウェアのことである。日本薬科大学では、Teamsを実習関係者間の情報共有に活用している。実務実習中のインシデントやアクシデントの状況、担当教員による学生の見立て、指導薬剤師のスタンスなどの情報共有が積極的に行われるようになった。また、データの共有についてもShare Pointを有効活用することでデータの一覧性や検索性を高めることができている。さらに職員との連携においてはTeamsのPlaner機能を用いることでタスク管理を円滑にし、タスク漏れの防止やタスク優先順位の共通認識づくりに役立てている。学生の実習先希望や体調管理の状況把握等、全学生に調査をする必要のあることはFormsを活用している。このように、グループウェアに付随する各種機能を使いこなすことによって、ミーティング以外でも関係者間の効率的なコミュニケーションを可能にしているのである。

レジデント実習(卒論)指導の効率化

 実務実習終了後、一部の学生は実習先病院の診療情報データを用いた臨床研究をレジデント実習期間中に行う。このレジデント実習は、対面よりもオンラインの方が効率的であり、オンラインでなければ難しいことが多いとすらいえる。例えば、データの分析方法については、教室のスクリーンで説明するよりも、画面共有しながら説明した方がよほど見やすくわかりやすい。データファイルを学生から提出させたり、教員から配信したりすることも即時に可能であり効率的である。いつでも、どこからでも参加できる利便性もあって、コロナ禍以前よりも指導頻度が増えた。また指導している様子を録画(レコーディング)して学生に共有することにより、出席学生は復習することができ、欠席した学生も後日指導内容を学ぶことができるようになった。

まとめ

 日本薬科大学の事例は、一見すると特別なことがないように見える。しかし、この2年間で急速に発展したICTツールを組織的に有効活用しきっているという点は注目に値する。それも特別なFDは行わず、教員間でツールの使い方を学び合いながら学科全体としてのICTツール活用力を高めることに成功しているのである。
従来の対面型では1学生を育てるためのコミュニケーションが一部の関係者のみで完結しがちであった。ICTツールを有効活用することによって、多様な関係者とのコミュニケーション量が増え、かつ移動や調整に関わる労力が減り、効果的かつ効率的な教育を実現できるようになっている。
 コロナ禍がおさまる気配が見えないが、ICTツールの強みをさらに生かし、多様な関係者を巻き込み、積極的にコミュニケーションをとりながらよりよい教育を組織的に実現していこうという前向きで挑戦的な姿勢から学べることは多いのではないだろうか。(文責:京都橘大学 西野毅朗)

oViceを活用した大学・分野間連携授業
大阪工業大学「CSプロジェクト演習」/摂南大学「情報リテラシーⅡ」

コロナ禍において、リモート授業が一般化したことにより、多くの教員がICTツールを活用することで時間や空間の制限を乗り越え教授・学修活動が実現できることを経験した。しかし、対人コミュニケーションを基本とした演習科目については、オンライン上での開講は、その活動の自由度や学修効果に疑問を持つ者も少なくないのではないか。ここで紹介する大学・分野間連携共同演習科目「CSプロジェクト演習/情報リテラシーⅡ」は、オンライン化することにより場所と時間の問題を解決するのみならず、受講生の主体性を導き、学びを深める教育環境を実現することに成功している。

分野間連携「共同演習科目」で目指すもの

本科目は、大阪工業大学では「CSプロジェクト演習」(情報科学部4年必修:受講生50人)、摂南大学では「情報リテラシーⅡ」(看護学部3年選択:受講生10人)として開講されている。もともと対面で実施される計画であったが、コロナ禍においてオンライン化された経緯がある。その際に留意されたのがオンライン上でも「学修の質を担保する」ことであり、その実現を指向した結果oViceの活用に至った。
「CSプロジェクト演習」での教育目標は、「情報システムエンジニア(SE)として、要求仕様書と提案仕様書を作成することができる」ことである。「要求仕様書」とは、顧客の業務について問題を精査した上で、顧客が要求するシステムをまとめたものをいい、「提案仕様書」とは、「要求仕様書」の要求を満たすシステムがまとめられたものを指す。両仕様書共にその作成のためには、顧客の業務とその問題を深く知る必要がある。そのため、顧客へのインタビューと、そのプロセスにおける説明・傾聴の技能はSEにとって必要とされる資質となる。
 一方、「情報リテラシーⅡ」では、基本的なデータ収集・分析方法を活用できるようになること、自己の学修経験を振り返りつつ看護実践のイメージを具体化できること、情報機器やソフト、アプリの看護実践への活用を考察できることを科目目標として掲げている。
演習においては、情報科学部の受講生にはSEとして、看護学部の受講生にはその顧客としての役割を充てることで、学修に真正性を付与しつつ教育目標の達成を目指している。受講生は、SE、顧客としての役割を演じつつ、各々の既習知識・技能・価値観を振り返りつつ言語化し、経験と問題を共有しつつ考察し、協働しつつ解決のための形を作っていくのである。

授業の流れ

 本連携の取り組みには、7コマが2日間集中演習として充てられている。大まかな流れは以下のとおりである。1日目:【①情報科学部学生による卒業研究の紹介】学生全員が各自でポスター発表、【②看護学生による看護での学びの紹介】ペアでの口頭発表、【③看護学生による看護現場での問題点の説明】続く④のグループワークの布石として、問題点の概要を紹介、【④情報学科学部学生と看護学生の混成グループに分かれ、看護現場での問題点を分析】問題点の詳細確認や問題点を解決するためのアイデア出しなど。2日目(3週間後に実施):【⑤「仕様書」のレビュー】作成した「要求仕様書」に誤りがないかを確認、【⑥情報科学部学生によるアイデア発表】「提案仕様書」をもとにした解決策をグループごとに発表、【⑦看護学生による⑥の評価、および情報科学部学生によるグループ内の貢献度に係る相互評価】。

距離を基本としつつも空間に制約されないoVice環境

 本演習で活用されるoViceは、画面上でアバターを操作しながらコミュニケーションを図るオンライン・コミュニケーションツールである。画面上の2次元世界ではあるが、現実空間と同じように「距離」を基本としてコミュニケーションの有無や密度が決定されるため、自己のアバターを操作し相手に近づくことにより会話ができるようになる。会話ができる範囲の者同士ならビデオを通した「顔出し」会話も可能であるし、Zoomと同じように文書を共有することもできる。教授者が画面上の背景に「グループ1」「グループ2」...のようにイメージを描画しておけば、学生たちは自己のアバターを操作しつつ、自分でグループに集まることができる(図を参照)。質問があれば、教員のアバターに接近し問いかけることができるし、他グループにいるクラスメイトの知識が借りたければ、アバターを傍らに動かし尋ねればよい。ポスター発表の際には、全発表が鳥瞰できる特徴を活かし、タイムラグ無しに興味関心に応じた視聴も可能である。
教授者視点では、学生の状況を俯瞰し把握することができるため、指示待ち状態や活動が活発でない場合など、迅速にフィードバックすることができる。学生に配布する資料や教材、メールを、oViceに一元化し掲示することにより、情報が拡散し学生が混乱しないように手を打つこともできるなど利点が多い。

まとめ

 oViceのようなコミュニケーションツールの優位点はその自由度の高さにある。場所・時間の設定の自由度の高さはICTツールの強みであるが、学修環境を操作し、学修者の自由度を高められることは、学びの真正性を確保する上でとくに重要であろう。
 本事例では、1日目と2日目の間に3週間ほど間隔を空けているが、この間、各グループの学生達は自分たちの都合の良い時間に仮想空間上に集まり、2日目のレビューや発表に備えることができた。このように、受講生が時間と空間の制約を飛び越え、学修環境そのものを自分の力で効率よく制御できたことは、学修の主体性を導くのみならず、自分で動いた結果として手にできる「努力や能力への信頼」を醸成する契機も与えたはずである。ICT利用の効用は、場所・時間の便益性のみならず、学びを深め、真正性を高めるための学修環境作りにも見出すことができよう。(文責:神奈川工科大学 伊藤勝久)

ICTを活用した多人数授業での主体的学び
広島工業大学環境学部建築デザイン学科「デザインスタディA~H」

広島工業大学は、広島県広島市に位置する1963年に設置された私立大学である。工学部、情報学部、環境学部、生命学部の4学部と大学院の7専攻をもつ。広島工業大学では、2020年4月からクォーター制度を導入し100分授業とし、「専門力」「人間力」「社会実践力」を養成する新しい教育プログラムを開始している。
必修の「社会実践科目」は、全学的に1年次前期から2年次後期までの全8クォーターで開講し、年次混合の学生が各20人程度のグループで学科の学びと社会にかかわる課題に協働して取り組む。授業内容については各学部学科で専門を生かした内容が設定されている。
環境学部建築デザイン学科では、「デザインスタディA~H」として、週2回の授業を教養系・専門系の内容に分け、ワークショップ形式で実施しており、1年生約120人、2年生約120人が受講している。本科目の統括者として、企画および運営を担うのは杉田宗准教授と萬屋博喜准教授である。コロナ禍により、本来対面で実施する授業を2020年度中途からオンラインに切り替えることとなったが、2021年度は当初からオンラインで進める前提で授業を設計した。映像を通した事前学習、オンラインを介したグループワークを導入した結果、学生の課題への取組姿勢の向上等を実感されているという。

1・2年生同時進行「デザインスタディ」の基本構成

 本科目では、1・2年生が合同で、建築の技術的な基礎とその教養的な基礎を同時に学ぶ。杉田准教授と萬屋准教授は、建築に関わる限りでの教養の側面と建築技術の専門の側面を両輪として効果的に機能させる場として授業を設計したという。
本科目では1、2年の学生を各学年1組10人程度のグループに分け、計20人程度の各グループにつき1人の教員と1人の協力学生(TA・SA)を配置している。週2回の授業は、週1回目が教養系、週2回目が専門系の内容に分け、1・2年生の授業は同じ時間に異なる内容で並行して実施する。各クォーターの最後には、1・2年生が合同で発表する時間を設け、教養系と専門系の繋がりを持たせている。教養系の授業では、「表現力」「理解力」「思考力」の基礎の修得、専門系の授業では、模型製作や3DCADを使ったモデリング等、建築の学びに必要な基礎的スキルの修得を目標とする。授業の基本的な流れは次のとおりである。
  ある教養系授業回では、事前学習として、1・2年生共に10分から15分の授業動画を視聴する。オンライン授業では、まず1・2年生合同でMicrosoftTeamsの会議で点呼を行う。1年生はMiroというオンラインホワイトボードを用いたグループワーク(80分)を行い、2年生はTeams会議での2年生全体発表会(80分)と異なる内容を行う。最後に、1・2年生合同でTeams会議で点呼を行う。ある専門系授業回では、事前学習として1・2年生共に30分から45分の授業動画を視聴する。開始時に課題説明を行い、オンライン実施の場合は点呼も行う。1年生は模型製作(95分)、2年生は3DCADを用いた敷地モデルの製作(95分)を行い、最後に1年生は模型をスマホで撮影したもの、2年生は3Dモデルのスクリーンショットを各Teamsのフォルダーに提出する。担当教員は事前動画の準備と当日の出席確認・司会進行以外はできるだけ介入せず、学生主体で実施している。

教養系授業におけるICT活用の効果

 授業においては、教育目標を達成できるよう、ICTを効果的に活用している。萬屋准教授が統括する教養系授業では、プレゼンテーション、ディスカッション、アカデミックライティング、グループワークの技法をオンラインで学び実践する。例えばアカデミックライティングの技法についてはMoodleの「課題」機能を活用し、学生がTEDTalkの動画に関する論評型レポートや、SDGsに関連した企業の調査型レポートに取り組む。学生にはレポート作成マニュアルを事前配布し、評価する要素を事前に通知し、担当の各教員がルーブリックに従い、採点とフィードバックを行う。
ある回では、学園祭の企画案を3分動画でPRするという課題を出し、最初に11班に分かれてブレインストーミングを行った。対面時にはその場でのやり取りが苦手な学生が怖気づいて何も発言できずに終わってしまうケースが見られたが、オンラインの場合はMiroを活用したことにより積極的に皆が意見を出している。Miroがもつオンラインならではの利点として、画像の挿入や模造紙の拡大縮小等の調整も自由にできる。議論も盛り上がり、結果として対面時よりも緻密なブレインストーミングが実現できた。

専門系授業におけるICT活用の効果

 杉田准教授が統括する専門系授業では、コロナ禍以前は対面での実習を通して、模型製作や3DCADを使ったモデリングを教員が実演し、それを学生が真似ることで習得させる形であった。オンライン化の際にはインプットとアウトプットの明確化に留意し、事前学習として、実演映像等を学生が視聴した上で、毎回の授業時間内で完結する小課題に取り組む形に変更を行った。学生はインプットにおいて、実演映像の速度調整や繰り返しの視聴等、各自のペースで学修が可能となった。対面授業で生じていた学生の理解度のバラツキによる課題への取組姿勢への影響が緩和され、全体のレベルアップが図られた。
 製作を行うアウトプットでは、対面時には他の学生と喋ってしまい、作業に集中できない場面もあったが、オンライン化により各自で授業時間に集中して実践することで基礎的スキルの向上が見られたという。しかし、対面であれば可能な、周囲の学生を見て自身の出来具合や進み具合を確認するということが逆に困難となった。そこで、学生全員がMiroに入り各自で製作を行っているため、よくできている学生の名前を伝え見本として示すことで、学生たちがその学生の所に集まり、何がよいのかを確認してから自身の製作を進められるようにした。
 本取組においては、対面で可能なことをICT活用によりいかに実現するかという視点と、対面で学生の学修成果の観点から課題であったことをICT活用によりいかに克服するかという視点の2つが見られた。杉田准教授、萬屋准教授はコロナ禍によるオンライン授業への移行を契機としてMiro等のオンラインツールに目が向けられた意義は大きいと捉え、今後の授業でもオンラインツールを効果的に活用していくことを検討されている。
 加えて、授業を企画した杉田准教授、萬屋准教授がICTを用いて統括することで、授業運営や学生への指示、各学生へのフォローアップを行うことが対面時よりも容易となったという。本取組は、オンラインツールの使用による多人数授業運営の効率化という点でも参考となる事例である。(文責:関西福祉科学大学 久保田祐歌)


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