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国際交流事業

令和5年度国際交流事業報告書(令和6年3月)(PDF)

*執筆者の所属等は2024年3月時点のものです。


「令和4年度国際交流事業報告書」【1~14,16ページ】掲載抜粋(令和5年3月)

留学生インタビュー(PDF)
パンデミックと政変後のミャンマーの教育と大学(PDF)
韓国の私立大学の視察(PDF)
VYSAスクールフェアを毎年支援、旧正月祭りで賑わう(PDF)

*執筆者の所属等は2023年3月時点のものです。


「教育学術新聞」第2899号【1面】掲載抜粋(令和4年10月5日)

令和4年度(通算第20回)国際交流推進協議会
「国際交流事業の展望」

 日本私立大学協会(小原芳明会長)は9月14日、オンラインで令和4年度(通算第20回)国際交流推進協議会を開催した。同協議会は同協会国際交流委員会(担当理事・委員長=谷岡一郎大阪商業大学理事長・学長)が企画し実施。コロナウイルス感染症の蔓延から3年目となり、大学は、学生の受入れ・送り出し、教員の共同研究、教職員の交流など、国際交流事業全般に新しい取組方策を模索している折、メインテーマを「国際交流事業の展望」とし、情報共有を図り、協議した。同協会加盟大学より203大学314人が参加した。
 冒頭で谷岡担当理事・委員長が挨拶し、ただちに協議に移った。
 はじめに「留学生交流の最新動向及び大学の国際化政策について」と題して、文部科学省高等教育局高等教育国際戦略プロジェクトチーム留学生交流室長の下岡有希子氏が講演。新型コロナウイルス感染症による留学生交流への影響と最新の状況を解説し、日本への留学生は2021年5月時点で約24.2万人と、2020年の同時期と比較して約13%減少した。新型コロナウイルス感染症の影響により留学生の新規入国を停止し、段階的に入国を再開するなどしたが、その影響が出ている。9月7日現在は、1日の入国者数の上限を2万人から5万人に引き上げられている。
 2020年度の日本からの海外への留学生については1,487人と激減。9月6日現在、感染症危険情報レベル3(渡航中止勧告)以上とされている国・地域は無いものの、留学先の水際対策により、日本人学生が入国できない場合もあるなどと説明した。
 ポストコロナを見据えた今後の政策の方向性については、7月に同省がとりまとめた「高等教育を軸としたグローバル政策の方向性」の内容から、5年後を目途に激減した外国人留学生、日本人学生の留学を少なくともコロナ禍前の水準に回復することを目指すことなどを示した。関連して、政府の教育未来創造会議第一次提言の中でも、グローバル人材育成・活躍の推進が謳われていることを紹介した。
 最新の施策や取り組みの解説にあたって、令和5年度概算要求における、グローバル社会で我が国の未来を担う人材の育成事業について説明した。大学教育のグローバル展開力の強化では48億円、大学等の留学生交流の充実では346億円を要求している。留学生(送り出し)支援事業として、計画中の次期「トビタテ!留学JAPAN」の構想などを説明した。
 そのほか、留学生就職促進教育プログラム認定制度、大学等における安全保障貿易管理について説明した。
 続いて、「出入国在留管理行政の現状と取組」と題して、出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課補佐官の増田栄司氏が講演した。
 2021年12月末時点で、在留外国人数は総数で276万635人だった。在留外国人の在留資格・国籍・地域別内訳を示し、在留資格において、留学生は約21万人で減少はあったものの5番目に多かった。在留外国人の国籍・地域別では中国が約71.6万人で26%を占める。次いでベトナムが約43.2万人、韓国が約40.9万人となっている。外国人労働者数の内訳についてもデータから、留学生アルバイト等が約33.5万人で全体約172万人のうち2割を占めており、労働者として一定の枠をなしていることを示した。
 政府の外国人労働者の受入れの基本的な考え方として、留学生は専門的・技術的分野の外国人として積極的に受入れていく方針であるとした。
 また、留学生の管理等の留意事項として、在籍管理、資格外活動許可、在留資格の取消し-について説明したのち、2019年に同庁と文部科学省から示された留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針におけるポイントを解説した。
 留学生の就労に関しては、インターンシップに関する在留資格等、留学生の就労に係る主なフローなどを説明し、留学生の就職支援に係る同庁の取り組みを紹介。在留資格認定証明書の有効期間に係る新たな取扱いについては留意事項を説明した。
 「日本語教育関連施策の検討状況について」と題する講演では、文化庁国語課長の圓入由美氏が、2019年6月に公布・施行した日本語教育の推進に関する法律に基づき、現在、日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議で、日本語教育機関の認定制度及び資格制度の詳細について検討を開始していることを説明した。
 有識者会議では、日本語教育機関の認定基準(修業年限、授業時間数、教育課程、施設・設備、教職員体制等)や自己点検評価、情報公表及び定期報告等といった評価制度の在り方、また、日本語教師の資格制度についても、試験や教育実習の内容、試験機関の指定などを検討している。これまでの会合で検討されてきた日本語教育機関の認定制度・日本語教員の国家資格のイメージなどを示した。関連して、来年度の概算要求に盛り込んだ外国人等に対する日本語教育の推進などの事業内容を説明した。
 最後に、「アフターコロナ 留学派遣再開にかかる実務担当者の対応」と題して、桜美林大学国際交流センターの秋元崇利氏が事例報告を行った。コロナ禍において中断していた、全員留学をいかに再開するかという課題があるなか、同大学で中期型(1セメスター)で実施する留学プログラムを2022年度春学期から再開した経緯などを説明した(全員留学とはいえコロナ禍の事情も踏まえ、強制するものではない)。緊急時対応の危機管理体制を、派遣先を限定する、現地のオフィスと情報共有を密にするなど改めた。危機管理に関する案内を提供する機会を複数設け、日ごろから意識していくよう醸成することが大事だとした。オンラインを活用した保護者説明会など情報提供を徹底したことも言及した。
 閉会では、同協会の小出秀文常務理事・事務局長が挨拶して終了した。


「令和3年度国際交流事業報告書」【3~20ページ】掲載抜粋(令和4年3月)

コロナ禍で学ぶ日本人留学生(PDF)
日本語を学ぶ海外の学生(PDF)

*執筆者の所属等は2022年3月時点のものです。


「教育学術新聞」第2857号【1面】掲載抜粋(令和3年10月13日)

令和3年度(通算第19回)国際交流推進協議会
「コロナ禍の国際交流事業の現状と課題」

 日本私立大学協会(小原芳明会長)は9月16日、オンラインで令和3年度(通算第19回)国際交流推進協議会を開催した。同協議会は同協会国際交流委員会(担当理事・委員長=谷岡一郎大阪商業大学理事長・学長)が企画し実施。昨年から全世界で急速に蔓延した新型コロナウイルス感染症の影響を受け、同協会加盟大学が、学生の派遣・受け入れ、教員の共同研究、教職員の交流など、各種国際交流事業において新しい取り組みで臨んでいる折、メインテーマを「国際交流事業の現況と課題」とし、情報共有を図り、今後の展望について協議した。同協会加盟大学より204大学333人が参加した。
 *
 同協議会の進行は、同委員会委員の渡邊信麗澤大学副学長・図書館長が務めた。
 冒頭で谷岡担当理事・委員長が「本協議会では、みなさんに国際交流事業に関する最新の情報をお届けしたい。国外へ目を向けて発信していくこと、あるいは国内に多様な人々を受け入れることの意義についても協議していきたい」と挨拶。その後、協議に移った。
 はじめに「コロナ禍における海外留学と安全対策」と題して、外務省領事局海外邦人安全課邦人援護官の清水一良氏が講演した。清水氏は「現在のコロナの状況では従前のような留学などは難しい。複雑化している状況下ではあるが、海外留学という貴重な体験を失わせるわけにはいかない。この困難な時期を克服して前進するためにも、このような協議会で準備を進めていくことは大変意義深い」として説明を始めた。
 まず、世界の感染状況と変異株の拡大について、海外渡航にあたっての感染症危険情報や、4月以降のインド、インドネシアでの爆発的な感染状況などを説明。コロナ禍における海外留学において重要なこととして、自身の健康管理▽現地の情報収集▽帰国手段の確保▽適切な保険の加入―を挙げた。そのほか、海外渡航や帰国の際の水際対策や、海外での犯罪による邦人被害の状況、海外留学先での孤独・孤立支援の体制、テロなど海外での従来からの脅威―について説明し、「今後は必ず海外留学などの機会が拡大されるので、その支援と情報提供を行っていく」と述べた。
 続いて、「コロナ禍における留学生交流の最新動向及び大学の国際化政策について」と題して、文部科学省高等教育局学生・留学生課留学生交流室長補佐の泉茂樹氏が講演した。
 はじめに、新型コロナウイルス感染症による留学生交流への影響と最新の状況について解説。日本への留学生は2020年5月時点で約28.0万人と、2019年の同時期と比較して約10%減少した。新型コロナウイルス感染症の影響により留学生の新規入国を停止し、段階的に入国を再開するなどしたが、その影響が出ている。現在は、早期の入国再開に向け、感染症の流行状況を注視しつつ対応している。2019年度の日本からの海外への留学生についても約10.7万人と減少したが、現在、全世界の約8割に対し「渡航中止勧告」が出ている状況。「留学予定者ワクチン接種支援事業」などを開始するとともに、国内外の感染症の流行状況や帰国時の水際対策の状況を踏まえ、段階的に再開を検討している。
 ポストコロナを見据えた今後の政策の方向性については、「留学生30万人計画」検証結果報告書の取りまとめから、日本人学生の海外留学の促進も含めて、学生の派遣・受入の両面で質の高い国際流動性を高めていくことが重要であることを示した。また、教育再生実行会議第12次提言の概要「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」から、グローバルな視点での新たな高等教育の国際戦略の必要性が提言されていることを示した。
 最新の施策や取り組みの解説にあたって、令和4年度概算要求における、グローバル人材育成のための大学の国際化と学生の双方向交流の推進について説明した。大学教育のグローバル展開力の強化では46億円、大学等の留学生交流の充実では341億円を要求している。その中で、ニューノーマルにおける大学の国際化促進フォーラム形成支援事業について具体的に説明した。同事業は、ニューノーマルに向けてスーパーグローバル大学採択校を中心に、世界展開力強化事業採択校、採択校・希望する大学等による「国際化促進フォーラム」を形成し、大学教育・研究の国際化を推進していく。
 そのほか、留学生就職促進教育プログラム認定制度、大学等における安全保障貿易管理について説明した。
 最後に、「出入国在留管理行政の現状と取組」と題して、出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課補佐官の増田栄司氏が講演した。
 2020年12月末時点で、在留外国人数は総数で288万7116人だった。在留外国人の在留資格・国籍・地域別内訳を示し、在留資格において、留学生は約28万人で減少はあったものの5番目に多かった。在留外国人の国籍・地域別では中国が約77.8万人で27%を占める。次いでベトナムが約44.8万人、韓国が約42.7万人となっている。外国人労働者数の内訳についてもデータから、留学生アルバイトが約37.0万人で全体約172万人のうち2割を占めており、労働者として一定の枠をなしていることを示した。
 留学生の入国・在留状況について具体的に、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のための水際対策により約28万人と大幅に減少し、特に新規入国者数の減少が反映されており、このまま入国制限が続く状況だと減少に転じていくとした。
 留学生の管理等についての留意事項として、在籍管理、資格外活動許可、在留資格の取消し―について説明したのち、2019年に同庁と文部科学省から示された留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針におけるポイントを解説した。
 留学生の就労に関しては、留学生から就職目的の在留資格変更許可申請に係る処分数等の推移を示し、2020年の在留資格変更許可処分申請数は約3.9万人だった。在留資格別許可数約3万人の内訳では「技術・人文知識・国際業務」が約2.9万人で全体の9割を占めている。さらに、留学生の就職支援に係る同庁の取り組みとして、就労可能な在留資格の拡充、在留資格「特定活動」(継続就職活動)の運用など、卒業後の支援を説明した。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた留学生への対応については、帰国困難などによる在留資格変更許可が可能な場合などの事例を説明したほか、在留資格認定証明書の有効期間に係る新たな取り扱いを示した。
 同委員会・ASEAN部会は、同協会加盟校を対象に、8月6日から9月6日の間、新型コロナウイルス感染症が私立大学の国際交流事業に及ぼす影響について調査した。協議会では、その「コロナ禍の国際交流事業に関するアンケート調査」概要を報告。
 同委員会協力者の山崎慎一桜美林大学准教授が、今回の調査の集計結果から、国際交流における新型コロナの影響、留学の運営上の課題、オンラインプログラムについての検討、送り出し・受け入れの状況―など項目ごとにまとめたものを示した。自由記述からの考察として「国家としての留学「政策」を検討していく必要がある」などと述べ、「今後、高等教育の中で、留学をどう位置付けていくのかという課題に突き当たっている」などと総括した。
 閉会にあたって、同協会の小出秀文常務理事・事務局長が挨拶して終了した。


「教育学術新聞」令和2年11月4日(水曜日)第2821号【4面】
「教育学術新聞」令和2年11月11日(水曜日)第2822号【4面】掲載

わたしたちのまなび(特別編)
世界を通して自分を知る
~留学が人生観に大きな影響~

田中 蘭子

【二兎を追うという選択】
 二兎を追う者は一兎も得ずとよく言われますが、それは本当でしょうか。私は、そこに少しでも可能性があるのなら、二兎とも追うべきだと思います。
 帰国子女なわけでもなければ、英才教育を受けたこともない私ですが、5年間で3つの国・地域の大学で経済学と言語を学ぶことができました。強いて言えば、小さい頃から座右の銘は「挑戦せずに諦めない」でした。
 私には挑戦したいことが沢山あり、中学入学後すぐに高校進学について考え始め、小学校の頃から続けていた音楽に本格的に挑戦することに決め、家族を説得し、音楽高校の入学試験の勉強を一から始めました。晴れて入学した音楽高校でしたが、更にもう一つ挑戦したいことが出来ました―英語です。
 きっかけは高校2年生の語学研修先、ハワイでの出来事でした。当時英語は人並みに取り組んではいたものの、自分の考えを100パーセント伝えることはできませんでした。プログラムを終え、お世話になった先生と会話しながら「もっと英語が話せたらどんなに仲良くなれただろうか」という考えが頭をよぎりました。その時に私にはどんな道に進もうと、人と交流することが好きならば語学が必要だと気が付きました。
 ですが、言葉は1つのツールでしかありません。言語で何をするか考えることが留学においてとても重要だと思います。私は将来の可能性を拡げるため英語で音楽だけではなく経済学も学ぶことができる環境を探し、辿り着いた答えがアメリカ留学でした。
 アメリカ留学は今やビジネス化しており、留学生だからという理由で支払いの義務が発生する手数料もありました。私は特に恵まれた家庭に生まれたわけではなく、奨学金や返還が必要な制度を利用し留学を決めました。家族から学費についてよく考えるよう言われましたが、私にとって留学は自分の将来への投資でした。
 10年、20年後に「あの時に留学に行っておけば」と絶対に後悔をしたくなかったため、メリットとデメリットを比較した時に私には留学という一択しかありませんでした。結果として経済学に集中することとなりましたが、事実、3か国・地域で過ごした大学生活は私の人生観に大きな影響を与える学費以上に価値のある経験となりました。

【アメリカでの学びと気づき】
 初めての留学先であったアメリカでは、あえて自分を一番厳しい環境に置くため、日本人の少ないオクラホマ州の州立大学に進学しました。まず目の当たりにしたのは、ステレオタイプです。常にどの授業に行っても私だけが外国人が当たり前の環境で、入学直後のグループプロジェクトにて私だけ意見を聞かれずに飛ばされてしまったことがありました。ですが私はそれを差別などではなく、留学を始めたばかりの私に気を遣ってくれているのかもしれないとポジティブにとらえました。
 そして理解してもらえるように次のミーティングまでに自分の意見を紙に纏め、当日メンバーにもし私の英語が聞き取りにくければ見て欲しいと伝える努力をしました。すると彼らの態度も変わり、意見を言いやすく聞きやすい環境を創ることができました。2年生になる頃には、授業で私のエッセイが例に使われるほど英語も上達し、評価されました。その時に私は留学生活において、ポジティブ精神が良い方向に導いてくれていると気づくことができました。
 そして同時にアメリカ留学2年目に、私は第2外国語の重要性を強く感じていました。理由は2つあり、英語が通じない人が世界にはまだ沢山いることと、英語を話すほとんどの人がネイティブではないからです。
 私には当時仲の良い留学生の友人がいましたが、彼も昔の私のように英語で自分の考えを伝えきれず、もどかしく感じているようでした。その時に、英語だけでは不十分だと感じ始めたのです。そして今、世界の英語人口のうち7割以上がノンネイティブと言われています。彼らにはそれぞれの母国語のアクセントがあり、違いはあれど英語を話します。私は将来一緒に働く人は、ノンネイティブの方が多いのではと考え、大学在学中に更に沢山の国の人と知り合い、共に学びたいと思い始めました。
 小学生の時に機会こそあったものの、中国留学に行かなかった私はその後悔にも後押しされ、わずか3日で台湾の大学への編入を決意しました。アメリカで中国語を学ばなかった理由は私が言語はその国や土地・文化・人々と深い繋がりがあると考えているからです。そして何より、言語は生ものです。学生時代だからこそ挑戦するべきことは沢山ありますが、私にとって現地に住んで直接感じることこそがまさにそうでした。国を跨いでの転学は分からないことばかりでしたが、日本台湾教育センターの郭さんが台湾の大学とのやりとりなどサポートして下さり、無事に台湾での大学生活をスタートさせることができました。

【授業以外にも力を入れた台湾での大学生活】
 約2年間全て英語で国際経済学を学ぶETPという学部に在籍しつつ、平行して力を入れて取り組んだことは2つあります。クラブ活動と中国語学習です。近年台湾が卒業旅行先や進学先として注目されるにつれ増える日本人訪問者を日本人学生が接待することに疑問を感じ、同じ考えを持つ学生と共に日本文化や日本語に興味のある現地の学生と日本人訪問者を繋げるため前代未聞であった日台合同サークルを立ち上げました。
 そこで特に心がけたのは、中国語でコミュニケーションを取ろうと努力したことです。私は中国語を台湾の大学へ転学後に一から始めました。将来的に何かと役に立つだろうと始めた中国語ですが、台湾人の友人たちは私が中国語で話すととても喜び、心を開き、成長を楽しみにしてくれていることに気が付いてから、もっと彼らと中国語でコミュニケーションを取りたいと思い始め、週3日の大学付属の語学学校に通い始めました。
 1年半後、私の中国語は日常会話に支障が無い程度にまで成長し、積極的にボランティア活動として中国人高校生のホームステイ受け入れ・通訳を引き受けるなど、中国語学習は私に新たな機会を与えてくれました。

【大学生活最後の挑戦、フィンランド】
 台湾の大学へ編入した当初は3年間在籍する予定でしたが、大学4年の1年は最後の挑戦として学位取得を目的とした交換留学を利用し、フィンランドの大学で学ぶことに決めました。
 きっかけとなったのは台湾の大学で出会ったヨーロッパからの留学生の学びに対する姿勢でした。ヨーロッパに一度も行ったことがなく、更に国際的な視野を広げるチャンスだと考え、高等教育で有名なフィンランドを留学先として選びました。世界一幸せな国として近年話題になることが多い国ですが、それ以外にも人口の大多数が英語をネイティブレベルで話すことができ、環境問題にも国を挙げて取り組むなど、経済学だけではなく、これからの先進国の在り方を考えるきっかけとなりました。
 現在、フィンランドの大学の学位取得のために論文を書いていますが、テーマはフィンランドと日本のエコパッケージを消費者心理の観点から考えることで、未来の継続可能なエコについて可能性を探るという内容になっています。これも、フィンランドに行かなければ気が付くことのできなかったテーマだと感じています。
 コロナウイルスにより、予定より早い帰国を余儀なくされましたが、この5年間の大学生活を海外で過ごすことができ、本当に良かったです。


パンデミックさなかの留学
~留学生が見た激動の2020年~

【フィンランドで体験したコロナ・パンデミック】
 就職活動のために年末に一時帰国し、年が明けてすぐにフィンランドに戻りました。1月頃から話題に挙がることが多かった新型コロナウイルスですが、イタリアを皮切りに瞬く間にヨーロッパ諸国にも感染が拡がりました。
 ミラノ病院で医師として働いている親友が感染した、親友の親が亡くなったなど、親族や親しい友人たちが被害にあったという友人たちの話を多く耳にしました。北欧で距離的にも比較的安全だろうと考えられていたフィンランドにも、確実にウイルスは拡まっていました。特に、2月下旬から3月初旬にかけて1週間ほどの春休みがあり、沢山の人々が旅行のため各国を行き来しました。国を跨ぐ移動制限が少ないことがEU域内の強みでしたが、コロナウイルスを更に拡めた最大の要因となってしまったように感じました。
 大学側はこれに対し、旅行先として計画している国々でコロナウイルスの感染が認められている場合は旅行を控える、または、帰国後に最短でも5日間自宅で授業を受ける必要があるなどメールにて生徒に頻繁に情報を発信していました。

【コロナ差別】
 状況が悪化するにつれて見えてきたのは、コロナ差別でした。5日間の自粛後に大学に来た友人には非難の目が向けられ、個人的にメッセージまで送られてくるなど、ここまで責められるとは思わなかったと話していました。
 そして、アジア人の友人たちは口を揃えて、食料品の買い出しでさえおっくうだと外出のしにくさを訴えていました。旅行者ではないにも関わらず、警戒の目で見られるのです。私自身、田舎でアジア人が少なかったからこそ、公共交通機関を使用する際など視線が気になる場面が多々ありました。だからこそ、乗車後に消毒液で手をこまめに消毒するなど感染拡大防止に注意した行動に努めました。

【昨日までいた友人が明日突然帰国する】
 そんな中、3月13日に私の大学はキャンパスを閉め、全ての大学スタッフと学生はオンラインで業務や授業に当たるようメールで一斉に通知しました。そんなこととは知らず帰宅中だった私にとって、この日が大学に登校した最後の日となりました。
 その後、EU各国は国境閉鎖を始めました。私の友人の中で一番早くに帰国したのはチェコから来た留学生でした。それからというもの、ロシア、ドイツなど国境閉鎖または、家族が心配だという理由で沢山の友人たちが一時帰国しました。多くの留学生たちは、再びフィンランドに戻ってくることを望んでいたため、アパートの契約も荷物もそのままにフィンランドを離れました。
 この状況に対し、大学は今学期中に授業を再開し、学生が集まってテストを受けることは現実的ではないと判断し、論文の発表までもがリモートで認められることとなりました。一方で私は、台湾の大学にそのままフィンランドに残るのか、帰国するのか、決定を迫られていました。本来であれば5月下旬に帰国予定だったので、状況がこれ以上悪くならない限りフィンランドに滞在しようとも考えましたが、日本側がヨーロッパ諸国に入国規制をかけ始め、また、他の日本人留学生たちが緊急帰国するよう大学から連絡が来ていると知ったため、今は帰国することが最優先だと考え、航空券を購入し半日で準備をし、3月中旬に帰国しました。
 帰国後も変わらず授業はZoomやTeamsを使って行われましたが、少人数の授業が多く、教授たちも発言や発表の機会を多く与えて下さったので、特別日本から授業を受けていて不便はありませんでした。残念な形で終わった5年間の留学生活でしたが、終わり方が悲しかったからといって、得たもの全てが残念な記憶として残るわけではありません。こんな時期だからこそ突然にも関わらず、引っ越しや荷物運びを手伝ってくれた友人たちの優しさを感じることが出来ました。ゆっくりとお別れを言うことが叶わなかったフィンランドとそこで出会った友人たちには、この状況が収まってから時間をかけて再会をしていこうと考えています。

【コロナ下での就職活動】
 帰国後、授業と平行して就職活動に取り組んでいました。本来なら6、7月の夏期選考が本命でしたが、所属している米国大学機構の就活アドバイザーに、今年は夏期選考がなくなる企業が多くなる可能性が高いと知らされ、早急に日本の大学生と同様の選考スケジュールに臨みました。
 留学組は、元々就職活動においてキャリアフォーラムなど、ほぼ全ての課程がオンラインで行われることが多いのですが、それでも直接的な説明会が少ないことから会社の雰囲気などが感じにくく、特に難しさを感じました。情報収集は全てオンラインで行い、質問や懇談会もZoomなどが使用されました。幸い私は、昨年の夏と冬に合同説明会に参加していたため、何社かOB、OGの方々と面識がありました。その際に伺ったお話とオンライン上で集めた情報を参考にしながら、私は「日本が世界に誇る高度な技術を持ってwin-winの関係を築き、社会に広く貢献することが出来る仕事」という就職活動の軸に沿って選考に挑み、大変有り難いことに、かねてから憧れていた技術系の日本企業から内定を頂くことができました。最終面接まで全ての選考過程がウェブ上で行われたのですが、こういった時期だからこそ、就活生と社員、そしてその家族の安全を第一とする企業の理念を感じられました。

【留学生の言語以外の強み】
 就職活動中に特に感じたことは、今、留学すること自体あまり珍しくないということです。企業側は、私たちが留学した・言語が出来るという事実以上に、どうして留学したのか、そして何を得たのかを重点に置き質問します。言語を頑張って習得した、馴染めるように努力したエピソードなどは、よくある話として印象に残りにくくなってしまいます。
 例えば、昨年の冬にボストンで行われたキャリアフォーラムには約3千人の最低でも日本語・英語の2か国語を話すことが出来る就活生たちが集まりました。言語やコミュニケーション力があることが大前提な中で、自分の更なる強みを理解しなければなりません。それより更にもう一歩を企業側は留学生に求めているのです。私の場合、一つの場所に留まることなく、3か国・地域で大学生活を過ごしたため、一つのことが継続できない性格とマイナス面として受け取られる場合もありましたが、その分挑戦し続ける姿勢や向上心を評価して下さった企業が沢山ありました。そして、留学生だからこそ、どうして外資系企業を志望しないのかという質問も頻繁に聞かれましたが、私は海外を通して日本をより客観的に見ることが出来たからこそ、日本企業で日本人としてこの国の技術を更に海外に広めたいと考えたからです。留学生ならではの気づきではないでしょうか。

【留学する事だけがゴールではない】
 あなたがもし今、留学を考えているのなら、留学後にどんな自分になりたいというゴールはありますか?私は、5年間という長い大学生活の中で「そんなに学んで何を目指しているのか」と聞かれることが多くありました。私は具体的に将来実現したいことが無くても、今から出来ることを頑張ることが重要だと考えます。つまり、今頑張ることは将来の自分の助けになるということです。
 私はこの大学生活を通じて、本当の意味での国際性は言語だけではなく、どんな土地でも対応できるコミュニケーション力と諦めない力だと身を持って感じることができました。必ずしもレールに沿った学生生活ではなくてもいいと思います。一番重要なことは後悔をしないことです。家で過ごす時間が多い今だからこそ、じっくり留学について考えてみてはいかがでしょうか。


「教育学術新聞」令和2年10月21日(水曜日)第2819号【4面】掲載

ウィズコロナ期の対応と将来の展望
~タイの大学機関への影響~

タイ私立大学協会会長
サイアム大学学長
ポンチャイ・モンコンワニット

 タイにおいても今年3月以降新型コロナウイルス感染者が増え始め、社会全体でこの事態への対応が迫られたが、大学機関もその例にもれず、現在に至るまで問題に当たってきた。幸い現在まで大きな混乱はなく、当初打ち出された様々な規制は順次緩和され、大学でも対面授業が可能になり、New Normalという新たな日常を取り戻しているのが現状である。

 タイでは新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない4月以降非常事態宣言が出され、いわゆるロックダウンが行われ、デパートを含めて飲食店などもすべて営業停止を余儀なくされた。幸い食品を扱う小売店舗や市場は時間短縮での営業が許可され、食糧調達には大きな支障をきたさなかった。一方で県境をまたぐ移動が規制されるとともに、夜間外出も禁止されるなど経済活動に大きな制限を受けた。
 4月末ごろまでにこれらの対策は感染者減少に充分な効果を得ることができ、業種別に徐々に規制が解除され、現在は一部に制限は残るもののほぼすべての業種で営業が許可されるまでになっている。新規感染者は5月以降も一けた台で推移したが、現在8月21日時点で2か月以上にわたり国内新規感染者が出ていない。わずかに海外からの帰国者の中に2週間の隔離期間中の検査で陽性者が出ているが、死者数も58人に抑えられており、感染拡大防止策は大きな成功を収めていると言うことができる。国内での新規感染者は報告されなくなったが、海外ではいまだに感染拡大が続いていることや海外からの帰国者から少数ながら一定数の感染者が継続して報告されていることから、外国人の受け入れに対しては依然消極的な意見が強いのが現状である。
 ところで、なぜタイではこのように新型コロナウイルス感染拡大を防ぐことができたのだろうか。この点に関してはいくつかの要因が考えられる。
 まず、タイ保健省は毎日その日の国内および国外の感染状況をテレビ報道で逐次報告し、さらに感染の防止策、国の政策についても情報を流し続けた。国民は報道で時々の状況を正確に把握することができ、心理的にも安心を得ることができたと考えられるが、これを可能にした大きな要因として、報道番組では政治家でなく保健省のウイルス感染拡大対策委員である精神科の医師が毎日直接国民に問いかけたことがあげられる。ロックダウンという厳しい状況を迎えたが、このような透明性のある情報提供により、国民は政府の指示に従って店舗を閉じ、不要不急の外出を控え、外出時は必ずマスクを着用するという今までなかった習慣が根付くこととなった。
 一方、上段で述べた通り経済活動が鈍ったことによりGDP減収が避けられない状況となっているのもまた事実である。政府は経済対策として3か月にわたり国民に給付金を支給し、タイ版の「Go To キャンペーン」も展開しているが、重要な収益である観光業、特にインバウンド観光は未だに外国人観光客の受け入れを認めていないため、すでに5か月近く収入の道を断たれたままになっており、観光関連産業の従事者は職を失う人が続出している。また外国からのビジネストリップも可能になりつつあるが、来タイ後は2週間の隔離施設滞在が義務づけられており、自由な行き来にはまだ当分時間を要すると思われる。流通については県外への越境が制限され、地方の産業も停滞するに至ったが、現在は改善されつつある。
 さて大学機関もまたこのような状況下で、いくつかの問題に直面した。第一には、対面授業ができなくなったことがあげられる。幸い3月から小中高では夏休みに入ったため、この点での大きな問題は回避されたが、大学はサイアム大学のみならず5月まで学期が続いたところも多く、3月中旬以降この問題への対応に追われることとなった。サイアム大学では、Zoom、MS Teamsなどを契約し、すべての科目をオンライン授業に移行した。移行期間はわずかに1週間しかなかったため、その間にオンライン授業に関する教員研修を行い、サポートを行ったが、短期間での導入を余儀なくされたため、授業準備に万全を期すことができなかったケースもあっただろう。そのため成績のつけ方への配慮を教員に要請した大学機関が多い。またオンライン授業の問題点についても様々な意見が出されており、総括により今後の改善につなげて行ければと考えている。
 オンライン授業を導入したことによって教員は新たな授業方法を開発した。その中でオンライン授業ならではの利点もあげられている。対面授業が可能となった今でも、New Normalという新たな日常生活のコンセプトに従った行動が求められる中、対面ではクラス内で密になる状況を避けることで感染を防止しつつ、適宜オンライン活動の利点を生かして新たな授業形態を取り入れていくことが教員には求められている。このことは授業活動のみならず、様々な活動においても同様であり、見方を変えればオンライン授業を経験したことで、教員側はさらにもう一つ引き出しを増やすことができたとみることができる。この経験を今後の授業をはじめとした様々な活動に生かしていくことがより好ましいのではないだろうか。
 第二の問題は、学生が金銭的な困難を抱えている点である。学生は長期間アルバイトができない状況に置かれ、さらに学費のスポンサーである保護者が職を失い収入が絶たれてしまい、学費にも困っているケースも多い。これは非常事態宣言によるロックダウンに端を発しているが、ロックダウンを解除した現在でも依然として厳しい経済状況が続いている。大学機関では、この状況を受け授業料の減額、一部・全額免除といった制度を設けるとともに、奨学金制度、貸付金制度を立ち上げ、経済的困難な学生が勉学を継続できるようできる限り配慮してきた。サイアム大学では前述の対策のほか、万一学生、教員が新型コロナウイルスに感染した場合の治療費を大学が負担する制度を設けた。
 第三の問題は、大学の各部署が行う様々なプロジェクトが運営できなくなってしまったことがあげられる。海外との交流事業はもちろんのこと、産学連携教育、様々な地域貢献活動、学術貢献活動のほとんどは中止せざるを得ない状況に追い込まれた。そのような中でもサイアム大学は、地域貢献活動として最寄りの鉄道駅等での殺菌ハンドジェル配布、健康相談窓口の設置、また食料の無料配布などを行ってきた。
 以上のような新型コロナウイルス感染状況下での感染拡大防止策とその後の問題への対策を行い、タイ社会はおよそ平静を取り戻している。産業界では観光業や輸出入業で大きな打撃を受けたが、食品や衛生品の分野は賑わいを見せている。今後は徐々に経済回復が期待されているが、まだ時間がかかるだろう。
 大学機関としては、IT技術を利用したオンライン授業など新しい形態の活動が定着してきたことで、授業活動のみならずその活用をさらに国際協力の分野にも今後生かしていけるのではないだろうか。海外の大学機関との協力体制を築き、様々な協力が国境をまたいで簡単に、しかも頻度を密にして行うことができるのではないかと提案したい。学術協力でも、例えばオンライン授業を海外から実施することも可能であるし、論文のアドバイザー業務も必ずしも行き来することなくオンラインで行うことができる。また海外共同プロジェクトの打ち合わせなどもより簡便に行うことができる。実際オンラインを使ったこうした交流は、技術的には新型コロナウイルス感染拡大以前からすでに可能になっていたが、今回の世界的な感染症拡大の状況下でオンラインを使った活動を余儀なくされたことで、この方法に対する精神的なハードルが下がり、今後の更なる発展の素地ができ上ったのは不幸中の幸いであり、見逃すことのできない重要なポイントではなかろうか。
 新たなツールを手に入れたことにより今後の国際交流が盛んになっていくことが切に望まれる。
(本稿は8月21日時点の情報)


「教育学術新聞」令和2年8月26日(水曜日)第2813号【3面】掲載

「未来の大学像」に向かって
~新型コロナウイルス感染症と韓国の大学運営~

韓国大学法人協議会名誉会長
韓国大学総長協会理事長
慶南大学校理事長
李 大淳

 韓国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急激な拡散は、大学教育の環境に至大な影響を及ぼしている。大学はかつて経験したことのない新型コロナウイルスに対する防疫管理および遠隔授業という学事管理に直面した。現地の様子について、韓国大学法人協議会名誉会長・韓国大学総長協会理事長・慶南大学校理事長の李大淳氏に寄稿してもらった。

【防疫管理】
 大学は、国家感染病危機警報段階格上発令にしたがって教育部から送付してもらった「新型コロナウイルス感染病関連学生マニュアル」を参考に自ら対策を立てて対応した。同マニュアルは「学校保健法」の規定にしたがって制定(2016年12月)されたものとして、保健福祉部が定めた感染病による国家危機段階(4段階)によって教育行政機関の対応の体系を提示している。主要な内容は ①大学内の自律的な感染病の管理原則を樹立し実行 ②大学内の感染病の管理組織および発生における監視体制の構築を勧告、したものである。
 大学現場の対応実態を新型コロナウイルス感染症の最初の集団発病地である大邱市所在の啓明大学校を中心として探ってみることにする。同大学は大学運営体制を非常体制へと迅速に転換措置をとった。総長と副総長ならびに大学本部の処長・室長等で非常対策委員会を構成し、非常対策委員会の傘下に実務対応委員会を設置した(表1)。

 同大学での主要な措置は次の通り。
 ▽感染病遮断のための部署別措置強化
 ▽校内の防疫に関する広報物の製作・掲示案内
 ▽校内の衛生用品(マスク・消毒剤など)配付・措置
 ▽隔離・予防措置(中国人留学生・中国訪問者等)
 ▽校内出入統制および監視強化
 ▽地域内行政機関との協助強化
 啓明大学校は大学附属病院である東山病院を新型コロナウイルス感染症の治療拠点病院として転換し、感染患者の治療に全力を尽くした。医師や看護師らの献身的な奉仕がテレビを通じて報道されるやいなや、全国の医師や看護師らが志願奉仕に集まって来ており、東山病院は熱い人間愛と奉仕者らの熱気に溢れる「愛の東山」となった。完治され退院する患者たちの嬉しい涙と、見送る医療人たちの甲斐のある微笑みをテレビの前で眺めていた国民は、新型コロナウイルス感染症に押さえられていた暗くて重い胸を大きく広げて、生活の活力を取り戻した。また全国に散在する国・公・私立大学の附属病院などが地域の限界を乗り越え、新型コロナウイルス感染症の克服に寄与した功績は韓国の医療史上に大きく輝くであろう。

【学事管理】
 新型コロナウイルス感染症に起因する大学学事管理の混乱を予防し、学期および単位取得などに関する教育法規の規制等に対する問題を事前に解決するために、韓国大学総長協会は教育部において学事運営に対するガイドラインを要請した。
 教育部は2回にわたって学事運営に対するガイドラインを提示し、大学が自律的に運用するよう措置した。ガイドラインの主要内容は次の通り。

 1.2020学年度1学期開始延期の勧告

▽学期授業日数の減縮運営

▽教科別授業日数および単位当り必須履修時間の調整

▽遠隔授業規制(20%)適用排除

▽中国滞留中である中国人留学生のための遠隔授業科目の設講拡大および一般科目遠隔授業の積極的活用

▽教育の質の担保のための出席認定に対する課題物の代替

 2.遠隔授業(オンライン)活用の学事運営方案

▽新型コロナウイルス感染症の事態が安定する時まで、登校に依る集合(対面)授業を止揚し、遠隔授業・課題物の活用授業など在宅授業を実施するよう勧告

▽具体的な施行方法は、教員・学生らの意見を収斂して自律的に決めて施行

▽大学の遠隔授業の教科目の設講およびコンテンツの構成や方式などは自律的に編成して実施

【大学運用の実態】
 啓明大学校は授業開始を2週間延期し、学事日程の変更を公告した。これに従って、卒業式・入学式・留学生教育プログラムが全て延期された。新入生に対しては総長の親書を送り、理解を求め、教職員らにも親書にて協助をお願いした。授業開始とともに遠隔授業を実施し、期限を延長して学期末までオンライン授業を実施することにした。但し、5月4日から大学院の授業や実験・実習・実技の関連科目は教室での対面授業を開始し、対面授業に参加する学生には防疫実践のための学生生活準則の履行同意書を提出してもらい、その実践を促した。

【教授学習開発センター】
 オンライン講義の内実化を図るために「教授学習開発センター」を設け運営し、授業用の映像制作および教授学習支援システムを通じて授業を運営した。オンライン授業の運営マニュアルを制作・配付し、運用に蹉跌が発生しないよう措置を取った。一方では、「教授学習開発センター」を通じ教授の授業力量を高めることに力を注いだ。
 ところが、地方の群小大学においては、このような支援センターが設けられていないため、オンライン教育の不実であるという問題が提起された。大学オンライン授業の実態を調査した結果は、表2の通りである。

 オンライン授業を実施した大学は、全193校中183校と94.8%に達し、その中でも3週間から4週間にかけて遠隔授業を実施した大学が158校と全大学の81.9%と主流を成し、新型コロナウイルス感染症の収束時まで実施を続けている大学が4校である。ともかく新型コロナウイルス感染症により韓国の大学は同時にオンライン授業を実施し、経験を積んでいる。

【オンライン授業の評価】
 オンライン授業の全面的な実施によって学習活動に大きな変化がおこっている。学習者が自ら時間を運用しながら「自己学習」を出来るようになり、動画・映像による講義を反復して学習出来ることで、より深く充実した復習が可能で自己学習の能力が大きく向上されることである。
 ところが、いくつかの課題も生じている。①オンライン授業実施の初頭は、大部分の大学において発生したサーバー問題、機器不良による接続不良などで画像教育の不実が露呈された。②教授の事前準備不足の授業およびコンテンツの不実が重なり、オンライン教育の不備が世論で悪化し非難を受けた。③オンライン講座のコマ数設定の混乱で試行錯誤を経た。④特にオンライン授業の安定性と学事運営の公正性の確保のため、韓国型オンライン教育のプラットフォーム導入が至急の課題となった。⑤オンライン教育の余波は、大学授業料の返還請求訴訟という新たな社会問題を台頭させ、キャンパス内の紛争の種を蒔いた。
 ⑤については、「登校していなかったので、大学施設の利用分に該当する金額は返還すべきである」という主張で、大学授業料の性格に対する法的な論争を呼び起こした。
 しかし、大学はオンライン授業の実施のための設備に多くの費用を支払ったうえ、学生数の減少による財源不足に苦しんでおり、また授業料の引き上げ凍結という政府の施策にしたがって数年間引き上げ出来ず、財政不足の危機に直面しているのが実情である。泣きっ面に蜂という授業料返還訴訟まで重なり、私立大学の運営は危機に直面している。韓国の私立大学に対する政府の補助金制度の確立が至急の課題となっている。
 新型コロナウイルス感染症による事態は、これ以外にも大学入試制度の変化を促進し、高校・大学の接続の側面から大部分の大学が現行の入試制度の修正を推進することとなった。一方では、企業の採用制度の変革をも促進している。一カ所に集めて施行する定期公開採用試験(筆記試験)を行えないことを奇貨に公採募集を廃止し常時採用に変更して、職業における力量と専門性を評価する内容に変化しつつある。大学卒業後、社会進路指導においても変化を予告する兆しと言えよう。

【展望】
 新型コロナウイルス感染症による事態は、大学運営の全ての分野にわたって変革を促し、大学は新たな方向を摸索する陣痛の真っ最中なのである。その中でもオンライン教育の必要性と当為性に対する共感が形成され、ポストコロナ時代においても対面授業(登校授業)と遠隔授業(オンライン授業)が併行するという混合授業―Blended Learning―が行われる見通しである。ある意味としては、大学教育の変革を促し「未来形の大学」の輪廓を露呈しているとみるべきである。今や韓国の大学も「未来の大学像」に向かって「自己革新」という課題を解決して行かなければならないであろう。


「教育学術新聞」令和2年7月22日(水曜日)第2810号【3面】
「教育学術新聞」令和2年8月5日(水曜日)第2811号【3面】掲載

ハノイ貿易大学から見た新型コロナへの対応
~ベトナムの大学への影響~

ハノイ貿易大学講師
ファム・クァン・フン

 全世界に広がる新型コロナウイルス感染症はベトナムにも大きなダメージを与えている。現在、ベトナムでは感染者が出ておらず、大学は通常の状態に戻っているが、ここではベトナムの大学はどのようにこの緊急事態に対応してきたのかを振り返る。ハノイ貿易大学のファム・クァン・フン講師に寄稿してもらった。

 2020年1月23日にベトナムの新型コロナウイルスの初の感染者がホーチミン市で確認された。23日から2月13日の間、感染者数は16人に上っているが、そのすべては感染の発生地とされた中国の武漢に関連があることがわかった。これは第1波となった。
 ベトナムの大学の旧正月の休みは概ね2月2日までの予定だったが、2月1日に、感染宣言が政府によって正式に発表されたことを受け、ほとんどの大学は休校の延長を決めた。当時、ハノイはまだ感染者が出ていなかったものの、感染拡大のリスクが高まるおそれがあったからとみられる。最初からオンライン授業に切り替えるわけでなく、状況を見ながら休校を続けるかどうかは各大学が判断した。3月になり、新たな感染者が出ない日が続き、感染症が収束したこともあって、ハノイ工科大学、ハノイ国家大学などを始め、3月の頭から授業の再開を決めた大学がでてきた。ところが、第2波が始まって、大学を含むすべての教育機関が再び休校にしなければならなかった。
 第2波が始まったのは首都ハノイで初めて感染者が確認された3月6日からである。第2波の感染が起きた1週間後の3月13日、教育訓練省が全国の大学にオンライン授業を実施しようという公文書を発表した。実はオンライン授業は新型コロナウイルス感染が発生する以前からも一部の大学で導入されている。ベトナム社会は電子政府、電子公サービスなど様々な分野においてIT化が力強く展開されている中で、2016年から教育訓練省はすでに「インターネットを通じた教育へのICT活用を規定する」通達を発行している。この下で、一部の大学がLMSと呼ばれるEラーニング学習管理システムを展開し、理論授業をオンラインにし、実習授業は対面で行われる方式を取り入れる。これらの大学はオンライン授業への切り替えに問題がなく、また通常状態に戻ったあとも、学期の最後までオンライン授業を継続する大学もある。
 同省によると、3月末までに、235大学のうち、オンライン授業を導入したのは98大学で、まだ全体の半分以下にとどまる。さらに、4月中旬に開かれた「新型コロナウイルス感染症における大学のオンライン教育」会議においては、この数が110校に伸びたという。大学形態別でみると、国公立大学が63校でその42.3%を占め、私立大学が42校でその70%を占め、5校は海外大学のベトナム校である国際大学となっている。同省はオンライン授業が一時的な対応策というより大学教育のIT化を推進する契機となるという姿勢を示している。

オンライン授業の在り方
 対面授業にかわり、コロナで休校になっている間、各大学は以下の3つの方式を取り入れている。第一に講義に使われる資料などはメールによって事前に送付された上で学生が自分で勉強すること。第二に、TEAMS、Zoomといったアプリで時間割通りにオンライン授業を実施すること。第三に、以前から導入されていたいわゆるblended learning方式の一部としてオンライン授業を行うこと。
 私自身はハノイ貿易大学で日本語の授業を担当しているが、これまでに一度もオンライン授業を行ったことがなかった。言うまでもなく外国語教育においては一方的な講義より学生と教員、または学生同士の相互作用が重要である。Eラーニングという言葉を聞いてはいるが、どうすればいいか、全くわからないのが実情であった。通常の授業が再開される目途が立っていない中、自分が配属している日本語学部ではオンライン授業を実施する方法が活発に議論された。Zoom、Google Classroom、Facebookなどいくつかアプリがあるが、教員によって利用する方法が異なる。
 Zoomの場合は大学の時間割の通り、授業を進めることができる一方、音声教材を使いにくいところがある。しかも在宅勤務の場合、コロナ感染防止のため学校に行けない自分の子どもの面倒をみなければならないため、決まった時間に授業をするのは難しい。さらにインターネットの問題でつながったり、つながらなかったりする問題もあると言われる。そういうことで、私は結局Google Classroomを利用することにした。Google Classroomというのは様々な形式で宿題を出すことができる上に、提出期限も設定できる他、コメントで学習者とのやりとりもできるという利点があるからである。このアプリを使いこなすためにそれほど労力がかからなかったが、学生たちがそれに基づいて真剣に勉強するかが心配である。しかし、実際は学生がオンライン授業を意欲的に受け入れてくれただけでなく、技術的には学生に教えてもらったこともあった。現在、通常の授業に戻っているが、復習のために、Google Classroomを使い続けている。
 一方で、大学側はオンライン授業を監督するために、使用のアプリを統一しようとしている。結果、著作権があるTEAMSの使用を奨励している。だが、実際は、TEAMSへ移行せず、教員と学生の双方が慣れてきたGoogle Classroomを維持することが認められている。教員からは、オンライン授業の方がずっと大変だとか、コンピュータ画面の前に講義をするとやる気がないという声がよく聞かれるが、貿易大学はこうしてこの3か月をなんとか乗り越えられた。教育訓練省は教員と学生の約9割が満足しているということを報告している。

大学入試への影響
 これまで、大学入試が7月のはじめに行われることになっていたのであるが、休校の間にオンライン授業が実施されても、小学校から高校までの終了期間は1か月半ぐらい遅れてしまい、7月の中旬となっている。その結果、大学入試も延長しなければならなくなっている。
 ベトナムは日本と違い、高校卒業のために、全国共通の高校卒業試験を受けることになっている。昨年までは高校卒業試験と大学入試が一体化し、国家共通高等試験と呼ばれる試験が行われてきた。ところが、今年は休校が長期化して、高校生の知識習得への影響が懸念されている。オンライン授業が多くの学校で実施されていたとしても、実施程度にばらつきがある。それを考慮し、同省は今年に限り高校卒業試験だけ行い、その実施期間を1か月遅らすことを決定している。といっても、大学の判断により本試験の結果を大学の入学選抜のために利用することが可能なのである。
 その他にこれまで同省と地方自治体が協力体制で行ってきたのと違い、今年の高校卒業試験は実施主体が地方自治体に移行されるという変更がある。その理由については、大学の入試関係業務の負担を減らすことがあげられるが、事実上、今年は、高校卒業試験のみで大学入学試験がなくなることになる。
 これにより、この試験の公平性が確保されるかという心配の声もある。当初、国立大学を中心に独自な入学試験を実施することを公表した大学もあったが、準備期間が十分でないためか、中止になった。結局、大学の入試選抜方法は基本的には大きな変化がないという結果になった。

大学の他の取り組み
 オンライン授業を実施すると同時に学生にサポートを行っている大学も多くある。授業料の5%から25%を減額し、学生に対する助成金を支給するのもその例である。さらにコロナ感染症の影響で親が職を失った学生に金銭的な支援を行っている大学もある。
 ベトナムの大学はコロナ感染防止においても積極的な役割を果たしている。ベトナム当局は感染防止対策の一つとして、海外から入国した人は全て14日間隔離しなければならないことを徹底している。隔離施設が不足している中、大学の学生寮も提供されている。3月26日までに5万3千人が入居できる28か所の寮が隔離施設に使用できるように用意されている。さらに、理科系の大学が感染防止に活用できる設備の研究開発に力を入れている。人工呼吸器の製造に成功したハノイ工科大学、全身除菌システムを開発するホーチミン市工科大学、遠隔検温器や運搬ロボットを安価に生産するダナン工科大学が注目されている。
 現在、幸いにもベトナムの大学は以前と同じような活動が完全に回復されている。この感染症で大きな影響を受けたのは学生側のはずであるが、大学の教師として強く感じたのは、困難を乗り越える若い世代のエネルギーであった。


「教育学術新聞」令和2年7月8日(水曜日)第2809号【5面】掲載

コロナによる大学教育のICT化の将来像
~卒業要件にオンライン授業を組み込めるか?~

学校法人谷岡学園法人本部長補佐
谷岡 辰郎

 教育学術新聞の記事(第2805号)によると、4月23日時点で、新型コロナウイルス感染拡大(コロナ禍)によって通常の対面授業を取りやめ、遠隔授業やオンライン授業に切り替えた(又は切り替える予定や検討)大学が98.7%である。これは3月24日に文部科学省が遠隔授業の活用を促すとともに、大学設置基準等の弾力的運用を通知したものによる。
 そもそも遠隔授業やオンライン授業は文部科学省の通知によってようやく検討されるようになったが、以前からそれぞれの大学では様々な工夫を凝らして運用されていたという経緯がある。
 このコロナ禍によって日本におけるICT教育の遅れが指摘されたが、その「遅れ」については二種類あることに気づかされる。最初の「遅れ」は、PCやタブレットといったICT機器や学内でのWiFi環境などといったハード面での「遅れ」である。近年私立の中学校・高等学校・大学で生徒にタブレットやノートPCを配布する学校も増加しているが、公立では一部の「スーパー」と冠が付けられた学校を除けばこういう取り組みは皆無に等しく、私学でも学生・生徒数の多いマンモス校ではなかなか難しいのが現状である。文部科学省ではいわゆる「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」を打ち出し、2019年12月にGIGAスクール実現推進本部を設置して1人1台端末(PC端末)及び高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとして令和元年度補正予算に総額2,318億円(私立には118億円)が組み込まれており、コロナ禍により整備が急がれている。
 第二の「遅れ」は大学のカリキュラムや学生・生徒のICTスキル、すなわちソフト面での「遅れ」であるが、こちらのほうが対処がより難しく、より深刻な問題であるのは現場の教職員が一番お分かりだと思う。
 今回この後者の「遅れ」への対処方法の一つについて、日本の大学と比較して話題にしたいのがアメリカの大学における以前からのオンライン授業の取り組みである。筆者は平成15年(2003年)~平成23年(2011年)にアメリカへ留学(学部と大学院)したが、留学時の最初のカルチャーショックはオンライン環境とオンライン授業の整備の度合いであった。筆者が学部留学したのは州立大学であるジョージア工科大学であったが、新入生オリエンテーションで一番驚いたのが卒業要件に「完全オンラインで行われる授業の単位を1単位以上取得する」という項目があったことである。日本で中等教育を受けた筆者にとって高等学校の「情報」の科目はPC教室でネットサーフィンをして、情報の先生に言われた通りにワードに文字を入力する練習をするだけの「遊び」であり、エクセルでのグラフ作成やパワーポイントでのプレゼン資料作成といったPC作業は全くといっていいほど経験のないものであった。そのような日本の高等学校を卒業したばかりの18歳学生がアメリカでの大学1年生としていきなりオンライン授業を受けることになったことがいかにショックだったかは理解して頂けるだろう。
 筆者が実際に1年生で受講したオンライン授業はアカデミック・アドバイザーに薦められた「HPS1040: Scientific Foundations of Health」という保健の授業で、大学の卒業要件にあった「Wellness Requirement(保健体育の必修科目)」と「Online Requirement(オンラインの必修科目)」という2つの卒業要件を同時に満たすことの出来る「美味しい」授業であった。当時はスマホもタブレットも存在せず、当然ながらZoomやTeamsといった会議アプリもないのでオンライン授業とはいえ双方向型の授業ではなく、PCへの「動画配信型」と「教材・課題提示型」を組み合わせた授業内容であった。このオンライン授業の受講と課題提出には当然ながら四苦八苦し、同じ専攻の友人に助けて貰って辛うじて単位を取ることが出来たのを鮮明に覚えている。ただ17年前とはいえ既にLMS(講義支援システム)が全学的に利用されており、受講したオンライン授業でも教科書以外の教材資料と動画のURLは全てがLMSに掲示されていた。日本の大学でもLMSを導入していた大学は多いが、全学的に授業で使用していたかという問いには自分の大学を見る限り甚だ疑問符を付けざるをえない状態である。日本ではコロナ禍でようやく大学の全学的なLMSのフル活用が半強制的に始まったが、これだけでもアメリカの大学より15年以上遅れているというのが実情である。現在のアメリカの大学では様々なMOOCs(Massive Open Online Courses)のプラットフォームに多くの有名大学が参加しており、今後さらにその動きは加速していくと考えられる。
 このコロナ禍から得られるものとして提言したいことの第一は、日本の大学の卒業要件に遠隔授業を組み込むことである。もちろん今年度の大学生はほぼ全員が何らかの遠隔授業を受講していると思われるので現時点で不要な要件ではある。しかし、日本においてコロナが収束したと仮定した場合、現在遠隔で行われている講義のほとんどは受講生を減らすか、広めの教室において密を作らない状態で再び以前の対面形式に戻ることが想定される。もちろん対面授業にはオンライン授業にないメリットが数多くあるので否定するわけではないが、少なくとも来年以降の入学生からは「4年間で1コマ以上のPCを用いた(スマホ受講ではない形式の)遠隔授業の受講」を卒業要件に入れてはどうかと考える。例えば初年次で履修することが多いと思われるメディア・リテラシーや情報リテラシーのような情報関連科目だと遠隔授業との親和性が高く、学生の遠隔授業やPC作業の習熟にもメリットがあると思われる。近年自分の授業で「キーボードが打てない学生」の多さに唖然とさせられていたが、遠隔授業で学生のPCスキルも上がればまさに一石二鳥である。
 遠隔授業や卒業要件の見直しについては、必要教員数なども含めた大学設置基準の大幅な見直しが急務であり、その際には国公立大学ではなく、学生数の大部分を担う私立大学の意見や要望を通して行くことが今後の高等教育政策として肝要であろう。


「教育学術新聞」令和2年6月24日(水曜日)第2808号【第5面】掲載

自宅でも楽しく学べるよう工夫
~モンゴルで広がるオンライン授業~

モンゴル文化教育大学
理事長   牧原 創一
日本語講師 甕 暁子

 新型コロナウイルス感染拡大がニュースになるや否や、まず何よりも、モンゴル政府の動きは迅速だった。モンゴル政府は非常事態宣言の下、新型コロナウイルスの発生源とも疑われる中国武漢はもとより、中国からの入国拒否措置を取り、国境封鎖、国際線全便運行停止、教育機関の休校、集会やイベントの禁止など、早急に防疫措置を講じていった。現地の様子についてモンゴル文化教育大学の牧原創一理事長と日本語講師の甕暁子氏に寄稿してもらった。

 モンゴルは人口が320万人と少なく、また、医療水準が低いため、感染爆発が起きてしまった場合対応しきれない恐れもあり、国内感染爆発防止対策を次々と講じて新型コロナウイルスの国内侵入を防いだ。5月22日までのモンゴル保健省の発表では、モンゴルにおいて国内の累計症例数は141人としている。その感染者の大半は、ロシア軍の教育機関に留学しているモンゴル軍関係者及びその家族だった。ただし、141人は全員が国外で感染してモンゴルに戻ってきた人達で、市中感染者はまだ1人も確認されていない。「1人も国内感染者を出さずに乗り切る」という、徹底した指針と対策のもと行動している結果、モンゴルでは未だに市中感染者ゼロという奇跡的な状況にある。
 これが功を奏して、中国とは約5,000キロにわたって国境を接しているにもかかわらず、未だに市中感染が発生しておらず、感染症例はすべて海外からの帰国者である。
 モンゴルは、幼稚園、小中高校、大学、専門学校、各種学校なども1月27日から休校となり、授業再開は9月1日からとしている。これに伴い、モンゴルでも全国的にオンライン授業が行われるようになった。小中高校生には、各テレビ局がそれぞれ学年を受け持ち、毎日テレビ授業を地上波で放送し、再放送や見逃し配信も行っている。
 ここでは大学のオンライン授業について、本学を例として少し紹介したい。オンライン授業が行われることが決まり、教員は試行錯誤しながら、準備し実行することになった。日本語の授業については、学年や科目の特性に合わせて、どのように進めれば学生たちにとってわかりやすいか、効果があるかを話し合いながら進めている状況だ。
 1年生の「総合日本語」という初級日本語の授業を例に挙げると、1年生は昨年9月に入学し、前期授業を終えたばかりで、まだまだ基礎の段階にある。そのため、TT(ティームティーチング)を行う日本人教員とモンゴル人教員で一緒に進めることとした。まず、日本人教員が文法事項の説明やイラスト、練習問題、課題のスライドを作成し、次にモンゴル人教員が文法事項のモンゴル語訳音声をつけ、Google classroomに載せる。学生たちはスライドを見ながら勉強し、練習問題と課題を教員にメールで提出する。教員はメールでフィードバックを行う。このように授業を進めるとともに、適宜オンラインで無料視聴できる会話教材やウエブサイトも紹介して、自宅でも楽しく学べるように工夫している。
 3、4年生は前期にスピーチコンテストの原稿作成や、卒業論文の執筆作業をメールで紹介して日本語で行っていたため、比較的スムーズに課題提出などができていると思われる。これはほんの一例だが、ほかにもチャットや動画配信、ビデオ授業、オンラインテストなどそれぞれの教員が工夫しながら学生たちとやりとりし、進めている状況にある。
 もちろん問題や課題もある。インターネットに常時安定的に接続することができない環境にいる学生も少なくなく、またスマートフォンはあるもののコンピューターがないために充分にオンライン授業に対応できない学生もいる。大学全体でのオンライン学習支援システムの確立、ICI機器導入なども、今後必要になると思われる。
 今回の地球規模での新型コロナウイルス感染症拡大の件で、私たち教育機関及び教員たちには教室での対面授業とはまた違ったスキルが求められることになった。この経験を、授業が再開したら教室対面授業とオンライン授業のそれぞれの長所を活かした教育につなげていかなければならないという大きな課題は残っていると言えるのではないか。


「教育学術新聞」令和2年6月10日(水曜日)第2807号【3面】掲載

新型コロナウイルスによる台湾の大学への影響

台北駐日経済文化代表処教育部長
黄 冠超

 100年に一度とも見ない新型コロナウイルスが地球規模で蔓延し、多くの国に重大な影響を及ぼしている。台湾では比較的初期より感染対策に取り組み、その封じ込めに一定の成果を上げている。しかしながら、大学教育の現場では次のような影響が生じている。

一、学期の延期
 台湾の大学は9月入学・始業制を取っており、1月中旬で1学期が終了する。それから2月中旬までの3週間程度が冬休みとなる。通常、2学期は2月中旬より始まるが、今年は新型コロナウイルスの影響により、各大学で授業の開始が延期となり、2月末より再開された。それゆえ今年の冬休みは5週間となり、台湾の大学史上最も長い冬休みとなった。このように2学期の開始は2週間遅れたのだが、18週の授業数に変わりはなく、夏休みを短縮して調整することとなった。

二、入国制限の実施 一時帰国した外国籍の学生が台湾へ再入国できず
 台湾の大学には約13万人の外国籍学生が在籍している。冬休み期間中は、ちょうど中華圏の旧暦の正月とも重なるため、中国・香港・マカオから来ていた多くの学生が一時帰国していた。ところが、2月初めより台湾が入国制限を敷いたため、約2万6千名にものぼる外国籍学生が台湾へ再入国できずにいる。

三、入試方法の検討
 2、3月は各大学で推薦入試が行われる時期でもある。しかし、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大を受け、濃厚接触を避けるべく、多くの大学では推薦入試の方法が見直された。離島の学生にはオンライン映像を用いての面接が実施されたほか、濃厚接触者と指定され自宅隔離の対象となった者、あるいは国外にいて台湾に戻ることの出来ない受験者については、学力テスト及び書類審査による受験方式での対応となった。

四、教育関連イベントの中止
 毎年2月末になると各大学は高校3年生を対象に、共同で「大学博覧会」を開催している。これは大学の説明会で、毎年多くの学生や保護者が訪れている。2003年にSARSが流行した際でも中止には至らなかったが、今年は新型コロナウイルスの影響を受けて中止となった。このほか、卒業旅行、海外研修などの課外活動も中止となっている。

五、授業方法の変更 オンライン授業の開始
 実際に台湾の大学においても新型コロナウイルスの感染拡大により、陽性者、濃厚接触者が発生した。教育省は、教職員・学生のうち2人以上の陽性者が出た場合、その学校には2週間学校の閉鎖を命じる。5月中旬までの時点で、6つの大学で当該事例が発生したため閉鎖となり、期間中は2週間のオンライン授業が実施された。現在、陽性者はいずれも退院し、先に述べた6つの大学でも登校が再開された。
 また、先に述べたとおり、入国制限の実施により、国外にいた一部の学生の中には現時点で台湾に戻ることの出来ていない者がいる。国立台湾大学では500人近くの学生が入国出来ていない。そのため、国立台湾大学ではそれらの学生のため3,000以上の課目で、オンラインでの受講が可能となっている。
 さらに、国立台湾大学では、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、受講者数の多い講義(60人以上の受講者がいる講義)は一律オンライン授業に改めることを決定し、全体の8分の1がオンライン授業となった。
 このたびの新型コロナウイルス禍の影響により、多くの大学において、一部の課目がオンラインによる授業へと改まったため、多くの教員が講義の内容、スタイルを新たにすることとなり、かえって教育の質の向上の一助ともなっている。

六、学費の減免
 教育省が提携銀行との間で実施している利息付教育ローンを利用している学生については、学生の経済的負担の軽減と、休退学といった事態に陥ることを避けるため、元金の返済を最大16年遅らせることで合意した。このほか、一部の大学では学費の減免や奨学金の充実が図られ、国立中山大学ではこの1年限定で学・雑費が3%減額となった。

七、おわりに
 このたびの新型コロナウイルス禍により、台湾の140の大学で授業の開始が2週間遅れることとなった。さらに2万6千人の外国人学生が台湾に戻ることが出来ずにいるほか、国際教育や交流の分野にも影響が生じている。台湾の各大学では、新型コロナウイルス禍の長期化や常態化を見込み、その後の各国の高等教育はより緊密な協力が必要になるとの見方を示している。それはウイルスの影響を受けない国際教育や交流の在り方の構築ともいえ、この新型コロナウイルスにより、台湾の各大学は国際教育についてその重要性を一層認識するに至っている。