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グッド・デザイン・カリキュラム

目標に向け学習経験を配置せよ
「グッド・デザイン・カリキュラム」を集める

 新しい本紙企画「グッド・デザイン・カリキュラム」では、平成30年秋に日本私立大学協会加盟大学に呼びかけたところ、全国から応募があった。この中から、他大学が参考にできる事例について、日本高等教育開発協会(JAED、佐藤浩章会長)に依頼し、3事例を選定して、同協会会員にその取材・紹介をしてもらった。
 文部科学省では、大学分科会に教学マネジメント特別委員会を設置して、各大学の教学改革を一層推進すべく審議を行っている。そこで本紙では、各大学で教育方針に基づいて設計されている「カリキュラム」について事例を募り紙面で紹介することで、各大学の参考にしてもらうことを目的として本企画を行った。
 本企画は、特徴的な授業を募集する企画「教授法が大学を変える」の後継であり、引き続き、JAEDに協力してもらった。平成30年秋に呼び掛け、同協会加盟大学から、東京薬科大学、東京都市大学、朝日大学、福山大学が応募、7事例が集まった。そのうち3事例についてJAED会員が取材して、報告してもらった。
 佐藤会長は、本企画の狙いを次のように述べる。「大学は4年間の合計124単位でどれだけ学生の能力を伸ばせたかで勝負しなければなりません。そのためには、緻密にカリキュラムを設計する(カリキュラムデザイン)ことが重要です。設計のポイントは、学生のニーズを踏まえて適切な目標を設定すること、効率的・効果的に楽しみながらその目標を達成できるように、学習経験を配置することです。それはあたかもジグソーパズルを組み立てるような作業です。今回はどのような学習経験をどの順番で配置するかに注目して選定させていただきました。
 デザインの世界では、"グッドデザインはロングライフデザイン"と言われます。よく練られたデザインであれば、確実に成果がでますし、トップが替わっても誰が教えても続きます。そのようなカリキュラムを目指していただければ」。

専門組織で不断の改善議論行う
朝日大学 経営学部

 組織概要

 岐阜県瑞穂市にキャンパスを構える朝日大学経営学部は、「社会性と創造性、人間的知性に富む人間の育成という建学の精神にのっとり、地域社会全体の持続可能性と国際未来社会を結びつけうる人材を養成すること」を教育理念として、437人の学生を育てている。ディプロマポリシーは「①ビジネスマインドを備え、地域と事業の発展に貢献し、組織の一分野を担いうる知識と技量を身につけている。②情報を活用して適切なコミュニケーションと意思決定を行いうる知識と技量を身につけている。③ソーシャル・キャピタルを理解し、実践的に経営に参画、挑戦できる企画力・実践力を身につけている」の3点にまとめられており、地域社会やビジネスの現場で活躍するための実践力を高めることに重きを置いていることがわかる。

 カリキュラム改革の変遷

 これらの理念や目標を達成するため、経営学部では2013年度からカリキュラム改革を始め、2017年度から現在のカリキュラムへと移行している。2013年以前は3学科を有し、多様な社会的ニーズに応えるために、多様な科目を複雑なカリキュラムに組み込んでいた。当時は、とにかく目新しいユニークな科目が学生募集に有効だと考えられていたためであった。しかし、3学科を2学科に再編することに伴い、これまでのカリキュラムを根本的に見つめ直し、問題を洗い出して解決していこうということになった。
 本当に学生のためになるカリキュラムとはいったいどのようなものかを真剣に考える場が必要という意思の下、「カリキュラム検討・運営委員会」を新設し、自由闊達な議論を重ねた。たどり着いた結論が、「地域社会に貢献できる」人材育成であり、経営に関する高度な専門資格への合格や高い就職率を実現するというアウトカム重視のカリキュラム設計であった。また学生の学力の多様さに対応し、個々の将来像に合わせた教育を、効果的かつ効率的に実現していこうというスタンスが明確になっていった。このスタンスを具現化したカリキュラムの特徴が以下の4点である。

 カリキュラムの特徴

 ①リストラクチャリングされたカリキュラム
 2012年には3学科あったものを、2013年には2学科、2017年からは1学科へと再編し、6つあった「学びの領域(コース)」を「会計・ファイナンス」「国際流通」「マーケティング」の3つに整理している。そして、それぞれの「学びの領域」ごとにカリキュラムマップを構築した。これにより、学生は何を専門とし、どのように学んでいけばよいのかがわかりやすくなり、教員も科目の位置づけを明確に理解できるようになっている。
 ②基礎演習を活用した「学びの領域」選択
 1年次は全学生が経営に関わる基礎を学ぶが、2年次以降は「学びの領域」に分かれて専門演習をはじめとする専門科目や、各領域を選択する学生の特徴に合わせた教育を受ける。この流れを円滑に機能させる仕掛けが1年次の通年科目である基礎演習にある。本科目では、将来を考えながら自分が専門とする「学びの領域」について考える機会を与えている。例えば、各領域のゼミ(専門演習クラス)に所属する先輩のプレゼンテーションを聞く機会がある。また、科目一覧の中から自分の興味に〇をつけ、「学びの領域」別のカリキュラムマップと見比べ、自分が選んだ科目が特にどの領域に多く含まれているかを確認し、自身が進むべき「学びの領域」を明らかにしていく時間も与えられる。各専門科目の内容やカリキュラムマップについて学生自身に理解してもらうよい機会となっている。
 ③ポートフォリオおよびルーブリックの継続的活用
 基礎演習や専門演習の中で、定期的に自分の将来や現状についてワークシートに記入し、ラーニングポートフォリオとして蓄積していく。このプロセスでは、「朝日大学経営学部社会的技量ルーブリック」も活用されている。本ルーブリックは、職業倫理、身体的技術、口頭表現術、書面表現術、チームワーク術、対人影響術、調査技術、数学解釈術、論理的思考術、問題解決術の10カテゴリー36項目の評価基準がまとめられたものである。毎年初夏に学生が自己評価し、1年間の目標を自ら立てる手助けとするものだ。この記入には基礎演習1コマがあてられる。評価のつけ方について「ガイドライン」をもとに教員が丁寧に説明したうえで、学生はワークシートに記入していく。ラーニングポートフォリオはクラス担当教員が保管し、専門演習に移行する際には次の担当教員に引き継ぐ学生のカルテとして機能している。
 ④豊富な「特殊講義」
 シンプルなカリキュラムへとリストラクチャリングした分、骨格のはっきりした教育が可能になった。しかし、学生のニーズや社会のニーズに迅速に対応していくためには、それだけでは不十分である。そこで、特殊講義と呼ばれる選択科目を豊富にそろえた。ここでは専門性の高い尖った内容の科目や、企業と連携した科目、社会の流れや学生の様子を踏まえて「今」必要であると考えられる科目を「カリキュラム検討・運営委員会」で議論し、毎年度更新している。

 カリキュラムマネジメントの特徴

 最大の特徴は、月に1回開催されている「カリキュラム検討・運営委員会」の存在である。本委員会は、各領域の責任者、これまでのカリキュラムづくりの流れを知るベテラン、これからの学部学科を担う若手教員ら10人で構成される。大学にはそれまで培ってきた継承すべき文化がある。一方で未来に向けて変えていくべき文化もある。この想いの下、領域の責任者のみだけでなく、これまでのカリキュラムを知るベテラン教員と、これまでのことをあまり知らない若手教員の双方を委員としている。本委員会は、フリーディスカッションを基本とし、各教員が持つ問題意識を共有、解決策を議論し創発していこうという場である。このなかで、全教員の科目シラバスが共有され、シラバスに対する改善要請や助言なども議論される。当然カリキュラムの在り方にも議論が及ぶ。これにより、各ポリシーに則り、科目の内容が有機的につながったカリキュラムがつくりこまれ、機能するようになっているのである。

 カリキュラム上の学修成果

 最も大きな成果は、高度な専門資格への合格である。特に公認会計士試験は、短答式試験および論文式試験合格者が2014~2017年度で21名を出している。2018年度の実績は、9名の現役合格を含む12名が合格し(合格率32%)、全国合格率11%と比べても大変優れた結果を残している。この要因として、高大連携を活かして商業に関する学びを深めたい学生を、入学時点で確保していることが挙げられる。この点はアドミッションポリシーにも示されている。加えて、先述した基礎演習を通じたキャリアイメージの明確化と、はっきりしたコース選択が挙げられる。ただ知識を持つだけでなく、資格取得に向けた主体的な意思を持ち、学内で必要な専門科目を受講するように学生を方向付けている。
 さらには、特殊講義として資格取得科目を配置することで、ダブルスクールしなくても現役合格できるようカリキュラムが工夫されている。また、強化サークルとして「会計研究部」が存在し、仲間同士で切磋琢磨できる環境、必要な学習施設・設備の提供、教員だけでなく地域の現役公認会計士によるコーチングなども行われ、学修支援にも余念がない。

 まとめ―ヒアリングを終えて

 本学部のカリキュラムは、専門領域別に何をどの順で学べばよいかという骨格を明確にすると同時に、社会や学生の状況に合わせて変化させる余地を残したバランスの良いデザインとなっている。そしてカリキュラムをマネジメントするための新設組織の中で、カリキュラム改革が実現した後も不断の改善議論が定期的に行われている点も評価される。今後の課題は、就職率や検定試験合格率だけではなく、ディプロマポリシーに対する学生の到達度を評価するなど、より多くの指標を用いた学修成果の評価やカリキュラム評価を実施し、カリキュラムマネジメントの議論に役立てていくことだろう。
 (京都橘大学 西野毅朗)

コンピテンス・コンピテンシーに基づき科目を体系化
東京薬科大学 生命科学部

 組織概要

 東京薬科大学は1880年に創設された、我が国初の私立薬科大学である。「花咲け、薬学・生命科学」を建学の精神に掲げ、「ヒューマニズムの精神に基づき」「人類の福祉と世界の平和に貢献する」ことを理念としている。薬学部のみの単科大学として歩んできたが、「急速に発展・拡大する生命科学分野の現状に合わせて、従来の縦割り的な学部の枠組みを取り払い、医薬理農工を横断した学部を設立する」というコンセプトから、25年前(1994年)に全国で初めての「生命科学部」を「分子生命科学科」「環境生命科学科」の2学科体制で開設した。生命科学領域の進展にともない、2013年からは「分子生命科学科」「応用生命科学科」「生命医科学科」の3学科体制に改組し、理工環境系に加え医薬系の学びを深める教育を志向している。「分子生命科学科」は遺伝子・細胞・脳などの生命を支える仕組みを理学と薬学双方の視点から学び、「応用生命科学科」では微生物・植物・動物・培養細胞などを基本に食品・医薬・環境・エネルギーへの応用を、そして「生命医科学科」では難病・癌などの病気の仕組みや、免疫、再生医療の最先端を学ぶ。現在、大学の機能は全て八王子キャンパスに集約されており、薬学部・生命科学部合わせて3600人の学部生・院生を育んでいる。

 「研究者・技術者・実務者」育成のための積み上げ式カリキュラム

 学部DPとして「生命科学分野を担う人材、分野における基礎知識と技能」「自己教育力」「他者との協働性」「論理的かつ柔軟な課題解決能力と態度」を持つ国際的人材の育成を掲げ、これらの力を身に付けた「研究者・技術者・実務者」の育成を目指す。その実現のため「卒業論文研究」を出口に配して「座学」「実習」科目を積み上げるカリキュラム構成をとる。
 1年~2年次前期には「生物学」「有機化学」「無機化学」「数学」「生命物理学」などの生命科学必修科目を履修し、2年次以降の専門科目での学びに向かう「知識」の基盤づくりを行う。それと並行して、1年次から、基本的な実験技術を身につけ「知識」活用のための「技能・態度」の醸成を図っていく。入学後、すぐに始まる「生命科学ゼミナール」は5~7名規模のクラスサイズで行われ、アクティブ・ラーニングやPBLを基本として、新入生のための今後の学びの基盤作りが行われる。このゼミでの担当教員が、学生にとっては向こう3年間のアドバイザーとなっていく。1年後期には、物理・化学・生物の各分野の「基礎生命科学実習」を履修、2年次には「基礎生命科学実習」において微生物・植物・動物を使った実験技術や有機化合物の取り扱いを修得。そして、3年次には学科ごとにその特徴を活かした「分子生命科学実習」「応用生命科学実習」「生命医科学実習」において、分野固有の「知識」を活用しつつより専門的な「技能・態度」を身に付けていく。
 この1年~3年の「生命科学実習」での学びは、物理・化学・生物の基礎的な実験手技を獲得するのみならず、知識獲得のための経験的なプロセスを理解する目的も持ち、それは教育理念として掲げる「研究者・技術者・実務者」育成のためには不可欠な能力となる。2年次には成績優秀者のための研究の早期体験制度「生命科学特別演習」を設定し、学習意欲の高い学生を実験・研究活動へ積極的に誘う仕組みも作っている。

 カリキュラムの改編に向けて

 25年前の学部開設当初から、このような「卒業論文研究」に向かう積みあげ式カリキュラム構成を採用しており、分野の進歩や薬学部の6年制への移行などに対応しつつ、開講科目や単位数、授業時間に変更を加え現在のカリキュラムに至っている。しかし、4年間の学びの質を担保する「卒業論文研究」の評価方法については、その妥当性や客観性に課題を有しており、抜本的な改革が必要とされていた。
 2016年に、AP事業「卒業時における質保障の取組の強化」に採択されたことを契機に改革への舵を切る。本事業では、大規模卒業生調査(2017年度に実施)等を踏まえ卒業コンピテンス・コンピテンシーを導入、それに基づき科目群を体系化し、アウトカム重視の教育と評価を実践する。事業自体の評価のためには、有識者、企業、自治体、高校教諭、OB・OGからなる外部評価委員会によるアセスメントを行い、具体的な改善策が見いだせる仕組みづくりを行っている。現在、本事業を発展する形で新カリキュラムを構成し、2020年の導入を目指している。
 新カリキュラムでは、学部の理念、DPおよび卒業生調査の分析結果をもとに、卒業時に身につける力として5つのコンピテンス(専門力/課題解決力/協働力/自己教育力/国際力」)を設定する。それを更に14のコンピテンシー(自己管理/計画/実行/コミュニケーション/周囲への働きかけ/情報収集/英論文読解/課題発見/課題解決/批判的思考・論理力/思考/文章表現/プレゼンテーション/ディスカッション/倫理観)に細分化し「卒業論文研究」ルーブリックを構成する。これにより、卒業時に「身につける力」を可視化するとともに学生と共有し、形成的な支援を基本としながら4年間の積み上げを評価していく。

 教育効果と効率を高めるための教材開発

 このカリキュラム改定に歩調を合わせ、教材開発にも余念がない。2017年には「基礎講義^n遺伝子工学」、2018年にその続編の「基礎講義 遺伝子工学」を刊行。どちらも、自習講義ビデオと演習問題を織り込むことによって、反転学習が可能である。さらに、新入生を対象とする「一般生物学」「生命科学のための物理学」「一般化学」、1~2年生を対象とした「生化学」「分子生物学」、3年生を対象とする「English for Life Science」の執筆も進行中で、新カリキュラム導入のタイミングで刊行する計画である。
 また、積み上げ式カリキュラムの柱ともいえる一連の実習科目では、各実習の実習内容の説明や実技の動画を録画・編集してビデオ教材を作成し、事前教材として学生に配布することにより実習内容とプロセスの理解を図っている。これにより、実習時間中の過剰な質問による時間の浪費と実習の質低下、授業を支援するTA間の実習内容の理解度のバラツキも軽減することができ、学生の手順理解や全体像の俯瞰に役立っている。

 カリキュラム上の学修成果

 生命科学部では、学部開設以来、進路決定率はほぼ100%を維持している。卒業生・修了生たちは、医薬品関連業種を主として食品、化粧品、化学、情報等、生命科学や関連した業種・職種に就き、大学での学びを人生の糧としつつ実践の場で活躍している。また、理工農医薬の領域での研究者育成を標榜する通り、学部卒業生の6割が大学院に進学し、さらなる専門性を追求している。

 ヒアリングを終えて

 入学時から始まる「知識」の階層的な構成、それに並行して展開する「技能・態度」醸成に向けた実習・演習指導の効果的な配列、そこに反転式ビデオ学習の導入や教材開発の具体が伴い、5つのコンピテンスと14のコンピテンシーとして学生に結実され評価される。
 「研究者・技術者・実務者」の育成を一直線に目指す明快なカリキュラム構成は、ステークホルダーたる学生やその受け皿となる学術・産業界にも説得力を持つ。学生視点に立ち「学び」を真摯に考え具体化し、それを魅力的なものとして実現しようとする土壌が、実践的人材育成に結実されているように感じる。
 (神奈川工科大学 伊藤勝久)

独自算出法で学修成果を可視化
福山大学

 組織概要

 広島県の東部に位置する福山大学。1975年に開学し、現在、松田文子学長の下、5学部(経済学部、人間文化学部、工学部、生命工学部、薬学部)14学科、大学院4研究科11専攻から構成されている(学生3777人、専任教員188人)。建学の精神は、「地域社会に広く開かれた大学として、学問にのみ偏重するのではなく、真理を愛し、道理を実践する知行合一の教育によって、人間性を尊重し、調和的な人格陶冶を目指す全人教育を行う」で、「地域の中核となる幅広い職業人の育成」をミッションとし、「地域から国際社会に繋がる"未来創造人"の育成」を目指している。

 カリキュラム改革とディプロマポリシー

 教育の特色は、2008年に、独自の全学的教育システムの構築を目指し「福山大学教育システム」を掲げ、人間関係を作りながら学ぶ「目標設定型教育システム」を導入した点にある。2015年に新たなミッションとして、「地域社会の発展への貢献」が加わった後の翌年には、2008年「福山大学教育システム」の改訂版を出している。「改訂版」では新たに、アセスメントポリシーの制定について学修者、教育者、教育プログラムの3つの視点から、それぞれの評価と改善(学生の成績評価、FDとSD、教育プログラムの評価)の方針がまとめられ、現行のアセスメントポリシーの策定の基盤となっている。
 「改訂版」が公表された2016年度に、既存のDP、CP、アドミッションポリシー(AP)を見直し、3つのポリシーが2017年度より施行されている。現行のDPは、次のとおりである(CPについては大学ウェブページ等を参照)。
 【DP】
 1. 人文・社会・自然科学など幅広い分野と専門分野における基礎的知識(活用できる知識)を修得している。2. 修得した知識・技能・態度を活用して、地域社会に貢献し得る実践力(創造的活用力・課題探求力・学修力・行動力)を身に付けている。3. 自己の向上と社会に貢献する意欲を有し、自由な発想で現実の問題に取り組む粘り強さ及び他者と協働して責任感と倫理観を持って行動できる力を身に付けている。

 カリキュラムの特徴

 2009年に導入した「目標設定型教育システム」に基づくカリキュラムにおいて、設定される目標は、「学生が何をできるようになったか」を示す具体的な「教育目標」=「学修成果」である。これは、知識・技能・態度を基盤とする「学士力」を卒業時までに養成することを目指すものである。「学士力の基盤となる知識<CODE NUM=00A5>技能<CODE NUM=00A5>態度の三つの力を引き出すのは学生の意欲であり、その意欲は強い絆で結ばれた人間関係の中で生まれる」との考えに基づき入学から卒業までに①大学生としての自立、②仲間同士の対話・自己発見、③地域社会への参加、④社会での自己実現、の4つのステップが設定されている。
 カリキュラム編成では、全学科で設定する大目標の「卒業時に備えている資質」を獲得するため、学年進行に伴う知識<CODE NUM=00A5>技能<CODE NUM=00A5>態度における種々の中目標を大きな一般目標(GIO:general instructional objective)としてそれぞれ設定し、その学習成果を得るためのGIOに基づいた授業科目群を配置し、各授業科目の到達目標として小目標を掲げている。カリキュラムマップには、各学科で設定した大目標、中目標および目標に到達するための授業科目群を示し、各科目の到達目標である小目標をシラバスで示すという構造である。各授業科目の小目標の達成度(学修成果)から中目標の達成度に繋がり、卒業時には大目標の達成度に繋がるカリキュラム編成によって、一連の学修成果が得られる仕組みである。

 カリキュラム・マネジメントの特徴

 カリキュラムの編成・実施・評価は、教務委員会が中心となり、全学の教育改革や改善を図ることを目的に2009年に設置された大学教育センターがこれに連携・協力している。カリキュラムの点検・評価には、学年進行ごとの学生のDPの達成状況の把握、評価および卒業時の学生のDPの達成度の把握、評価が不可欠であるため、学科レベル、全学レベルでDPの達成状況を確認し、教育プログラムを評価・改善できるよう、次のアセスメントポリシーが策定されている。
 【アセスメントポリシー】
 本学在学中の特定学期・学年修了時などに行う学生の学修成績に関する形成的評価とともに、卒業論文における卒論ルーブリック評価または試験による評価、ならびに予め定めたDPおよびCPに照らして全在学期間にわたる学修状況について行う総括的評価により、学生の学修成果を評価すると同時に、本学における教育の在り方の適切性を評価する。
 アセスメントポリシーに基づく評価方法は、DPに掲げられた資質修得度について、「学生レベル」「学科レベル」「大学レベル」の3つのレベルで、形成的評価・総括的評価、プログラム評価を行うものである。「学生レベル」の評価は、①科目の成績評価と②資質の評価の2つで行う(①はシラバスに記載された方法で評価を行い、卒業(課題)研究は、各学科で定めたルーブリックで評価(秀・優・良・可・不可の5段階)。②は、各学科の「学位授与の方針に掲げる資質(中項目)」の修得度(SGA:The Scale of ^nGoal Accomplish^nment)を算出し、レーダーチャートを用いて可視化している。各学科の「学位授与の方針に掲げる資質(中項目)」は、例えば生命工学部生物工学科の場合、学科のDPに基づいた「教養」「基礎的な科学力」「論理性」等を含む11の特性を掲げている(中項目の内容や数は学科により異なる)。この資質の修得度(4段階)は、授業科目の成績、修得単位数、各中項目との関連度から算出される。「学科レベル」の評価は、「学科の学位授与の方針に掲げる資質の修得度アセスメント表」、卒業時の「学科レベル」「大学レベル」の評価は、「大学の学位授与の方針に掲げる資質の修得度アセスメント(学科別卒業生、全卒業生)表」を用いて行われる。各表には、DPおよびDPに依拠したアセスメントの観点、中項目、基準値以上の学生の割合(4段階の達成度)等を記載する項目があり、各中項目に該当する達成度を算出し、表にチェックすることで学科および全学のSGAを可視化できる仕組みである。達成度の高い項目、低い項目が一覧化されることで、原因の分析や対応策の検討が可能となり、学科および全学のプログラム改善に繋げることができる。
 加えて、全学生を対象とした毎学期の授業評価アンケート調査、新入生、卒業生、企業を対象とする各アンケート調査だけでなく、学生による企画提案型の意見交換会(名称:「フクトーーク」)も毎年実施することで、ステイクホルダーの意見をカリキュラム改善に活かす仕組みを確立している。

 カリキュラム上の学修成果

 平成29年度卒業時アンケート調査の回答結果によると、「かなり向上した」「少し向上した」と答えた学生が「専門の知識・技能」は92・7%、「コンピュータによる情報処理能力」は77・0%、「一般的な教養」は80・9%を占めている。また、対人的な能力も、「他者を理解する力」が77・0%、「社交面(人間関係)での自信」が68・1%と、高い比率を示す項目が多いという結果となっている。

 最後に

 訪問調査時には、大塚豊学務担当副学長(大学教育センター長)、武田貢一学務部長を始めとする教職員の皆様に、取組内容を詳細にご説明頂いた。とくに、DPに基づいた資質をSGAとして算出、レーダーチャートとして学修成果を可視化する仕組みを学内教職員の尽力によって構築するという、これまでの成果をさらに前進させる着実な取組が印象的であった。今後、アセスメント表やレーダーチャートによって可視化された学修成果を用いて、教育内容や方法の調整、改善を図るというPDCAのステップをどのように進めていくと効果的かという具体的な知見の提供が期待される取組である。
 (関西福祉科学大学 久保田祐歌)