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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.116
本番を迎える認証評価制度―私大協の受け入れ態勢の課題 (上)

私学高等教育研究所主幹 喜多村 和之

 今年4月1日から学校教育法の改正が施行され、基準の細目等の関係省令も決まって、認証評価制度の骨格が出揃った。あとは2004年度からの新制度の施行を待つばかりとなった。日本私立大学協会も大学基準問題検討委員会において実行計画の策定を討議しているところである。
 2000年の私学高等教育研究所発足以来、同協会より「私学の特性に配慮した大学評価システムの在り方について」研究委託を受け、2002年10月にその「基本的考え方」を秋季総会に報告した(2003年2月発行『私学高等教育研究所シリーズ・第14号』に収録)。その際、われわれは、いくつかの重要事項についてはあえて結論的なことは差し控え、同協会の審議と意思決定に委ねるという方法をとった。それらはすべて当事者たる同協会の公明な審議と責任ある機関決定が不可欠な基本事項と判断したからである。われわれは従来の大学評価システムは国公立中心的であり、私学の特性を重視した新たな評価システムが不可欠であるという同協会の意志にそって、大学自身による自律的な自己研究・診断と新たな第三者評価との結合による新しい評価システムの構築が必要であると提言した。しかしその是非、内容、方法等は設置母体によって審議決定されるべきものとして、一二項目の論点を列挙した。そしてそのC項目で次のように指摘した。すなわち、「この新設される第三者機関が、国の認証を得る『認証評価機関』として申請するか否かは、その基本的性格を決定する重要な点であるので、設立母体による慎重な審議を通じて決定されるものとする」と。
 われわれの提案は、同協会の理事会、総会等において基本的に了承された。ただし第三者評価機関の設立の方針は機関決定されたが、「認証評価機関」に申請するか否かについては最終決定に至ってはおらず、まだ十分に審議がつくされているわけではない、というのが筆者の現時点での認識である。したがってこの最重要な論点について、今後慎重かつ本質的な論議をつくすべき余地が残されていると考える。
 第三者評価機関をつくるという方針が決定された以上、認証評価機関に申請するのは当然の前提だとみなしている向きも少なくないかもしれない。しかし、ことはそれほど単純ではなく、十分先をみすえたうえで慎重にも慎重を重ねて決定すべき問題であることを強調したい。
 そもそも大学は国の認証を受けた第三者評価機関による「認証評価」を受けなければならないとする「義務化」は、法令によって国公私にかかわらず全大学に強制されたものである。これは本来、私学の質の保証や向上は私学みずからの自律的な評価によって行うべきだとする同協会の趣旨とは矛盾するし、われわれの評価システムの精神とも相容れない方向である。とりわけ学生納付金に大きく依存している私学と、税金にその多くの財源を得ている国公立大学とを一律的かつ画一的に同じような評価の対象とすることには疑義がある。ましてやこれに従わない大学は法令違反として取り締まるということは、私学の独立性を無視するものである。この問題点については、筆者はつとに本欄で問題点を指摘してきた(特に本紙2002年10月23日付、11月20日付等参照)。
 第三者評価機関が「国の認証」を得なければならないということは、当初文部省や大学審議会の答申にはなく、総合規制改革会議の側からの要請で、文部科学省が妥協したものではないかと推測される。これによって国とは自由な立場からの「多元的な評価システムの確立」という大学審議会の構想(『21世紀の大学像と今後の改革方策について』1998)は、重大な制約を課されることになった。つまり大学は、国の「お墨付き」がない評価機関の評価を受けても、あまり意味のないことになってしまったのである。しかも評価機関が、文部科学大臣の認証を得るためには、適切な基準を制定し、ふさわしい方法や体制を整えたうえで、審議会の審査を経て、認証を得なければならなくなったのである。これでは「規制緩和」の方向とは逆行しているのではないか。
 なかでも最も肝心で困難なのは、評価基準の策定である。基準がなければ評価の事業を行うことができず、しかもその基準は審議会が承認する水準のものでなければならないと同時に、申請校にとって実行可能なものでなければならないからである。基準というものがいかに長期間にわたる試行錯誤や実験を通じてでなければ形成しがたいものであるかは、たとえば米国のアクレディテーションが100年の歴史を通じて現在でも不断の改訂を重ね続けていることからも推察できよう。評価基準の制定には慎重かつ柔軟な考察や、深い専門知識と経験を不可欠とするものであることは、いかに強調してもしすぎることはない。
 申請が受け入れられるためには、そのほかに評価の体制、方法、その他の諸条件の整備が不可欠であるが、仮に認証評価機関に申請して第三者評価機関に認定されたとしても、次には実現にともなう幾多の難題が待っている。むしろ課題はこれからである。
 第一に、評価機関設立に要する人的・物的・財政的資源をどう調達するかという問題である。いやしくも認証評価機関たろうとすれば、その実質を担保できるような種々の裏付けや準備態勢が整備されなければならないのは言うまでもない。
 評価事業を行うためには、単に量という人手があれば良いのではなく、評価という困難な課題を実行できる見識や専門知識や経験豊かな人材が少なからず入用である。たとえば国立大学を評価の対象としている大学評価・学位授与機構は、総勢120人余のフルタイムの定員を擁している。その評価研究部門には、20人近くの専門研究者がおり、数百人の大学評価の専門委員を抱えている。評価に精通した人材は絶対数が限られているのみならず、すでにめぼしい研究者は同機構にほぼ独占されているのが実情であろう。したがってそうした人材を得るためにはスカウトするか養成するかしかないのが現実である。
 国立大学100校程度の評価でもこれだけの陣容が必要だとすれば、私大協加盟校だけでも331校を擁する私大の評価にはどれだけの人材が必要になるのか。財団法人大学基準協会はこれに対して事務局長以下12名の事務局スタッフと、延べ数百名におよぶ委員がおり、民間団体としては日本では最大最古の評価機関だが、それでもその人的規模は国営の大学評価・学位授与機構の何分の一かでしかない。
 新しい事業をおこすにはヒトとともにカネが必要になる。新しい第三者機関を立ち上げ、これを維持していくためには、どのくらいの資金が必要なのか。大学評価・学位授与機構の予算規模はホームページによると事業費が平成14年度で年額約8.3億円である。これはすべてが評価関係だけの経費ではないが、半分としても少なくとも4―5億円の規模になるのではないか。人件費は公開されていないが、おそらく公務員150人の規模であれば相当な額になるだろう。これはすべて税金による負担である。
 これに対して財団法人大学基準協会は、正会員295校、賛助会員267校を擁するが(2003年4月21日現在)、ホームページによると予算は平成14年度で約3億円の規模である。収入約3億2800万円のうち会費収入が約2億6000万円で、人件費は約1億900万円である。
 新評価機関には新しい器が必要となる。大学評価・学位授与機構は最近東京都下の小平市に7階建てのインテリジェントビルを新設した。総工費は数10億円はかかったものと推測される。
 以上のことだけ見ても評価事業には大変なコストがかかるということが分かる。
(つづく)

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