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特集・連載

寄付募集戦略

〈上〉日本の寄付文化と寄付募集戦略

日本私立学校振興・共済事業団私学経営情報センター経営支援室   八木晶代

寄付に関する新しい動き 
 平成23年の税制改正により、学校法人に対する個人寄付について、新たに税額控除制度が導入された。また、本年1月には、文部科学省が「税額控除制度を活用した私立学校への寄附促進アクションプラン」を策定したところであり、同制度の積極的活用による個人寄付の拡大が期待されている。
 一方、寄付を集める学校法人の側でも、新しい動きが生じている。図1は、大学法人に対する特別寄付の用途別内訳を示したものである。以前は、特別寄付といえば、施設整備等の大型事業に対するものが中心だったが、近年、経常的経費への寄付が大きく拡大している。
 学校法人の募集する寄付が、特別な事業に対する協賛としてだけでなく、日常的な活動に対するサポートとしても注目されるようになってきたことがうかがえる。
 経常的経費への寄付は、施設整備などに比べると成果が見えにくいため、募集にあたっては、意義や目的、使途などを一層明確に示す必要があり、寄付募集の戦略性がポイントとなる。
 学校法人にとっては、税制改正等の追い風が吹く中、いかにして個人寄付を中心とした日常的なサポートを集めるかという寄付募集戦略を本格的に検討すべき時期に来たといえよう。
寄付文化はないのか
 寄付募集をしようと考えたとき、まずハードルとなるのが、「日本には寄付文化がない」という意識であろう。
 実際、平成19年に、東京大学と野村證券の共同研究の一環として全国の大学に対し実施されたアンケート調査では「寄付募集を実施したことのない理由」として28.1%の私立大学が「寄付の文化や寄付の重要性に対する社会の理解が醸成されていない」と回答している(東大―野村 大学経営ディスカッションペーパーNo.2)。この結果を見る限り、寄付を募集する前に日本の寄付文化のなさを理由に諦めている法人もあることがうかがえる。
 ここで日本の寄付文化について改めて考えてみたい。
 日本ファンドレイジング協会発行の「寄付白書2011」(経団連出版)によれば、米国の寄付総額対名目GDP比が過去40年にわたり2%前後で推移しているのに対し、日本は平成21年で0.4%に過ぎず、日本の寄付金市場は極めて小さいといえる。その理由は、これまでに宗教観、価値観、歴史、制度など様々な側面から論じられてきている。
 しかし、だからといって「日本人は寄付をしない」「寄付文化がない」といえるのだろうか。
 日本では以前から神社仏閣への賽銭や赤い羽根共同募金をはじめとする街頭募金など、日常的な寄付行為は存在している。そもそも、学校法人が「寄附行為」によって成立していることを考えると、学校と寄付がいかに密接な関係にあるかがわかる。
 また、昨年の東日本大震災の際には全国から多くの寄付が集まったことは記憶に新しい。
 さらに、震災時には著名人の高額寄付が数多くメディアに取り上げられたが、義援金以外でも、昨年9月に埼玉県の女性が地元の子どもたちのためにと市に1億円を寄付したり(読売新聞23年9月7日)、11月には、九州大学が元会社役員の男性から新講堂の建設費として数10億の寄付を受けることが報じられる(毎日新聞23年11月29日)など、話題になった高額寄付は少なくない。
 これらのことから、わが国でも、寄付が日常から遠い存在ではないということ、また、高額寄付を行う篤志家も少なからずいるということがうかがえる。「寄付文化がない」と決めつけてしまうのはあまりに早計ではないだろうか。
お願いをしない限り寄付は入ってこない
 欧米では、古くからファンドレイジング(寄付金集め)の原則として「NEVER ASK NEVER IN(お願いをしない限り、寄付は入ってこない)」という言葉があるという。
 それでは、日本の寄付募集団体は、これまでに「寄付文化がない」と言い切れるほど「ASK」をしてきただろうか。
 わが国でファンドレイジングという言葉が聞かれるようになったのはごく最近であり、従前は寄付を主たる財源の一つとしているNPO法人等でも組織的、戦略的に寄付を集めるという意識は乏しかった。
 欧米の多くの大学で、専門のファンドレイジングチームを組織し、学長や副学長も寄付集めに奔走しているのに比べると、日本では、特に個人寄付の場合、積極的にお願いをして回るというより、寄付をしてくれるのを待つという姿勢の方が強かったのではないか。
 もし、日本に寄付文化がないのだとすれば、それは、「寄付をする文化」ではなく、「寄付を集める文化」の問題と捉えるべきであろう。
 前述の九州大学の例では、寄付した男性は、同大学のOBではなく、教育支援に熱心だったことから、九大側が寄付を依頼して応じてもらったのだという。「ASK」をしたからこそ寄付につながった好例である。
 最初から諦めてお願いをしないことは、それだけ寄付の機会を逃していることになるかも知れない。寄付文化がないと諦めてしまう前に、寄付文化を自らが作るという意気込みで、まず、「ASK=お願いする」というアクションを起こすことが重要である。
「ASK」にあたって考えること
 寄付者に対して「ASK」をするときに、念頭に置かなければならないのは、寄付者にとって、寄付する先は数えきれないほどあるということである。「母校」といっても、小学校から大学まで一つではない人の方が多い。数ある寄付対象の中で、どこに、いくら寄付するかは寄付者次第である。
 寄付先として選ばれるためには、寄付者志向で募集戦略を考えることが必要である。
 寄付募集を行う学校は、在校生や卒業生と日常的にコミュニケーションをとることはもちろん、積極的に情報を公開して組織の信頼感を高めること、寄付者へのアプローチも個別の状況に合わせた最適な方法を選択すること、寄付者にとってより便利で簡単な寄付の方法を用意すること、寄付後も継続的な関係を築いていくことなど、寄付者の立場に立って、何を準備し、どうお願いすべきかを常に考えていかなければならない。
 また、経常的で長期的な寄付募集を考えるのであれば、単に寄付額の拡大だけでなく、卒業生の寄付率の向上を目指すことがポイントとなる。少額でも多くの卒業生から寄付がある大学は、それだけ卒業生の満足度や信頼度が高く、多くのサポーターがいるといえる。また、少額ならば継続的な寄付にもつながりやすい。毎年寄付をする習慣がついている寄付者がいれば、何かの記念として高額寄付をしてくれる可能性もある。さらに、税額控除の要件を満たす上でも寄付率の向上は効果的である。
 大学における戦略的寄付募集への取り組みは緒についたばかりである。まだ十分に寄付金集めの体制が整っていない、卒業生名簿すら整備できていない大学も少なくないと聞く。最初から100%を目指すのではなく、「NEVER ASK NEVER IN」をキーワードに、まずは出来るところから始めることが重要である。そして、多くの大学が最初の一歩を踏み出すことで、本当の意味での寄付文化が醸成されるのではないだろうか。
(つづく)