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特集・連載

地域共創の現場 地域の力を結集する

<43>京都文教大学
“共生”(ともいき)の理念で地域に貢献
結果にこだわり信頼関係つくる

宇治市は、京都府の南端、京都盆地の東南部に位置する。市域の西北側には京都市、西側は久世郡久御山町と隣接する。古来より百人一首にも詠まれ、宇治茶ブランドは全国的に有名である。宇治市以南に本拠を置く京都府南部地域唯一の大学として、京都文教大学(平岡聡学長、総合社会学部、臨床心理学部)が設置されている。日経グローカル誌の「大学の地域貢献度ランキング(2017)」では、私立大学では近畿地方で5位となった。地域での取り組みについて、平岡学長、森正美地域協働研究教育センター長、押領司哲也社会連携部フィールドリサーチオフィス(FRO)課長に聞いた。

●「ともいき(共生)」の理念を教育に

 京都文教大学は、文化人類学科(日本初)と臨床心理学科を設置して1996年に開学した。両学科の性質上、「現場で学ぶ」実習科目をカリキュラムの核としていた。2007年に文部科学省「特色GP」に採択されたことが、地域と連携した双方向協働プロジェクトをより組織的・積極的に行う契機となった。PBL、インターンシップ、ボランティア等を「現場実践教育科目群」としてまとめ、選択必修にして現場で学ぶなど、カリキュラムが整備された。2014年に平岡学長が学長に就任。「建学の理念「四弘誓願」を「ともいき」と現代的に言い換え教育重視を訴えました。地域との協働、教育研究の根幹に据えました」と当時を振り返る。同年、「京都府南部地域ともいき(共生)キャンパスで育てる地域人材」事業が、「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」に採択、2016年度からは「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+事業)」に参画し、雇用創生/若者定着に資する事業を強化してきた。
 具体的には、1年次の「地域入門(必修科目)」は、オムニバスに地域で活躍する地元中小企業の経営者、行政担当者、卒業生などを招く。2年次には、プロジェクト科目、地域ボランティア演習、地域インターンシップ等で地域に出る。3年次、4年次は、実習・演習卒業研究等の専門ゼミが始まる。「宇治や京都府の南部地域全体をキャンパスと捉えました。学生が地域に出ていき、逆に地域の方々に大学に来ていただきます。正課科目に加え、学生の正課外の活動も多数あります」と森センター長は教育の仕組みを解説する。学生の自発的なアイデアを応募してもらい、学内選考を経て活動予算が手当てされる「地域連携学生プロジェクト」は、2018年度には4つ進められる。学生の地域サークルもある。200人近くの学生が地域活動を継続的に行っており、この大学の地域連携プロジェクトは、正課、正課外を合わせると年間50以上にもなる。
 大学COC事業からスタートしたもう一つのプログラムが地域との共同研究制度である。「地域志向協働研究」、「地域志向教育研究」(両制度は「ともいき研究」と呼ばれる)は、地域福祉、保育、教育、まちづくり、観光、地域コミュニティ、防災など、様々な分野で行われる。最大の特徴は、地域から研究テーマを募集して教員とマッチングし、採択されると大学から研究費が拠出されることで、学生はその時々で関わる。
 大学のリソースを活かしつつ、産・官・民、各種団体等、地域パートナーと協働して地域課題に取り組んでいる。この制度が始まってから5年間で、実に80以上の研究が行われており、300人弱の市民が研究に参加している。これらは政策提言や行政の事業改善に生かされるとともに、公開講座や学内での教育、出版という形でもアウトプットされる。「教員の約4割が「ともいき研究」に関わっています。学生のみならず教員も、地域や行政の関係者と協働して、地域への関心を深めていきます。こうした顔の見える関係が学生を育てます」と平岡学長。

●京都文教ともいきパートナーズ

事例を紹介しよう。
 1つは、「宇治学」副読本の作成である。宇治市は、2012年から小中一貫校を市内で全面実施している。この中で、総合的学習の時間には「宇治学」を充てることとしていた。「そこで、本学の橋本祥夫臨床心理学部教育福祉心理学科准教授を中心に、市の教育委員会や小学校教諭と共に副読本を作成することになりました。教育学のみならず、『ジュニア京都検定』に関わっていた教員や観光学、フィールドワーク教育を専門とする教員も加わり、最終的には7学年分を作成しています」。この研究は、作成のみならず教育の実施やその評価まで一貫して行う予定であるという。
 また、毎年12月に開催する「ともいきフェスティバル」で実施する「ふるさと宇治検定」クイズ大会は、「宇治学」を学んだ子どもが問題を作り、クイズを受けるのも「宇治学」を学んだ子供たちである。「地域コミュニティの核として小学校が注目されています。子供の地域に対する意識が変われば、やはり地域全体も変わっていきます」と森センター長。宇治市教育委員会等から副読本印刷用予算が拠出されており、現在は科学研究費補助金に採択されてもいる。
 2つ目は、地域連携学生プロジェクトの一つ、「宇治☆茶レンジャー」である。学生が宇治茶について学び、気づきを地域に発信する。中でも2018年で9回目を迎える「親子で楽しむ宇治茶の日」は、宇治の子どもたちに宇治茶の魅力を引き継いでもらいたいという想いから続いている。森センター長は「宇治茶の販売店等から商品開発の相談もありますが、すでに様々なセクターで試みられてもいますので、基本的にはお断りをしています。それよりも、宇治茶の地域における子供たちへの文化継承や教育的観点からの普及を考えています」と述べる。
 「全国お茶まちづくりカレッジ」を立ち上げ、全国各地でお茶に関わる活動をしている地域の学生を集めて交流も行っている。「地元の高校なども含めて、お茶に関連した全国の大学教員同士も交流できる機会になっていて好評です」。
 そのほか、商店街の空き店舗を利用したサテライトキャンパス、国際協力、防災・減災、障がい者支援、教育支援、観光振興...宇治のソーシャルキャピタル向上に関する取り組みを行う。「メディアには多い時で1日1件掲載され、記者からは「今は何を予定していますか」という連絡もあります。また、地元紙「洛タイ新報」を発行する記者とは、子ども記者の活動も協働実施しています」と押領司課長。大学が人的・知的資源のハブになっており、交流拠点になっている。それが教育研究にも結びつけられている。
 2年次からの地域インターンシップにも力を入れている。これは、学生に協働する力、つまり「ともいき力」を身に付けてもらうことを狙う。2014年度に観光・地域デザインコースの学生を対象にスタートした。事前学習ののち、約2週間の現場実習を経て、報告会での発表、報告書を作成する。2016年度からは全学共通の正課科目となり、京都府、宇治市などの自治体や京都中小企業家同友会宇治支部や伏見支部と連携、臨床心理学部の学生向けの福祉、教育関係の受け入れ先も増加した。報告会には受け入れ団体・企業も参加、その際には「卒業後はぜひうちに」というコメントが後を絶たない。
 「京都文教ともいきパートナーズ」は、いわば地元中小企業を中心とした大学サポーターであり、京都府南部地域の地元企業事業所、行政経済団体と大学がともに学びあい、人材育成とマッチングを最適化することを目的としたネットワーク事業である。教職員で開拓してきた受け入れ先にパートナーになってもらい、組織対組織の関係を築く。カリキュラム構築に際してはパートナーに意見をもらって反映させる。「今後の深刻な人材不足を見越して地元企業にも危機感があります。パートナーの皆さんの人的資源としての大学にも注目されています。学生のために、と寄付金を拠出して頂けるパートナーもいます」と押領司課長は述べる。現在は60団体・企業が「京都文教ともいきパートナーズ」に参画している。

●資金調達も積極的に

 2010年には地元宇治市と包括連携協定を結ぶ。この経緯を森センター長は振り返る。「初めは宇治橋通り商店街でのイベント運営を通して、徐々に市との関係ができてきました。もちろん、市の委員会委員の委嘱依頼もありました。こうして実質的な連携関係ができたのちに、包括連携協定を結びました」。市からは、これまで遠慮して連絡しづらかったが、「とりあえず京都文教さんに1回電話してみよう」という関係になったと喜ばれた。様々な部局からの依頼は、市の政策経営部政策推進課に集中してもらい、大学への相談事をまとめてもらっている。宇治市は人口20万人に迫る都市だが、消滅可能性都市を訴えた「増田レポート」の発表後に危機感が高まっているという。特に同市では観光、教育や福祉の分野などでは先駆的な取組があり、大学も協力している。2015年には京都府、2017年には久御山町と包括連携協定を結び、現在も複数の自治体や機関との協定締結の調整中であり、京都府南部地域唯一の大学として自治体を巻き込みながらその拠点となりつつある。
 これらの取り組みを支えているのが、森センター長や押領司氏らのチームである。「地域との関係は突発的に起きるので、必ずしも計画通りにはいきません。それらを同時にいくつも抱えながら進めていくには、マルチタスク処理能力が必要となります」。各プロジェクトや取り組みを調整し、予算を獲得したり管理したりする。必要に応じて学内の教務や就職等各課に依頼して連携を行う。組織としても意思決定が早く、教職の役割分担も明確である。大変だが楽しい、と押領司氏。「楽しいからこそ、やりがいもあり続けられのだと思います」。森センター長も言う。「計画して協議しながら作っていくのでは間に合いません。まずは走りだして、その後に制度を整えていく感じですね」。
 ただ、これらの活動を展開していくには資金も必要だ。様々なセクターとの連携により行政の補助金などの獲得の努力は常に怠らない。また、資金の有無に限らず、必要だと思う新規事業については、関係者と協議し小さくできることから始めることを大切にしている。「細く長く続けることが肝要です。大学教育にはお金がかかります。中小企業の社長のように切り盛りしていますよ」と森センター長。また、森センター長の専門分野は文化人類学だが、1990年代には地域と連携したフィールド研究はまだ珍しく、これをテーマに科学研究費補助金に採択された。「学会でも文化人類学のあるべき姿として先進的だったと思います。また、民俗学、都市計画、防災などの研究者も関心を持っていただきました」。
 森センター長をはじめとするFROの最大の強みは巻き込み力であろう。その信条をこう説明する。「地域の皆さん、特に企業の経営者には時間を頂いて集まってもらったのですから、結果に対するクオリティにはこだわります。何か持って帰って頂きたい。ただ集まって話すだけという設定は失礼です。本当のニーズは何か、何をすれば学生が成長するのか、遠慮していては良いものが生まれません」。形式的な会議には容赦なくダメ出しをする。本音ベースで、腹を割って話さなければ、実りのある会議にはならないことは分かっている。会議の結果に対するあくなきこだわり、これこそが信頼につながっている。信頼関係があるから、「巻き込まれてみようかな」とも思わせるのであろう。また、地域の各セクターもお互いを知らない。大学は、各セクターが集まって繋がってネットワークを構築する場でもあるという。立場的に集まりづらい人同士が集まれるのも大学の特殊な性質の一つであろう。
 変わるのは学生だけではない。教員も変わる。地域の人々も変わっていく。卒業生もイベントを手伝ってくれるし、地域の人々は彼らを覚えてくれている。そして、大学と地域のつながりは太くなっていく。  森センター長はある高校教師に言われた言葉が忘れられないという。『文教に頑張って教育をしてもらわないと、高校としては困るのです。地域で必ずしも国立大学やブランド大学に行かない生徒が、地元で進学できるということは、教育格差の是正にも繋がります。本音として頼もしいパートナーだと思っているのです』。森センター長は続ける。「大学という場があることは地域に大きな役割を持っています。様々な取り組みを見ていると、重要なのは偏差値じゃないなと。在学中にいかに成長し、自信を持って卒業してもらえるかを大切にしています。アクティブに動き、どん欲に成長していく学生は、どんな大学にも一定数はいると感じます。地域の人々は、そういう学生が試行錯誤をする姿を温かく見守ってくれ、成長を一緒に喜んでくれます。そういう魅力のある地域なのです」と胸を張る。
 「ともいき」は、大学が自分たちの都合のみで地域に貢献するというものではない。互いに必要として、互いに考え実践して行くことで実現するものであろう。平岡学長が掲げた、ともいき人材の育成、ともいきシンクタンク、ともいきプラットフォーム...地域共創というこの連載のテーマは、京都文教大学では「ともいき」としてすでに地域に定着している取り組みなのであろう。